歴史理解のための地政学/技術論と文明論(31)
地理的な環境が国家に与える政治的、軍事的、経済的な影響を巨視的な視点で研究する学問を地政学という。
イギリス、ドイツ、アメリカ合衆国等で国家戦略に科学的根拠と正当性を与えることを目的とした。
日本でも、日本地政學協會という団体が存在した。
その機関誌として月刊の「地政學」が、昭和17年1月に創刊されている。
昭和17年1月の出来事をWikipediaからで拾ってみよう。
1月1日 - ワシントンDCで連合国共同宣言調印(枢軸国との単独不講和を確認)
1月2日 - 日本軍がマニラを占領
1月3日 - 神風号で亜欧連絡飛行を達成した飯沼正明飛行士がマレーで戦死(と発表)
1月8日 - 第1回大詔奉戴日
1月11日 - 日本軍がセレベス島に上陸
1月18日 - ベルリンで日独伊軍事協定調印(米国西海岸を日本、米国東海岸を独伊の作戦地域と決定)
1月20日 - 独首脳が欧州ユダヤ人の殺害を決定(ヴァンゼー会議)
1月23日 - 日本軍がラバウルに上陸
前月、大東亜戦争を開戦し、意気軒昂としていた雰囲気が窺われる。
しかし、6月にはミッドウエー海戦でアメリカ海軍に決定的は敗戦を喫し、客観的に見れば無謀の戦争を20年8月まで継続するのである。
戦意喪失を避けるため、ミッドウエーの被害は、ごく一部を除いて秘匿された。
そのため、責任の追及も、敗戦の分析も曖昧のままであった。
特定秘密保護法とは、責任を免れるシステムでもある。
新国立競技場計画も、責任不在のまま白紙撤回された。
⇒2015年7月 9日 (木):新国立競技場建設にみる無責任の体系/日本の針路(194)
⇒2015年7月17日 (金):新国立競技場の見直しだけで終わらせない/日本の針路(198)
「地政學」創刊号に載っている協会の規約を見ると、目的について以下のように記されている。
第三條 本會ハ地政學ヲ研究シ特ニ日本及ビ其ノ生活圏ヲ中心トスル陸海空間ヲ地政學的ニ調査研究シテ我ガ日本ノ高度國防國家建設ノ國策ニ寄輿スルヲ以テ目的トス
すなわち軍事に偏った政策科学と言えよう。
軍国主義へ奉仕した学問ということで、戦後はすっかり忘れ去られたかのような雰囲気である。
しかし、国家だけでなく、地域間の争いがあれば、「地政学的」な見方が有効な場合は多い。
特に時代が遡れば遡るほど、土木技術水準が低いから、土地の影響は大きいであろう。
例えば、典型的な土地争いの時代だった戦国時代には、治水(水害の防御と水利用)に長けた武将が輩出している。
中国の言葉に「善く国を治める者は、先ず水を収める」があるが、必須でありながら有害でもある水のコントロールが重要なのは昔も今も変わらない。
NHKの人気番組『ブラタモリ』で仙台を取り上げていた。
テーマは「伊達正宗は地形マニアだった」である。
正宗の地形を読む眼力が仙台市の用水路網形成に大きく与ったという趣旨である。
正宗に限らず、武田信玄、黒田如水、徳川家康などは治水家としても有名だった。
⇒2008年5月25日 (日):都江堰と信玄堤
⇒2012年8月20日 (月):三分一湧水と先人の知恵
⇒2014年7月 7日 (月):三島北高校のグローバル人材教育/日本の針路(5)
⇒2013年10月24日 (木):カスリーン台風と利根川治水/戦後史断章(15)
戦国時代よりも古代の方が地政学的影響は大きかったはずである。
保存か道路かで揺れている沼津市の高尾山古墳に関連して、静岡大学篠原和大教授の『高尾山古墳の語るもの』という講演を聴きながら、古代史理解のキーは地政学にあるのではなかろうか、などと考えた。
⇒2015年6月17日 (水):高尾山古墳の主は卑弥弓呼か?/やまとの謎(103)
⇒2015年6月25日 (木):高尾山古墳が存亡の危機という非常事態/やまとの謎(104)
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