新国立競技場・ずさんな計画のツケ/日本の針路(188)
2020年東京五輪・パラリンピックの主会場になる新国立競技場が迷走を続けている。
周辺の景観を損ね、膨大な費用が掛かるとして、専門家や市民がデザインの抜本的な見直しを求めてきたが、下村博文文部科学相が29日、総工費2520億円で当初予定より2カ月遅れの19年5月に完成させる計画を、東京都の舛添要一知事らに示した。
新国立競技場、くじ収益頼み 2520億円の半分?
文科省は、これまで建設費の財源として、スポーツ振興くじ「toto」の2年分の年間売り上げの5%となる約110億円と国費約390億円を確保した。今後、選手強化などのために使う「スポーツ振興基金」の政府出資分の一部を切り崩すなどして充当するつもりだが、それでも財源の不足分を補えない。
財源のメドが立たない中、下村文科相はこの日突然、「命名権の販売を検討している」と明言。国立の施設で命名権売却は極めて異例だが「整備費2520億円はやはり高い。民間からの寄付を含め、できたら200億円くらいは集めたい」と話した。「新国立」の金看板を民間に売ってしまえば、1958年に命名されてからアスリートの憧れだった「国立競技場」の名前が消滅する。裏を返せば、それほど財源確保に苦心している表れで下村氏の発案は、まさに苦肉の策と言える。
ただ、実現には難航が予想される。突然のトップの発言に文科省の担当者は「あくまで一つの案ということで、これから情報収集する」と困惑した。過去に日本で命名権を最も高く取得したのは、今年2月末までに年間5億円で契約した「福岡ヤフオク!ドーム」で、200億円は破格だ。
加えて、日本オリンピック委員会によると「大会期間中はオリンピック憲章に抵触するため、企業名の入った競技場名は使うことができない」。五輪の舞台で、世界に企業名をアピールできないことになる。異常な高額と命名権を取得しても企業にとって最大のPRとなる五輪で名乗れないとなれば、名乗り出る企業が現れるかは疑問だ。契約期間など詳細も不明で、多額の寄付をした人のネームプレートを競技場の壁面に設置することも検討している。
苦境に陥る財源確保。東京都に負担を要請している約500億円も了承が得られていない。調整会議に出席した舛添要一都知事は「都民が納得できる説明をまだ受けていないので、これからの議論になる」とした。
たとえ命名権が200億円で売れたとしても、財源の不足分は約970億円。総工費には、大会後に設置する開閉式の屋根の費用は含まれていないことも発覚。建築家からは「400億円程度かかる」との見方もあり、最終的なコストは増大する見通しで、今後、批判の声がさらに上がりそうだ。
新国立競技場の命名権売却しても970億円不足
デザインは確かに斬新だとは思うが、結局予算制約内でどこまで可能か、ということが基本であろう。
設計の変更を検討したが、2本の巨大アーチは、デザイン最大の特徴で見直す時間がないという理由で残された。
専門家から、コストを押し上げ、工期が延びるとして問題視されているにもかかわらず、である。
建築家の槇文彦氏らはアーチ構造を取りやめれば、1500億円程度に収まり、42カ月間で完成すると提言している。
計画を迷走させてきたのは、文科省とJSCの異論を排する態度であり、ずさんな見積もりである。
東京五輪を錦の御旗として、利権をむさぼるのは、許されることではないだろう。
予算内に収まらない可能性が高いだろうが、予算の使い方が余りに恣意的ではないだろうか。
一方で、福島の自主避難者に対する支援は打ち切られる。
6月15日、原発事故による自主避難者への住宅無償支援を2017年3月で打ち切る方針を福島県が発表した。
対象となるのは、およそ2万5千人。内堀雅雄知事は「これから2年間で区切りを、という国の考え方もある」と国の意向を強調した。
「自主避難者」とは原発事故を機に国の避難指示のない地域から自らの意思で避難した人々を指す。事故直後の11年4月、政府は福島県内の年間被曝線量の上限を1ミリシーベルトから20ミリシーベルトに引き上げ、20ミリ以下の地域は避難の必要はないとした。
とはいえ、事故前と比べると放射線量が10倍から数百倍という地域もある。そこに住む人々、子供の健康被害を不安視する子育て世帯が自ら避難を決断したのだ。
この「自主避難者」と、20ミリシーベルトを超えるとされる避難指示区域から避難した「強制避難者」とでは賠償や支援に大きな差がある。自主避難者にとっては、災害救助法による住宅の無償提供が唯一の支援ともいえるものだった。
今回、それが打ち切られることが決まり、自主避難者はふたつの選択を迫られている。17年4月以降、家賃を支払って避難を続けるか、それとも事故以前に生活していた福島の自宅に戻るか(すでに住居を引き払ったケースもある)だ。
こうした中、難しい局面に立たされているのが「母子避難者」だ。夫を福島県に残し、母と子は県外で暮らすという二重生活を続ける家族や離婚を経て県外で自主避難を続ける母子もいる。
福島原発・県外自主避難者への支援打ち切りで追い詰められる「母子避難者」
県は「国の意向」を慮るが、弱者切り捨てが、政権の一貫した姿勢なのである。
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