情報伝達と暗号/知的生産の方法(121)
池上彰さんの『伝える力』PHPビジネス新書(2007年4月)が版を重ねている。
伝えたい相手に、誤解の無いように情報を伝えるのは、ビジネスパーソンに最も求められるスキルであろう。
しかし一方で、秘匿しておきたい相手には意味が分からないようにする必要がある。
そのための技術が暗号化である。
中には、オープンに開示すべきことなのに、分かりにくいような形にすることがある。
いわゆる「東大話法」とか「霞が関文学」といわれるものもその一種であろう。
⇒2012年9月20日 (木):もはや嗤うしかない「革新的エネルギー・環境戦略」の「東大話法」
⇒2012年10月10日 (水):「霞ヶ関文学」と「東大話法」はメダルの表裏/花づな列島復興のためのメモ(149)
「東大話法」や「霞が関文学」の主要なな使い手は、霞が関すなわち中央官庁やそれに準ずるような電力会社のような企業である。
もちろん、分かりやすい表現を工夫する官僚も多いことは承知している。
⇒2012年7月 3日 (火):開示する情報を暗号化しようとする愚/花づな列島復興のためのメモ(101)
暗号はもっと積極的に分かりにくくする。
暗号 - Wikipediaには、次のような説明が載っている。
暗号(あんごう、cryptography、cipher、code)あるいは暗号化(あんごうか、Encryption)とは、第三者に通信内容を知られないように行う特殊な通信(秘匿通信)方法のうち、通信文を見ても特別な知識なしでは読めないように変換する表記法(変換アルゴリズム)のことである。通信だけでなく保管する文書等の内容を秘匿する方法としても用いることができる。
秘匿通信には、主に次の3種類の方法がある。
1. ステガノグラフィ:通信文を人目に付かない場所に記録する。画像などに情報を埋め込む電子透かしなど。また掲示板でよく見かける縦読みも一見して普通の文章の中に見えるためステガノグラフィーの一種と言える。
2. コード:通信文の単語やフレーズを、事前に決めておいた言葉・記号で置き換える。これらは符牒や隠語とも呼ばれる。
3. サイファ:通信文を、意味とは関係なく、所定のアルゴリズムに従って、(1つまたは複数の)文字やビットごとに置換や転置を行うことで、読めない文に変換する。
また、暗号そのものに着目すると、次のように分類されている。
暗号(サイファ)の分類
• 古典暗号 - 暗号化・復号に鍵の概念を使わないものもある。
o 換字式暗号 - 別の文字を割り当てる。単一換字、多表式換字などがある。
o 転置式暗号 - 文字を並べ替える。
• 現代暗号 - 鍵を使い、アルゴリズムを公開したものが多い。
o 共通鍵暗号 - 暗号化・復号で同じ鍵を使う。ブロック暗号、ストリーム暗号などがある。
o 公開鍵暗号 - 暗号化・復号で異なる鍵を使う。
有名なシャーロックホームズの『踊る人形』は、換字式暗号の事例である。
⇒2012年7月 3日 (火):開示する情報を暗号化しようとする愚/花づな列島復興のためのメモ(101)
踊る人形の姿は、識別しがたい。
つまり、分かりにくい。
それが暗号の本質である。
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コメント
公開暗号方式による暗号化は、公開鍵を誰が所有するかによって、暗号としても、認証としても働くという点において、非常に優れたアーキテクチャーと云えましょう。私は以前こうした技術開発をメイン業務としていた事があって、その為に頻繁に韓国に渡航したものでありますが、今思えば、日本の数学力の高さは、私のような稚拙な数学使いですら彼の国の追従を全く許さないレベルにあったのです。今私はのんびりとした言わば隠居的業務を生業としておりますが、以前のような最先端の仕事に戻りたい気持ちがゼロであると云えば嘘になります。うふふ、言ってみただけですよ〜ん。
その頃、夢幻亭氏には、本当にお世話になったのでありました。
投稿: Yas | 2015年5月26日 (火) 00時38分
Yasさん
「あのプロジェクト」がアジア通貨危機の直撃を受けなければ、と歴史のイフのような繰り言を言ってみたくもなりますね。
お見通しのように、ゆとり世代の人に、数学に興味を持ってもらおうと、トリビアな話題を材料に復習をしています。私も半世紀以上、数学の勉強から遠ざかっているので、楽しみながら復習していますが、彼女たちの「ワクワクする」という感想を聞くのは嬉しい限りです。素数の話題も重要な材料ですが、公開暗号方式の理解から、セキュリティ問題の表層に触れてみたいと思います。
投稿: 夢幻亭 | 2015年5月26日 (火) 06時46分