原発再稼働に関する2つの地裁判断/技術論と文明論(24)
新規制基準に基づく原子力規制委員会の安全審査に合格した原発の再稼働を巡り、10日足らずの間に正反対の司法判断が示された。
福井地裁の関西電力高浜原発3、4号機の再稼働を認めない仮処分と鹿児島地裁の九州電力川内原発1、2号機の再稼働差し止めの申し立てを退けた判断である。
両地裁の判断を比較すると下表のようである。
東京新聞4月27日
対照的な判断であるが、根本に技術観・文明観の違いがあるように思われる。
1.新規制基準
福島第一原発事故を踏まえて改訂されたが、この基準をクリヤーすることは、再稼働の十分条件なのか必要条件なのかという観点がすっぽり抜け落ちているのではないか。
私は、「再稼働の十分条件になる基準」というものが考えられない。
あくまでも必要条件でしかないはずだ。
⇒2013年7月 9日 (火):規制委の安全性審査は必要条件ではあるが十分条件ではない/花づな列島復興のためのメモ(243)
次の文意に全面的に同意する。
残念ながら、私は審査合格だけでは安全を確保することは難しいと考える。何故ならば、再稼働を申請する電力会社には安全を確保するために自ら思考する様子が見えないからである。これは、丁度、受験生が入試問題に対する「傾向と対策」を準備するように、電力会社が再稼働を認めてもらうための「傾向と対策」として必要最小限の対応をしているように私には見える。試験のための勉強はするけれども、人生のための勉強をしない学生のような姿勢を電力会社に見てしまう。これは言い過ぎだろうか?
福島原発事故をふり返って見れば、事故を引き起こした原因は地震・津波以外にも幾つかある。沢山の要素が複雑に絡み合っている。事態進行のプロセスが解明されたとはとても言えない。事故の全体像を深く科学的に解明する作業の熱意が次第に冷めてゆく中、除染、汚染水対策、廃炉などの事故後の問題だけが話題となっている。「何故事故が起きたのか」の真摯な反省と究明をあいまいにしたまま、燃料輸入増加という経済問題の視点から再稼働ありきが進行している。しかし、経済問題を持ち出すことは原子力事故に対する問題のすり替えである。
再稼働の条件/電力会社が自ら安全を考えること
2.原発の安全性
新基準に適合すれば重大事故のリスクは許容できるほど小さいと考えるのか、事故のリスクが少しでもあれば許容できないとするかであろうか。
この問題は武谷三男編『安全性の考え方』岩波新書(1967年5月)を参照すべきであろう。
⇒2012年7月25日 (水):政府事故調の報告書/原発事故の真相(41)
「8 原子力の教訓」に「利益と有害のバランスが許容量」という項目がある。
米原子力委員のノーベル賞学者リピー博士は「許容量」をたてにとって、原水爆の降灰放射能は無視できると宣伝につとめた。
・・・・・・
この考え方で、ようやく「許容量」が有害か無害か、危険か安全かの境界として科学的に決定される量ではなくて、人間の生活という観点から、危険を「どこまでがまんしてもそのプラスを考えるか」という、社会的な概念であることがはっきりしたのである。
pp123~124
再稼働を巡る国民の意見の違いにも通じると言えるが、政府の言うように、「新規制基準に合格した原発の再稼働を進める」が正しいとは言えない。
鹿児島地裁の「社会通念上無視できる程度に小さく」というのが、具体的にどの程度なのか、イメージできない。
核の恐ろしさを考えると、結局、福井地裁のように「万が一にもない」に行き着くのではないか。
3.基準地震動&4.火山噴火の危険性
まず、超過確率について確認しておきたい。
地震の発生確率と地震動の超過確率
地学的事象にはまだまだ不明な問題が多い。
日本列島が地質学的な活動期に入っていると見るべき根拠は多数ある。
⇒2014年12月30日 (火):天地動乱の時代の到来?/日本の針路(92)
折しも、知床半島で不気味な海底隆起が起きたというニュースが伝えられている。
北海道の知床半島の海岸沿いに、1日の間に新たな陸地が出現した現象から一夜明けた25日朝、地元の羅臼町など関係機関の担当者が現地を訪れた。新たな陸地には海藻やウニなどの海洋生物が多数付着し、崖崩れなどではなく、「海底の隆起」だと判断した。町によると、近くの町道が幅20~30メートルにわたって陥没しており、町は同日朝、「災害対策本部」を設置した。
謎の海底隆起、300メートル超に 近くの町道は陥没
ネパールの大規模地震もあったところである。
鹿児島地裁の判断は楽観的過ぎるのではなかろうか。
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