憲法解釈は変えたのか、変えていないのか?/日本の針路(179)
安保法案の担当大臣である中谷元氏は相当に論理、すなわちアタマが弱いようだ。
「現在の憲法をいかにこの(安保)法案に適用させていけばいいのか」という本末転倒の答弁については、さすがに撤回をした。
⇒2015年6月 6日 (土):明白な憲法違反を押し通す政権/日本の針路(173)
⇒2015年6月11日 (木):前言撤回オンパレード政権/日本の針路(178)
しかし、何を批判されたのか、分かっていないと判断せざるを得ない。
昨年7月の閣議決定で、集団的自衛権の行使を容認した政府の憲法解釈について、中谷大臣は「将来的に安全保障環境が変われば解釈が再変更される可能性もある」との認識を示し、こう言った。
「時代の背景とともに、憲法で許される必要最小限度の範囲で(集団的自衛権を行使できると)政府として考えている。これからも考えていく」
口を開けば問題発言…中谷防衛相の“末期症状”に呆れる識者
質問したのは民主党の寺田学議員であるが、憲法が国の根幹になるものであることを中谷氏は分かっていない。
政権の認識で変わるのではなく、政権が恣意的にならないように枠をはめるというのが、立憲主義である。
中谷氏は、大臣失格というよりも、政治家失格のレベルであろう。
もう少し巧妙なのは、稲田朋美自民党政調会長である。
唯一、憲法9条について判示したのは後にも先にも砂川判決のみ。判決の中の、日本の存立が脅かされているときには、自衛権は行使できる。その中に個別か集団的かの区別はないし、一見明白に違憲というとき以外は、日本の存立にかかる安全保障については、国会と内閣に任されていると最高裁自身が判示している。その意味からは、憲法に違反するかどうかという議論を、これ以上続けていくことには、そんなに意味が無いのかなと思う。
平和安全法制は集団的自衛権の問題だけでは無くて、様々な後方支援やグレーゾーンの問題とか、PKO、様々な観点がある。そういった議論を深めていくことが、国権の最高機関としての国会の責務だろうと思う。(記者会見で)
違憲か否かの議論継続「意味無いのかなと思う」 稲田氏
最高裁だけが違憲判断ができるとする稲田氏の持論であろう。
これは、自民党所属議員向けの文書と同じ理屈である。
⇒2015年6月10日 (水):安保法案で墓穴の深掘りに励む政府・与党/日本の針路(177)
確かに砂川事件の最高裁判断は、国の自衛権を認めるものであった。
しかし、集団的自衛権というのは、自国の防衛ではなく同盟関係にある他国の防衛(他衛)であるから、砂川判決を引用するのは論理のすり替え以外の何物でもない。
何よりも自民党政権が、一貫して現憲法下では集団的自衛権は許されないとしてきたのはどういうことか?
「安保法案9条違反」憲法審参考人が見解 「違憲立法」論戦焦点
あるときは砂川判決をよりどころとし、ある場合には環境変化に応じて変わるべきだとする。
明らかなダブルスタンダードである。
さすがに戦前派の政治家が見かねたのだろう。
4人が反対を表明した。
自民党で幹事長や閣僚を歴任した山崎拓・元党副総裁(78)を含む元衆院議員ら4人が12日、日本記者クラブで会見を開き、衆院で審議中の安全保障関連法案に、「憲法解釈を一内閣の恣意(しい)によって変更することは認めがたい」などとして反対を表明した。
出席したのは山崎氏と、自民党時代に政調会長を務めた亀井静香・衆院議員(78)=無所属=、元新党さきがけ代表の武村正義氏(80)、元民主党幹事長の藤井裕久氏(82)の計4人。いずれも戦前生まれ。武村氏、藤井氏もかつて自民に所属していた。
山崎氏は改憲派として知られ、防衛庁長官や党安全保障調査会長などを歴任した防衛族。小泉政権下では自衛隊海外派遣に関わった経験を持つ。「不戦国家から軍事力行使国家へとの大転換を意味し、国策を大きく誤る」などとする声明を発表した。
山崎拓・元自民幹事長ら4人、安保法案に反対表明
山崎氏や亀井氏は、明らかに右派だろう。
この国を牛耳っているのはウルトラ右翼である。
砂川判決解釈を変えたのか、変えないのか?
変えたのならば、明瞭にそう言うべきだ。
変えないのなら、今までの自民党政権の憲法解釈は誤っていたのか?
第9条解釈を変えたのか、変えないのか?
現憲法の最重要論点である。
変えるのなら、解釈の変更などという姑息な方法によらず、成文法であるから改正案を示して国民投票を行うべきだ。
変えないなら、今までの自民党政権の憲法解釈は誤っていたのか?
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