追い込まれつつある安倍首相/日本の針路(214)
終戦記念日の昨日、政府主催の全国戦没者追悼式が東京都千代田区の日本武道館で正午前から開かれた。
天皇陛下は、お言葉で「さきの大戦に対する深い反省」に戦没者追悼式で初めて言及された。
東京新聞8月16日
前日の安倍首相の「70年談話」でも反省は語られた。
しかし、お言葉の「平和を切望する国民の意識に支えられ」「さきの大戦にたいする深い反省とともに」は、今までのお言葉にはなかった表現であることに留意すると、現下の状況判断が浮かび上がってくる。
今敢えてこうした踏み込んだ発言をした背景は、政治情勢に対する懸念であろう。
象徴天皇としてのギリギリの線とも考えられる。
首相の70年談話は、首相の設置した「二十一世紀構想懇談会」の報告を受ける形で作成された。
しかし報告書自体が、木村草太首都大学准教授から次のように批判されている。
この報告書には、法の支配や人権尊重の重要性を説く点、過去の侵略に痛切な反省を示す点など、評価できる点もある。しかし、第2次大戦後の安全保障分野の見方はあまりに一面的だ。
例えば、湾岸戦争の財政援助が「国際社会に評価されなかったことは、日本に大きな衝撃を与えた」とあるが、この点で反省すべきは日本ではなく、適正な評価をしなかった国際社会の方ではないか、という考え方もある。また、イラク戦争への自衛隊派遣を積極評価する一方、その正当化根拠であった大量破壊兵器が発見されなかったことへの反省は弱い。
報告書の内容は総じて、軍事協力拡大の必要性を強調する一方で、それに伴うリスク(判断の誤りや、相手国の反発、自衛隊員や国民の負担など)について、あまりにも楽観的だ。もっと複眼的考察が必要だったと思われる。
安倍首相の戦後70年談話 間接的おわびの自己満足
そして、報告書がこれほど一面的な内容になってしまったのはのは、懇談会の構成員の人選にあるとする。
有識者の見解を自らの望む政策の権威づけの道具にしようとして、人選したからだ。
安保法制懇も、圧倒的な少数派である集団的自衛権合憲論者のみで構成されたので、批判が噴出した。
報告書の行方を懸念して、大沼保昭氏・三谷太一郎氏らが、戦後70年談話に「侵略」・「痛切な反省」・「植民地支配」等の明記を求める声明を出し、歴史や国際政治を専門とする多くのメンバーが名を連ねた。
政権支持率の低下や公明党からの要求で、キーワードは盛り込まれた。
しかし、談話の作成に携わった1人は「首相は本音は納得していないんじゃないか」との見方を示した。
首相を支持する保守派には、妥協に不満もくすぶっているという。
木村氏は、戦後70年談話が、単なる自己満足になったことは残念だとしている。
結局、「大山鳴動して鼠一匹」という談話にならざるを得なかったのは、追い詰められている証ではなかろうか。
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