安倍首相の「70年談話」を読む/日本の針路(213)
昨夕、安倍首相が「70年談話」を発表した。
TVで実況中継を視聴したが、入念に推敲を重ねたことが窺われ、談話という語感の直接性は感じられなかった。
安倍談話は、村山談話で「植民地支配と侵略によって、アジア諸国に多大の損害と苦痛を与えた」とした部分は引用しなかった。代わりに、「事変、侵略、戦争。いかなる武力の威嚇や行使も、国際紛争を解決する手段としては、もう二度と用いてはならない」と記述したが、侵略をどう認識しているかには触れなかった。「植民地支配」も「永遠に決別」と位置付けたが、韓国への「植民地支配」には踏み込まなかった。
「反省」と「おわび」についても、「歴代内閣の立場は、今後も、揺るぎないもの」とはしたものの、自ら「おわび」する形にはならなかった。将来の日本人に「謝罪を続ける宿命を背負わせてはならない」との表現もあり、「未来永劫(えいごう)、謝罪をするのは違和感を覚える」(11日、自民党の稲田朋美政調会長)という首相や首相周辺の持論を反映させたとみられる。
キーワードを盛り込み公明党や周辺国への配慮を示しつつ、首相の支持基盤である右派にも気を配る形になっており、談話作成に苦慮したことがうかがえる。
70年談話:安倍カラーを抑制 支持率急落受け軟化
全体的な印象としては、口では反省しているものの、本心としてどうなのか、という感じが拭えなかった。
当初、首相には「侵略」などの表現を盛り込む意図はなかったはずである。
「(村山談話を)安倍内閣としてそのまま継承しているわけではない」とし、その後「全体として引き継ぐ」と修正したものの、「もう一度書く必要はないだろう」とも語っていた。
しかし、安保法案審議の過程で内閣支持率が急落した。
憲法学者3人が衆院憲法審査会で、法案を「違憲」と発言した。
⇒2015年6月 5日 (金):憲法学者が安保法案にレッドカード/日本の針路(172)
⇒2015年6月 9日 (火):憲法審査会への対応で、反知性主義が露呈した/日本の針路(176)
また自民党若手勉強会での報道威圧発言問題なども起きた。
⇒2015年6月26日 (金):亡国の自民党「勉強会」の中身/日本の針路(185)
⇒2015年6月27日 (土):言論の自由を蹂躙する狂気の安倍応援団/日本の針路(186)
政権運営に公明党の協力が必須の情勢となり、公明党の山口代表との会談で、「歴代内閣の談話を継承した意味が、国内外に伝わるものにしてほしい」と注文された。
結果的に、引用の形で「おわび」を盛り込む形になった。
そのような経緯があるため、心に響かない「反省やお詫び」になった。
「事変、侵略、戦争。いかなる武力の威嚇や行使も、国際紛争を解決する手段としては、もう二度と用いてはならない」と書いたが、一般論であって、当事者としてどう捉えるかが明確ではない。
そのため、安保法案との関連性も説明していない。
東京新聞8月15日
仰々しく「二十一世紀構想懇談会」へ諮問し、報告を受けたにしては、内容空疎な印象と言わざるを得ない。
結局、舌先三寸でやり過ごそうというところが見え透いているからだろう。
「武力の威嚇や行使も、国際紛争を解決する手段としては、もう二度と用いてはならない」という憲法の文脈と、立憲主義を口にしながら歴代内閣の積み上げてきた解釈を敢えて変更して、集団的自衛権の行使を容認しようという立憲主義を否定することの論理的関係が、矛盾したままであると感じるのは私だけではないだろう。
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