掛谷誠・「伊谷純一郎『アフリカ紀行』」の解説/私撰アンソロジー(35)
伊谷純一郎『アフリカ紀行』講談社学術文庫(1984年10月)に付された解説である。
名著だと思うが、残念ながら絶版らしく、古書も見つけられない。
掛谷誠氏は、私の同級生であるが、2013年12月22日に亡くなった。
入学は工学部の電気工学科だったはずである。
教養課程のクラスで一緒だったが、学部に進学するとき、理学部に転部した。
以後ほとんど接触する機会がなかったが、大学院の頃、理学部の共通の知人と一緒にアフリカに行く前 に話をする機会があった。
爾来まったく直接の交流はなかった。
会社で筑波大学卒の新入社員と話していて、掛谷先生に教わりましたということがあった。
経歴を見ると、1979年筑波大学助教授、1987年弘前大学教授とあり、83、4年の頃だったと思う。
1990年に、京都大学アフリカ地域研究資料センター教授に就任し、2008年退官して名誉教授となった。
研究分野は以下のようにまとめられている。
アフリカの焼畑農耕民社会を対象とし,自然・社会・文化の相互関係と動態を生態人類学の立場から解明してきた。それらの理解を基礎としつつ,農耕社会の生態史的展開過程,およびアフリカにおける内発的発展の可能性を探る。
http://www.africa.kyoto-u.ac.jp/member/kakeya.html
掛谷氏が解説を書いている伊谷純一郎氏の名前は、京都大学の霊長類研究グループの中核として知っていた。
その伊谷氏の直系の研究者になっていたとは、懐かしいというか、そういう分野に興味があったんだなあ、と感じた記憶がある。
この掛谷氏の解説文を読んで、理系らしい明晰な名文であることに驚いた。
稀に見る、と言っていいだろう。
秘かに、「私の文章読本」の1つと位置づけていた。
掲出部分は、人類の起源という壮大なテーマに係る。
600万年とも700万年とも言われる人類の起源。
地質年代の第四紀というのは、約200万年前から現在までを指す。
他の地質時代が生物相の大幅な変化(特に大量絶滅)を境界として定められたのに対し、第四紀は人類の時代という意味で決められた。
したがって、古人類学の進展に伴い次々に古い原人が発見されるとともに第四紀の始まる年代も変化していった。
現在では人類の起源とは別に、地質層序や気候変動を併用して決定しているらしい。
サルとヒトは、何が、どう違うのか?
興味深いテーマである。
掛谷氏の追悼文集が公開されている(特集 掛谷誠氏追悼)。
これを読むと、吉本隆明の著書などにも目を通していたようだ。
我らの世代らしいところである。
吉本隆明に『アフリカ的段階について―史観の拡張』春秋社(1998年5月)という魅惑的なタイトルの著書がある。
もちろんマルクスを意識した野心作であるが、私には評価不能である。
掛谷氏の意見を聞いてみたいと思っていたが、永久にその機会は失われてしまった。
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