存立危機事態を招くのは安倍政権?/日本の針路(166)
国会での審議がはじまった安保法制では、概念が分かり難いものが多い。
積極的平和主義という理念からしてそうである。
あたかも平和に対して積極的であるかのような印象を受けるが、実体は、紛争の解決に軍事力の行使も封印しないということである。
⇒2013年10月18日 (金):積極的平和主義をどう理解するか/アベノミクスの危うさ(17)
わが国は、憲法9条によって、軍隊を持たないとなっている。
自衛隊はどう見ても軍隊であるが、そこは解釈である。
http://event.kinasse.com/kuma9/kyuujo.html
「前項の目的を達するため」戦力を持たないのであって、それ以外ならば可という、いささかアクロバティックな解釈である。
⇒2014年7月23日 (水):憲法9条と積極的平和主義/日本の針路(12)
しかし、積極的平和主義の下で、ということになると事情が変わってくる。
国際紛争を解決する手段として武力の行使も含めるということであれば、どう考えても憲法に抵触する。
憲法を変えないとすれば、想定されている安全保障法制は違憲であろう。
確かに新しい国際的な脅威が増えている。
先頃、報告書が公表されたイスラム過激派組織「イスラム国」による日本人人質事件の政府対応を検証する政府の「邦人殺害テロ事件対応検証委員会」は、政府対応について「救出の可能性を損ねるような誤りがあったとは言えない」と結論づけた。
「政府の、政府による、政府のための」検証?
後藤さん、湯川さんは、積極的平和主義の名の下に、救出のチャンスを封じられたと見るべきであろう。
⇒2015年2月 2日 (月):人命軽視の積極的平和主義/世界史の動向(34)
存立危機事態というのも分かり難い概念だ。
5月20日のの民主党岡田代表との党首討論である。
「晴耕雨読」というブログを参照しよう。
岡田:存立危機事態について。武力行使の新3要件が満たされれば、日本の自衛隊も出ていって戦う。その場所は相手国の領土、領海、領空に及ぶか。
安倍:今までと同様、海外派兵は一般に禁止されている。他国の領土に戦闘行動を目的に自衛隊を上陸させて武力行使をさせる、領海、領空でそういう活動をする、派兵をするということはない。(中東・ホルムズ海峡での)機雷除去は、いわば「一般に」ということの外において何回も説明している。
はたして安倍氏は、真実を述べているのであろうか。嘘に決まっているではないかとおっしゃるなかれ。少し論理的に検討してみようではないか。
・・・・・・戦闘の展開に応じて、我が国が戦う場所も、敵の攻撃を撃退するのに必要な場所に移動していかなければならないことになるということを意味している。
もし、それでも安倍氏が「他国の領域に戦闘行動を目的に自衛隊を派兵しない」と言い張るのであれば、そのように事態対処法案に明記しなければならない。そのとき「武力行使三要件」は、事実上従来の政府見解である「自衛権行使三要件」に復元されることになり、集団的自衛権行使は否定されたにほぼ等しくなる。残るのは「ホルムズ海峡その他における機雷掃海」のみを単独に俎上に乗せてその可否を問えばよい。そうしない以上は、安倍氏が述べるところはやはり虚言と言わざるを得ない。
そもそもいたずらに不明瞭な概念を使おうとするのは、実体を把握されたくないからだろう。
「積極的平和主義」「国際平和支援法」などのように、平和という文言を使いたがるのも、戦争という実体を包み隠すためではないか。
レッテルと中身が違う偽装表示がここにまで広がっている。
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