東芝の粉飾と原発事業の「失敗」/ブランド・企業論(37)
東芝の「不適切会計」(粉飾)問題が連日報道されている。
基本的には同社の企業統治が問題にされており、確かに大きな問題であると思う。
⇒2015年5月13日 (水):東芝に何が起きているのか?/ブランド・企業論(35)
⇒2015年7月14日 (火):東芝の不適切会計=粉飾決算の構図/日本の針路(196)
⇒2015年7月22日 (水):日本を代表する企業・東芝の実態/ブランド・企業論(36)
実体論的にみると、問題の原因に原発事業があるという見方が強い。
裏面史にも詳しい高野孟氏の見解を中心に見てみよう。
辞任した3社長のうちキーマンは佐々木則夫副会長。
東芝利益水増し1518億円 第三者委 社長辞任表明へ
佐々木氏は、原子力事業を東芝の主柱の1つにまで仕立てた功労者だ。
写真から受ける印象も、3人の中で最も「タフなやり手」である。
リーマン・ショック不況の中、09年3月期の決算では営業損益2,500億円の赤字を出したが、同年6月に社長となった佐々木は「15年度に原発事業の売上げ1兆円」と、得意の原子力を主軸に経営を立て直す大方針を打ち出した。この時が彼の人生の絶頂だったろう。その大方針が成果を上げ始める暇もない2年後、11年3月11日に福島第一原発の爆発事故が起きて地獄の底に落ちることになった。東京電力として最初の原発基地となった福島第一の1号機はGE、2号機と6号機はGE・東芝、3号機と5号機は東芝、4号機は日立が手がけており、ここは言ってみれば東芝・GE連合にとっての「聖地」である。それが吹き飛んだことのダメージは計り知れなかった。
・・・・・・
こうして、福島事故のA級戦犯の1人に列せられておかしくない佐々木だが、そうは簡単にはあきらめない。第2次安倍政権が誕生するや、13年1月には早速「経済財政諮問会議」の2人の民間議員に三菱ケミカルの小林喜光会長/経済同友会代表幹事と共に名を連ね、14年9月には小林と2人揃って「産業競争力会議」の民間議員に移り、それを通じてアベノミクスの「成長戦略」の中に原発再稼働と海外への輸出を柱として織り込むよう奮闘した。もはや「安倍と最も親しい財界人」となった佐々木は、13年6月には東芝の副会長になると同時に経団連の副会長にも就任し「次期経団連会長候補」に名を上げられるまでになった。
世に「原子力ムラ」と言われるが、その骨格をなすのは
1.電力会社や東芝はじめ原子炉・発電機メーカーなど産業界
2.経産省はじめエネルギー庁・規制庁など官界
3.東大工学部原子力学科を中心とする御用学者群
──の産官学のトライアングルである。原子力の裾野は広く、原子炉などの機器メーカーだけでなく、素材や部品をつくる鉄鋼・特殊金属メーカー、大規模工事を請け負うゼネコン、燃料の輸入や原発の輸出に携わる大手商社、それらの金融を受け持つメガバンクなどはみな広義での原子力関連産業であり、それは実は、ほぼそのまま、経団連の中心企業なのである。
東芝の粉飾決算は、「嫉妬」が生んだ原発スキャンダルだった?
経団連会長で多くの人に記憶されているのは、「財界総理」という称号をマスコミから与えられた石坂泰三と、メザシの朝食の土光敏夫であろう。
共に東芝会長だった。
石坂は、1956年に第2代会長に就き、1968年まで12年間会長職に君臨した。
土光は石坂から1代おいて、1974年から1980年までの6年間会長の座にあった。
戦後日本経済の最も輝かしい時期の財界トップを、東芝出身の2人が計20年間も占めていたのだ。
その後経団連会長職は東芝には戻っていない。
パソコン・半導体など軽電部門出身の西室泰三(現日本郵政社長/70年談話有識者懇座長)やその直系で次の次の社長・会長だった西田厚聡(今回相談役を辞任)などが画策したが、経団連会長にはなれなかった。
西室・西田からすれば、重電部門から駆け上がってきてしかも原子力で巨額損失を作りだした張本人である佐々木が、自分らを差し置いて財界トップの座を手に入れることだけは許せなかった、という経営陣内部の嫉妬狂いが、このスキャンダル暴発の一因だったと言われている。
東芝の粉飾決算は、「嫉妬」が生んだ原発スキャンダルだった?
「チャレンジ」という都合のよい言葉で粉飾を強いる姿は、中小企業と変わらないが、ドロドロした派閥争いは、スーパー大企業らしいと言えようか。
原子力ムラの崩壊=安倍政権の終焉は近い。
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