法治国家であることを放棄した政府・与党/日本の針路(197)
安保法案について、安倍首相自ら、「国民の理解が進んでいないのも事実」と言いながら、与党だけで衆院本会議で可決した。
審議など最初から眼中になく、予定調和のように時間を費やしただけ、ということであろう。
審議を続ければ続けるほど、矛盾が出てくる。
集団的自衛権を認める「存立危機事態」について、政府は「日本攻撃の意思が認定できなくても存立危機事態に認定できる」とし、自衛の措置としての集団的自衛権という説明からどんどんずれて行っている。
政府の憲法解釈を担当する横畠裕介・内閣法制局長官は19日、安全保障関連法案を審議する衆院特別委員会で、国際法上の集団的自衛権と、安倍内閣が主張する「限定的」な集団的自衛権の違いを「フグ」に例え、「毒があるから全部食べたらそれはあたるが、肝を外せば食べられる」と答弁した。
他国防衛を目的とする包括的な集団的自衛権は違憲となる一方、「限定的」な集団的自衛権なら合憲という趣旨だが、厳密な法解釈を行う立場の法制局長官が、こうした例え話を持ち出すのは異例。法案への理解が広がらない現状の裏返しと言えそうだが、長官経験者からは「好ましくない」との批判も出ている。
民主党の寺田学氏が、政府がこれまで集団的自衛権の行使を違憲としながら、憲法解釈を変更し、「限定的」なものとして容認したことについて、「腐ったみそ汁の中から1杯とっても、腐っているものは腐っている」とただした。
横畠氏は「例え話をされたので」と切り出し、「(集団的自衛権が)毒キノコだとすれば、煮ても焼いても食えないし、一部をかじってもあたる」と答弁。さらに、「じゃあフグかもしれない」と続けた。
内閣法制局は、内閣が出す法案などを審査したり、法律問題について首相や大臣に意見を述べたりする内閣の一部門で、長官は通常、憲法や法律についての厳密な答弁が求められる。今国会では、過去の憲法解釈と今回の安保関連法案との整合性が問題になっており、横畠氏が答弁に立つことが多い。
横畠氏の答弁について、法制局長官経験者の一人は「法律論は政策論と違う。例えを出すのは正確性を欠くことが多く誤解されるおそれもある。条文を離れ、『例え』でやることは好ましくはない」と話す。政府関係者も「ここまでくだけた例え話は異例だ」と述べた。
「集団的自衛権はフグ」 法制局長官が異例の答弁
まあ、首相のアソウクンだとかスガさんといった例え話よりは的を射ているかも知れないが、国会答弁としては非常識であろう。
政府は、集団的自衛権が合憲であることの根拠として「砂川判決」を挙げる。
しかし1959年の砂川事件最高裁判決は、日本が主権国家として固有の自衛権を持つことを認めたもので、1972年に政府は「(個別的自衛権は認められても)他国への武力攻撃を阻止する集団的自衛権は憲法違反で認められない」との見解を示した。
同じ判決から全く逆の結論を導き出しているのである。
先月4日の衆院憲法審査会で、自民党推薦の参考人として安全保障関連法案を違憲だと指摘した憲法学者の長谷部恭男氏(早稲田大大学院教授)。
⇒2015年6月 5日 (金):憲法学者が安保法案にレッドカード/日本の針路(172)
長谷川氏は、、「立憲主義の危機が深まった」と安倍政権を批判する一方で、「国民が法案に問題があると気づき始めており、悲観するのはまだ早い」と語った。
政権の存在自体が、立憲主義を脅かしているのではないでしょうか。政治権力が好き勝手に振る舞えないよう憲法で拘束する、というのが立憲主義の最低限の要請です。安倍政権は憲法改正の要件を緩和しようとし、人事権を振りかざし、違憲かどうかのチェック機能を担ってきた内閣法制局を言いなりにさせようとした。つまり、憲法の拘束を外そうという試みです。立憲主義への攻撃と言っていい。その結果、明らかに憲法違反である安保法案が出てきたわけです。
安保関連法案:「国民が問題あると気づいて…」長谷部氏
憲法の名宛人は権力者であるという立憲主義の論理が分かっていないのではないか。
⇒2015年6月27日 (土):言論の自由を蹂躙する狂気の安倍応援団/日本の針路(186)
立憲主義を否定したのでは、もはや法治国家とは言えない。
中国や北朝鮮のような独裁国家と類似である。
首相に近い参院議員の一人は「消費税や年金と違い、国民生活にすぐに直接の影響がない。法案が成立すれば国民は忘れる」と言い切る。
安保法案「成立すれば国民は忘れる」 強行採決の背景は
もし本当にこんな風に考えているとしたら、大きな誤解だ。
国民をなめている。
法案に反対の多くの国民は、暴挙を忘れはしないだろう。
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