素数ゼミの謎の解明/進化・発達の謎(5)
若い人たちとやっている算数トレーニングのテキスト(小田敏広『大人のための算数教室』中経出版(2011年10月))に、次のような記述があった。
9で割れないものを見つけるためには「各位の和が9の倍数でなければ9で割れない」という判別法があるので・・・
確かに昔、「9の倍数の判別法」を使った記憶がある。
しかし、どうして「各位の和が9の倍数でなければ9で割れない」のか、と考えると、すっかり忘れてしまっている。
また、「9以外の倍数の判別法は?とか、そもそも倍数とは?(=約数、素数とは?)」ということが気になってくる。
ちょっと関連資料を読んでみると、すっかり「素数の世界」にはまってしまった。
整数論が数学の女王であるとは聞いていたが、素数論はその中でもとびきりである。
素数に関連した著書の中で、面白い本にぶつかった。
吉村仁『素数ゼミの謎』文藝春秋(2005年7月)である。
一種の絵本で、絵は石森愛彦氏が描いている。
石森氏が絵を描いている入門書シリーズは、以下を読んだことがある。
・石森愛彦絵・工藤雅樹監修『多賀城焼けた瓦の謎 』文藝春秋(0707)
⇒2007年9月29日 (土):多賀城炎上
・岡ノ谷一夫、石森愛彦・絵『言葉はなぜ生まれたのか』文藝春秋(2010年7月)
⇒2014年5月 2日 (金):言語の歌起源論/進化・発達の謎(4)
どちらも子供向けでもあるが、大人の知的好奇心を刺激するものでもあった。
素数ゼミというのは、次のような不思議なセミである。
アメリカに生息するもので、正確な体内時計によって、ある集団に属するすべての個体が、一斉に13年もしくは17年おきに羽化する。
したがって、それぞれの集団の生息地域ごとに、13年もしくは17年に一度ずつしか、セミが発生しないようになっている。
2004年にニューヨークで17年ゼミが大発生したが、2021年まで姿を見せない。
13や17が素数であることから、周期ゼミとか素数ゼミと呼ばれている。
素数ゼミが、日本のセミと違うポイントは以下の3点だ。
① 成虫になるまで10年以上の長期間を要する。
② 常に同じ場所で一度に大発生する。
③ 成虫になるまでの期間が、きっかり13年の種と17年の種のみがいる。
http://www.itmedia.co.jp/anchordesk/articles/0707/06/news042.html
吉村仁氏は、静岡大学工学部数理システム工学科の教授である。
理論(数理)生態学が専門で、環境の不確定性が生物の進化・適応へ及ぼす影響を主に研究してきている。
吉村氏は、上記のポイントに対して、きわめて説得的な仮説を提示している。
つまり、進化論である。
ステージ1:祖先ゼミ
周期ゼミの祖先は、日本のセミのように温度に依存して成長し、7年前後で成虫になり、毎年発生していた。
ステージ2:氷河期における生活史の長期化
氷河期の到来による森林の消失で、個体群がほぼ絶滅した。
わずかに残った森林がレフュージア(待避地)となり、そこでセミは生き延びた。
しかし、それらのセミも寒さによって成長が遅れ、幼虫期間は13-17年へと長期化した。
ステージ3:レフュージアでの周期性の獲得
レフュージアにおいては、同じ気候条件下なので、幼虫が成虫になるまで期間はだいたい同じになる。
生息地の減少と幼虫期間の長期化により、成虫密度が激減し、雌雄の出会いが困難になってしまい、限られた場所で一斉にドバッと発生する奇妙な性質が身についた(そういう性質を備えたセミが生き残った)。
ステージ4:素数周期の選択
約180万年前に地球をおそった氷河期に北アメリカのほぼ全土が文字通り氷に覆われてしまった。当然、いろんな生き物たちが息絶え、セミも例外ではなく絶滅の危機に直面した。
生物は遺伝子型が異なる種と交配(交雑)すると、一般に不利なように遺伝する。
交雑の機会は、周期の最小公倍数である。
比較的大きな素数の13年周期ゼミと17年周期ゼミが、氷河期に耐えてサバイバルした。
さらに長い周期のものは、幼虫期間が長すぎて、厳しい環境に耐えられなかった。
鮮やかな推論である。
しかし、意外なところで素数が威力を発揮するものだ。
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