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2015年7月18日 (土)

対称性の自発的破れ・南部陽一郎/追悼(71)

偉大な科学者がこの世を去った。
南部陽一郎さんである。
絵に描いたようなリベラルの人である益川敏英さんが、ノーベル賞受賞会見で、南部さんのことを「仰ぎ見る人」と形容し、「その人と一緒に受賞できるなんて・・・」と感涙で絶句していたことが印象的だった。

Photo 素粒子理論の世界的権威で、「自発的対称性の破れ」の発見で2008年にノーベル物理学賞を受賞した米シカゴ大名誉教授の南部陽一郎(なんぶ・よういちろう)さんが7月5日、急性心筋梗塞(こうそく)のため死去した。94歳だった。葬儀は近親者で営んだ。お別れの会などの開催は未定。
 1921年、東京生まれ。42年に東京帝国大(現東京大)理学部物理学科を卒業。52年、朝永振一郎氏(故人、65年ノーベル物理学賞)の推薦で米プリンストン高等研究所に留学した。58年にシカゴ大教授、70年に米国籍を取得した。91年からシカゴ大名誉教授。2011年に大阪大特別栄誉教授となった。
訃報:南部陽一郎さん94歳=ノーベル物理学賞

もちろん、私にはその業績を正確には理解し得ない。
ただ多くの科学者たちが、その驚異的な先見性について語っているのを散見するだけである。
科学者としてだけでなく、一人の人間として魅力的だったことは、次の談話からも十分に窺える。

 南部陽一郎さんの妻・智恵子さん(93)は「私が夫と出会ったのは宝塚にあった陸軍の研究施設でした。私の一目ぼれでございました。それ以後、豊中、アメリカのプリンストン、シカゴ、そして再び日本へ。苦労もありましたが、70年あまり、ほがらかな道をともに歩んで参りました。夫を失い、ただただ悲しみに暮れています」とのコメントを発表した。
訃報:南部陽一郎さん94歳=ノーベル物理学賞

東京新聞のコラム「筆洗」に興味深い逸話が載っている。

▼謎多き素粒子物理の世界で灯台のように進む先を照らし、ノーベル賞に輝いた南部さんだったが、戦時中は陸軍でレーダーの研究に従事させられ、「泥棒」を命じられたこともあった▼陸・海軍はともに同じような研究をしていたが、両者の確執はすさまじかった。一九六五年にノーベル賞を受賞した朝永振一郎博士は海軍でレーダー研究に関わっており、機密の朝永論文を「盗め」というのが、若き南部さんに下った指令だった

朝永さんの講演を高校時代に聴いたことがある。
気さくな人柄で、私たちはすっかり魅了されてしまい、同級生の中にはその講演がきっかけで物理学徒になった者もいる。
すぐれた人間は、専門領域に留まらない魅力を湛えている。
合掌。

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