自己を抑制できない自衛隊最高指揮官/日本の針路(169)
自衛隊法には、次のように規定されている。
民主党の菅直人首相(当時)が、「改めて法律を調べてみたら(総理大臣は)自衛隊に対する最高の指揮監督権を有すると規定されている」と言ったという話は、菅氏(および民主党のある部分)の無知を広く知らしめた。
冗談で言ったのではないか、と擁護する声もあったが、どうか。
一方、安倍首相は、自衛隊のことを「我が軍」と呼ぶほど、過剰なくらいに最高指揮官の意識が強いようである。
⇒2015年3月25日 (水):70年有識者懇のゲストの東大話法/日本の針路(127)
しかるに国会審議の様子を見ていると、この人が自衛隊の最高指揮官ということに、強い危惧を覚える。
首相の席に座ったまま、品格なきヤジを飛ばすのだ。
⇒2015年2月20日 (金):低レベルで意図不明な安倍首相のヤジ/日本の針路(108)
⇒2015年2月21日 (土):反知性主義的なネトウヨ・安倍首相/日本の針路(109)
この時、陳謝しているので反省したかと思ったら、今国会でも同じようにヤジを問題視されている。
衆院特別委員会で、民主党辻元清美議員の質問中に、「早く質問しろよ」と命令口調でヤジを飛ばしたのだ。
また、それを批判された後の釈明も、冷静さを欠いたものだった。
東京新聞5月30日
説明を尽くして審議すべき法案なのに、こんなに自己抑制のできない人で大丈夫なのだろうか、と素朴に思う。
辻元氏に対しては命令口調のヤジだったのに対し、日本共産党の志位委員長の質問の時には、別人のような態度であった。
何の違いを意識したのか分からないが、相手を見て態度を豹変するのは如何なものか?
他の質問者のときには、抽象的で空疎な説明を繰り返して煙に巻いたり野次ったりしていた安倍首相も、志位さんの前では妙におとなしいように見えました。質疑が終えた時、「フー」という安倍さんのため息が聞こえたように感じたのは、私だけだったでしょうか。
今日の質疑で、志位さんは国連平和維持活動(PKO)と集団的自衛権の行使容認という二つの問題を取り上げました。前者はPKO協力法と自衛隊法の改定、後者は武力攻撃事態法と自衛隊法の改定にかかわる問題です。
PKO協力法の改定によって、新たに国連が統括しない治安維持活動への参加、安全確保業務や駆けつけ警護、任務遂行のための武器使用の解禁などが可能になります。これについて志位さんは、アフガニスタンでの国際治安支援部隊(ISAF)のような活動に参加可能なのかと質問しました。
これに対して、安倍首相はPKO参加5原則に基づいて当事者同士の間で停戦合意が履行されていることが重要で、アフガンのような治安状況を前提としていないと答えました。しかし、参加できないとは最後まで明言しませんでした。
・・・・・・
戦後初めてNATO域外に軍を派遣したドイツは、アフガニスタンでの治安維持や輸送業務に従事しましたが、パトロール中にタリバンの狙撃を受けて戦闘行動に巻き込まれています。これは正当防衛による反撃でしたが、このような戦闘によって35人が命を失い、これを含めた死者は55人に上りました。
このドイツの例は、いま日本がやろうとしていることがどのような問題を生むかということを示しているのではないかというのが、志位さんの指摘です。このPKO活動の拡大もまた、自衛隊が殺し殺される危険性を教えていると言って良いでしょう。
第2の集団的自衛権の行使容認の問題では、アメリカが行う誤った先制攻撃にも日本が協力することになる可能性があぶりだされました。集団的自衛権行使容認の条件とされている新3要件は無限定で、政府の裁量によってどのようにでも解釈される危険性があるからです。
安倍首相も岸田外相も、国際法上認められないような違法な戦争には協力しないと答えていました。これに対して志位さんは、「先制行動」を宣言し、「一方的に軍事力を行使する」と言っているアメリカの場合はどうなのか、その先制攻撃には協力しないのかと、具体的な例を挙げて質問しました。
アメリカによるグレナダ侵略、リビア爆撃、パナマ侵略については国連が非難決議を挙げているのに日本は「理解する」という立場で、戦後のアメリカの軍事介入について反対したことは一度もなく、全部、賛成・支持・理解ではないかと。このよう対米追随の外交からすれば、アメリカから言われるままに集団的自衛権を行使して、たとえ先制攻撃であっても米国の戦争に協力させられるのは明らかではないかと……。
さらに、志位さんが具体的な例として挙げたのがベトナム戦争とイラク戦争でした。ベトナム戦争では北爆など戦争拡大の口実とされたトンキン湾事件がねつ造であったことが明らかになり、イラク戦争では大量破壊兵器が見つかりませんでした。
まるで法廷劇を見ているような志位共産党委員長による質疑
明らかに志位氏の方が理に適っている。
さらに多国籍軍の兵站を担う自衛隊が勝手に「退避」できるのかを問われた安倍首相は、「(自衛隊は多国籍軍の)指揮下に入らない」と胸を張ったが、志位委員長は呆れた様子で「兵站が(多国籍)部隊の指揮下に入るのは(軍事の)常識だ」とピシャリ。米海兵隊が兵站について「武力行使と一体不可分の中心構成要素」と位置付けていることも挙げて、答弁の“非常識ぶり”を厳しく指弾すると、安倍首相はシュンとした表情だった。軍事ジャーナリストの神浦元彰氏がこう言う。
「一言で言って安倍首相の答弁はメチャクチャでした。軍事のリアリティーを知らな過ぎる。与党協議が結論ありきだったから、こういう答弁になる。現場の自衛隊員も『オイオイこんな常識も知らないのか』と呆れていますよ。おそらく安倍首相の答弁は今後もボロが次々と出てくる。8月の法案成立なんて絶対ムリですよ」
答弁不能で“つまり”連発…安倍首相が「安保」審議でまた完敗
それでもアメリカに約束したように、夏までに安保法制改定案を成立させるのだろうか?
ここは野党のレーゾンデートルが問われるところである。
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