VWの排ガス不正/技術論と文明論(34)
技術評論家の星野芳郎氏が『マイ・カー-よい車わるい車を見破る法』(カッパブックス)を刊行したのが1961年であった。
個人にとって自家用車は文字通り高嶺の花と考えられていた時代である。
その後のモータリゼーションの進展は改めて言うまでもない。
現在、地方に在住するためには、クルマは必需品である。
並行して道路も整備されてきたし、現在も盛んである。
しかし2025年には団塊の世代の後期高齢者入りが完了する。
移動欲求が小さくなるとは考えにくいが、ドライバーの数は急減していくのではなかろうか。
モータリゼーションは自動車産業の隆盛をもたらした。
企業のみならず、自動車関連産業が立地するか否かは、地域の盛衰に大きな影響を及ぼしてきた。
自動車が誕生したのは1769年とされるが、ガソリン自動車が誕生するのは、1885~1886年である。
ゴットリープ・ダイムラーは4ストロークエンジンを開発し、1885年に木製の二輪車にエンジンを載せて試走、翌1886年に四輪車を開発している。
同じ1886年カール・ベンツがガソリンエンジンの三輪車を完成させて実際に販売した。
戦時体制時、ドイツではアドルフ・ヒットラーが大衆に対する人気取り政策として、“国民車構想”を提唱し、1938年にドイツの国民車として、フォルクスワーゲン・ビートルが誕生する。
ビートルは長期にわたり世界中で販売され、累計2000万台以上の生産台数を達成し、ドイツの国民車というだけでなく、世界的な大衆車となった。
私が若い頃、ビートルは一種のステータスシンボルだった。
その名門フォルクスワーゲン(VW)が、ディーゼルエンジン車に違法ソフトウエアを搭載して米国の排ガス規制を逃れていた。
同社は22日、同型エンジンを搭載した車両が世界全体で約1100万台にのぼると発表した。
調査や顧客対応にかかる費用として、第3四半期(7~9月)に65億ユーロ(約8710億円)を計上すると共に、2015年度通期の業績目標も見直すと表明した。
この問題では、米環境保護局(EPA)が18日に大気浄化法違反で最大180億ドル(約2兆1600億円)の制裁金を科す可能性があると発表したほか、米司法省も刑事捜査を開始した。独政府や韓国当局も調査の実施を表明するなど、影響が世界的に拡大する可能性が出ている。
VWの14年の世界販売台数は1014万台で、15年はトヨタ自動車を抜いて世界首位に浮上することが見込まれていた。
EPAによると、VWは違法ソフトを使って検査の時だけ排ガス浄化装置をフル稼働させ、窒素酸化物(NOx)の排出を基準以下に抑える一方、通常走行時は基準値の最大40倍のNOxを排出していたという。
VW:違法ソフトのエンジン搭載車 世界に1100万台
消費者向けビジネスの最大の価値であるブランドが失墜した。
VWの財務体質は健全で対応は可能とされ、市場では経営危機になるとの見方は少ないというが、信用を回復するのは容易ではないだろう。
環境政策への影響も大きい。
クリーンディーゼルは排ガスがきれいで燃費も良いので、エコなエンジンであるとされ、補助金を出して普及させようという政策が砂上の楼閣だったことになる。
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