無投票は安倍政権の「終わりの始まり」/日本の針路(226)
自民党の総裁選は、立候補を模索していた野田聖子氏が、推薦人を集められず断念し、安倍再選が確定した。
派閥の領袖がこぞって安倍再選支持を表明していたので、想定の範囲内のことであった。
野田氏は記者会見で次のように発言した。
このたび、総裁選実現のために出馬を目指しましたが、私の力及ばず、本日ただいま、総裁選への挑戦を断念しました。3年に1度の総裁選は、現状、事実上、総理を目指す国会議員の政治理念や政策を、広く国民の皆さまにお示しできる貴重な機会です。
今回私の思いにご理解を示してくれた同志の議員から、「民主主義では、全会一致の決議は無効である」との言葉をいただいた。さまざまな意見に耳を傾け自民党らしい自由闊達(かったつ)な議論ができる総裁選を実現したいという思いを、さらに強くし、全身全霊で取り組んできました。自民党にも多様な議員がいて意見があるし、その多様性が自民党の魅力であるはずです。
野田聖子氏が自民総裁選への立候補断念「力及ばす」
私は自民党員ではないので、総裁選自体はどうでも良いが、自民党総裁=首相だから安倍続投ということになれば、言いたいことはある。
これで安倍政権は盤石のものとなった、と言えるのであろうか?
私はむしろ、「終わりの始まり」と考える。
何故か?
カギは、野田氏が同志の言葉として引用した「民主主義では、全会一致の決議は無効である」である。
ユダヤの法では「全員一致の決議は無効」という話が、イザヤ・ベンダサン『日本人とユダヤ人』 角川文庫ソフィア(1971年9月)に紹介されている。
なぜ全員一致の決議が無効になるかといえば、全員一致の決議とは、外部から強い圧力がかかっているか、あるいは熱狂の中にいて勢いで決めてしまっているかのいずれかであるからである。
前者の場合は決議は無効、後者の場合は翌日もう一度決議をとる、というルールだという。
今回の選挙については、官邸と派閥の領袖から、きわめて強い締め付けがあったという。
安倍政権の焦燥が感じられるが、上記のように考えれば、「無効」ということになる。
実際は、予定調和のように安倍首相が続投することになるが、国会が開かれている最中に、テレビの翼賛番組に出演しているような人間が、長く政権を維持できるとは思えない。
日刊ゲンダイ9月8日
日経新聞の9月2日の社説は、総裁選に触れて次のように書いていた。
無投票再選に向けた一連の流れを通じて自民党の現状が浮かび上がってきた。無投票の是非よりもむしろそこに党の問題がある。
第1は党の活力の低下である。五大派閥が覇を競い、その合従連衡で総裁が選ばれていた時代と比べても意味はないが、政治はつまるところ権力闘争である。
権力を獲得するため個々の議員やグループがしのぎを削る中で党のパワーは生まれてくる。もちろんそのために何をしてもいいわけではない。大義名分、政策の一致が必要なことはいうまでもない。
時の権力に挑んでいくエネルギーが弱まってはいないか。「官邸翼賛会」と皮肉られても仕方のない現実が今の自民党にはある。
第2は人材の払底である。ポスト安倍をうかがうリーダー予備軍はどこにいるのだろうか。禅譲ねらいでじっと我慢も、ひとつの戦略ではある。しかし名乗りをあげないことには、はじまらない。
もっと深刻なのは派閥が壊れた結果、自民党には人材の養成システムがなくなったことだ。将来のリーダーを育てる仕組みのない組織に明日はない。
第3はそもそも自民党は何をめざす政党なのかという理念がはっきりしなくなっていることだ。
かつて山本七平氏は、昭和の無謀な戦争の開戦について、「空気」が決めたと喝破した。
⇒2008年4月28日 (月):山本七平の『「空気」の研究』
ちなみに、イザヤ・ベンダサンは山本氏の別名といわれる。
安倍一強という「空気」が自民党を覆っているとしたら将来はない。
日経新聞といえば、どちらかと言えば政権よりであろう。
この社説は正鵠を射ているように思われる。
つまり自民党に陰りが出ており、安倍政権の「終わりの始まり」ということである。
来年夏には参院選が行われる。
安倍首相は、衆参同時選挙は避ける意向のようだが、参院選は必然である。
しかし、どう考えても自民党は議席を相当に減らすことになろう。
安倍効果とでも名付けたいが、多くの国民の政治に対する意識が変わったのである。
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