今年の将棋電王戦をどう見るか?/知的生産の方法(120)
棋士とコンピュータソフトが団体戦形式で戦う形式の3回目の将棋電王戦の結果が話題になっている。
プロ棋士側が最終第5戦を阿久津主税八段が21手でソフトの「AWAKE(アウェイク)」を破り、3勝2敗で初めて勝ったのだ。
東京4月12日
過去2回はいずれもコンピュータソフトが勝利しており、トレンドからいえばソフト側に有利という予想だった。
⇒2014年4月27日 (日):電王戦の結果と2045年問題/知的生産の方法(93)
勝因は、コンピューターの癖と盲点を徹底的に研究した棋士側が、あえて手筋にない“悪手”を指してコンピューターの変調を誘うという、なりふり構わぬ執念のゲリラ戦術だった。
バグ狙い鬼手連発 将棋電王戦、VSコンピューター制した「人類の執念」 勝因はゲリラ戦術だった
確かに美しい勝ち方とは言えないかも知れない。
しかし棋士の意地というものであろう。
勝負にこだわったのではなかろうか。
1秒間に数百万~1000万手以上を読むコンピューター相手では、互角に終盤の寄せ合いに突入したらまず勝ち目はない。中盤も、棋士側が手筋や定跡通りに指していてもコンピューターは正確無比でミスはしない。過去2回の経験からプロ側は「序盤で過激に鬼手を連発し、中盤を飛ばして一気に終盤に持ち込む」作戦が有効と結論づけた。
今回、第2局で永瀬拓矢六段(22)がソフト「Selene」に王手放置の反則勝ちしたが、これは500を超す練習対局で、通常はあり得ない角が成るところで成らない「角不成」での王手に対し、ソフトが王手を防がないというバグ(不具合)を見抜いていた成果だった。
ガップリ四つの力将棋ではなかったが、とにかく今回は棋士が勝った。だが、弱点を見抜かれたソフトの進化はとどまることを知らないのは確かだ。
は3回目4月11日、プロ棋士とコンピューター将棋ソフトが5番勝負を戦う「将棋電王戦FINAL」が幕を閉じた。結果は、大方の予想に反して3勝2敗でプロ棋士側が勝利した。失礼を承知でこう書いたのは、「電王戦」では団体戦形式となってから昨年まで2回連続でソフト側が勝ちを収めていたのに加えて、今回は更にソフトが強くなったと聞いていたからだ。
バグ狙い鬼手連発 将棋電王戦、VSコンピューター制した「人類の執念」 勝因はゲリラ戦術だった
勝負にこだわったのは、むしろ棋士の美学といえよう。
「日経ビジネス」誌の記者の意見に同感する。
それだけに、阿久津八段の決断には感銘を受けた。AWAKE側が投了せずに指し継いだら、最終的に阿久津八段が勝っても「ハメ手で勝った」との指摘がつきまとう。万一負けたら「そこまでやっても負けた」という評価になる。人間相手で使う普段通りの作戦で指せば、こうしたリスクは回避できる。にもかかわらず、あくまで勝利の確率を上げることを純粋に追求したことを、プロ意識の高さの表れと受け止めた。阿久津八段はAWAKEが悪手を指さない変化になるケースも想定し、それでも互角が保たれることを確認していたというから、本来指すべきでない手を指したという非難も当たらない。
将棋ソフトを「ハメる」のはいけないこと?
第1回の電王戦で塚田九段が流した涙こそ、人工知能との差別化要素ではないか。
⇒2013年6月 3日 (月):電王戦の記者会見における塚田九段の涙/知的生産の方法(57)
開発者が投了した時の様子を「負けたソフト開発者は質問に答える時も、頑なにカメラから顔を背けていた。勝ったプロ棋士も「嬉しいという感じはない」と硬い表情を崩さない。対局場を覆う、凍てついた空気が伝わってくるようだった。}と描写しているが、人間が徐々に追い詰められていることは間違いない。
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