大人の恋の物語『風の盆恋歌』・高橋治/追悼(69)
『風の盆恋歌』で幅広い読者を獲得した高橋治氏が13日肺炎で亡くなった。
1929(昭和4)年5月生まれで、86歳だった。
私も『風の盆恋歌』の愛読者の一人だった。
⇒2013年9月 2日 (月):高橋治『風の盆恋歌』/私撰アンソロジー(26)
世紀の変わり目の頃、親しい人たちと「おわら風の盆」を見に行ったことがある。
大変な賑わいで、期待していた抒情的雰囲気とは遠かったが、まあいいことだろう。
私の周辺には、遂に『風の盆恋歌』のヒロイン「えり子」のような女性は現れなかった。
ちょっと心残りであるが、まあ現実と虚構は乖離しているのが常だろう。
高橋治さんは千葉県出身で、金沢市の旧制第四高校から東京大学に進んだあと、昭和28年に松竹大船撮影所に入りました。そして日本映画の巨匠、小津安二郎監督の代表作「東京物語」の撮影に助監督とし関わったほか、「彼女だけが知っている」などの作品で監督を務めました。その後、作家として活動を始めた高橋さんは昭和59年に人生を釣りにささげた釣り人たちの生きざまを描いた「秘伝」で直木賞を受賞したほか、富山県の伝統行事、「おわら風の盆」を舞台に大人の男女の恋をテーマにした小説「風の盆恋歌」が話題となるなど、情緒に富んだ恋愛から社会問題まで幅広いテーマで作品を数多く発表しました。また、高橋さんは石川県に私塾、「白山麓僻村塾」を作って人材育成につとめたほか、相撲好きの知識を活かしてスポーツ新聞で相撲の観戦記の連載などもしていました。高橋さんは先月、神奈川県藤沢市の病院に入院し、療養していましたが、本人の希望で自宅に戻り、13日、神奈川県の自宅で亡くなりました。
![]()
直木賞作家の高橋治さん死去
私には『蕪村春秋』朝日新聞社(1998年8月)の1冊が忘れがたい。
高橋さんは、「蕪村に狂う人、蕪村を知らずに終わる人。世の中には二種類の人間しかいない。」と言って、蕪村を知らずにいた私を強制的に蕪村の世界に引っ張っていった。
しかし「蕪村に狂う人」にはなれずじまいだった。
私の高校時代からの愛読書・阿川弘之『雲の墓標』の映画化で、堀内真直監督と共同で脚本を書いた。
⇒2008年5月27日 (火):偶然か? それとも……③『雲の墓標』
⇒2008年5月29日 (木):『言うなかれ、君よ別れを』
私が反戦リベラリストとして生きようと決意した「私の一冊」である。
| 固定リンク
「ニュース」カテゴリの記事
- スキャンダラスな東京五輪/安部政権の命運(94)(2019.03.17)
- 際立つNHKの阿諛追従/安部政権の命運(93)(2019.03.16)
- 安倍トモ百田尚樹の『日本国紀』/安部政権の命運(95)(2019.03.18)
- 平成史の汚点としての森友事件/安部政権の命運(92)(2019.03.15)
- 内閣の番犬・横畠内閣法制局長官/人間の理解(24)(2019.03.13)
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 藤井太洋『東京の子』/私撰アンソロジー(56)(2019.04.07)
- 内閣の番犬・横畠内閣法制局長官/人間の理解(24)(2019.03.13)
- 日本文学への深い愛・ドナルドキーン/追悼(138)(2019.02.24)
- 秀才かつクリエイティブ・堺屋太一/追悼(137)(2019.02.11)
- 自然と命の画家・堀文子/追悼(136)(2019.02.09)
「追悼」カテゴリの記事
- 日本文学への深い愛・ドナルドキーン/追悼(138)(2019.02.24)
- 秀才かつクリエイティブ・堺屋太一/追悼(137)(2019.02.11)
- 自然と命の画家・堀文子/追悼(136)(2019.02.09)
- 「わからない」という方法・橋本治/追悼(135)(2019.01.30)
- 人文知の大輪の花・梅原猛/追悼(134)(2019.01.16)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント