鬼怒川氾濫と流域水管理の思想/技術論と文明論(33)
鬼怒川の濁流が、破堤した箇所から激しく堤内地側に流れ込む映像は衝撃的だった。
その根本原因は想定を超える雨の降り方であったことは間違いない。
降雨域が南北に帯状に集中し、しかも鬼怒川とオーバーラップしているのだ。
なぜ大雨…南北に帯状の雨雲が停滞
かつて全国総合開発計画で「流域圏構想」が考えられたことがあった。
三全総(1977年)は、ポスト「日本列島改造論」の計画として、高度成長から安定成長へ、そして田園都市・定住圏構想がテーマとされた。定住圏構想は水系に着目しており「流域圏」構想でもあった。 流域圏構想は、乱開発・高度成長への歯止めも意識したものであったという。しかし、三全総においては思想としては生活と環境との調和を掲げたものの、政策の実施に当たってはなお「開発・経済発展」の思想を引きずらざるを得ず、地方圏もそれを求めた。具体的には交通・輸送基盤や情報通信網が整備の重点とされた。結果的に、「流域圏」構想はごく一部の地域でしか実施されなかった。
なお、当時国土庁にあり全総に係わる下河辺淳によると、三全総の前から矢作川において取り組まれてきた活動にヒントを得て、国土管理上の重要なテーマの一つとして「流域圏」の概念を三全総にとり入れていったという。
・・・・・・
五全総(21世紀の国土のグランドデザイン、1998年)においては、バブル崩壊、人口減少時代の到来を見据え、底流の思想としては国土の「開発」から「維持・管理」へ軸足を移しており、「流域圏」の構想が提示された。その意味するところは、冒頭に記したとおりである。国土管理の色彩が強い。わざわざ「三全総の流域圏とは概念が異なる」と注記を付している。
Wikipedia
洪水にしろ水利用にしろ、水と土地は切り離せない。
水管理についても流域水管理という発想はずっと言われ続けてきた。
今回の対象域について見てみよう。
鬼怒川の水害、再発を避けるには「流域思考」が必要
利根川水系は下図のようである。
関東地方整備局
たとえば懸案の八ッ場ダムは今回の鬼怒川氾濫には、ほとんど効果がない。
利根川本川の洪水軽減に貢献するだけである。
⇒2013年1月 6日 (日):八ツ場ダムの治水効果/花づな列島復興のためのメモ(181)
⇒2009年12月 8日 (火):専門家による「八ツ場ダム計画」擁護論(4)八ツ場ダムの治水上の意義
ダムや堤防は重要ではあるが万能ではない。
やはり農地等を活用した流域の遊水機能を再評価する必要がある。
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