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2015年7月12日 (日)

「文化芸術懇話会」におけるリベラルアーツの欠落/日本の針路(195)

石破地方創生相の「なんか自民党、感じが悪いよね」と国民の意識がだんだん高まっていったときに危機を迎えるのが私の経験だという言葉はその通りと言うべきであろう。
ただし、軍事オタクの石破氏も「嫌な感じ」の代表格ではあるが。

国民が広くそういう感覚になりつつあることに関しては、 安倍首相に近い自民党議員の勉強会「文化芸術懇話会」の功績(?)が大きいだろう。
勉強会は有志議員が集まってできたものだが、首相の「応援団」を意図したものであることが深刻である。

 そもそも、懇話会の目的は「保守思想の発信」にあった。懇話会代表の木原稔青年局長(当時)は周辺に「保守的な国家観や政策を国民に理解してもらうため、国民の心に響く言葉を学びたい」と語っていた。憲法改正に反対する「九条の会」を意識し、作家の大江健三郎氏や作曲家の坂本龍一氏らに対抗できる保守的な文化人を発掘することも念頭にあった。
 しかし5月初旬、党内にリベラル系の若手議員が「過去を学び『分厚い保守政治』を目指す若手議員の会」を立ち上げたことで、「首相応援団」の性格が一層強まった。
 9月の総裁選を無投票で乗り切りたい首相側はリベラル系の動きを警戒。首相側近の加藤勝信・官房副長官と萩生田光一・党総裁特別補佐が「顧問格」で入り、懇話会の人数集めに加わった。
 議員の一人は、萩生田氏から直接「総理の応援団になってほしい」と誘われ、「光栄です」と即答。「総理の応援団に入れてもらえると言われ、うれしかった」と振り返る。6月25日の初会合には37人が集まったが、参加者の一人は「『首相がついた勉強会だ』と思い、浮ついた気持ちがあった」と話す。
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「首相がついた勉強会」浮ついた発足 処分巡り党内火種

まあさまざまな考え方があるのは悪くないが、ノーベル賞作家の大江健三郎氏に対抗するのに、いくら首相に近いとはいえ百田尚樹氏を担ぐところに、質が問われることにも気がつかないのだろうか?
百田氏は、「シナリオライターとして画面の向こうの視聴者に働きかけるテクニック」の持ち主として評価されたのだともいう。
設立趣意書は「心を打つ『政策芸術』を立案し実行する知恵と力を習得する」ことが会の目的とあるという。

 「この政策芸術という言葉を聞いた瞬間に、アウトだと思った」と言うのは、文化批評にも定評のある千葉雅也・立命館大学准教授(哲学・表象文化論)。国が特定の価値観に基づく芸術文化を推進してはいけないことは「文化史の常識」だが、「政権側の人たちは、そうした常識に抵抗したいのではないか。ナチス・ドイツがモダンなものを『退廃芸術』と呼んで排除し、保守的でわかりやすいものを推進したことを想起させる」と話す。
 ナチスは国民の支持を得やすい政策的主張や政治手法を徹底的にマーケティングした。そして、その調査の「成果」を、文化・芸術の観点から、言葉の選択や演説方法、旗や制服のデザインなどにまで反映した。「『ユダヤ人が悪い』といった極端に単純化された政治的スローガンもそうした手法から生まれた」。音楽や文学に造詣(ぞうけい)が深い片山杜秀慶応大学教授(政治思想史)は言う。
 戦後は価値観が多様化し、多くの情報が手に入るようになった。成熟した民主主義社会では、宣伝技術で政治を単純化する手法は通用しないと考えられてきた。だが21世紀になって、再び力を得ようとしているのではないかと片山氏はみる。
 経済や自然科学など多くの分野で学問は細分化し、誰もが専門分野以外の領域を理解することが難しくなった。「過剰な情報の中で人の判断力は相対的に落ち、誰もがわかりやすさを求めている。『政策芸術』はそんな時代にはぴったりだ」
政治と芸術、結びつく先は 自民党の「文化芸術懇話会」

「誰もが専門分野以外の領域を理解することが難しくなっ」てはいるが、それを何とかしようというのが、リベラル・アーツではなかろうか。
⇒2013年5月24日 (金):「成熟の喪失」とリベラル・アーツ/知的生産の方法(56)
⇒2014年6月24日 (火):遠藤麟一朗とリベラルアーツ/知的生産の方法(98)

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