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2015年3月25日 (水)

70年有識者懇のゲストの東大話法/日本の針路(127)

安倍首相が「70年談話を出すについて、「有識者懇談会」が設置されている。
正式には「20世紀を振り返り21世紀の世界秩序と日本の役割を構想するための有識者懇談会」といい、「21世紀構想懇談会」と略すようだ。
以下のような人が委員になっている。
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マスコミによく登場し、私なども知っている人もいれば余り目にしたことのない人もいる。
3月13日開催の第2回会合の議事要旨が官邸のサイトに公開されている。

 要旨によると、北岡伸一座長代理(国際大学長)が冒頭、「日本は無謀な戦争でアジアを中心に多くの犠牲者を出した。1930年代後半から植民地支配が過酷化した。政府、軍の指導者の責任は重い」と意見表明。「日本がアジア解放のために戦ったというのは誤りだ」と述べた。北岡氏は会合当日、「歴史学的にはもちろん侵略だ」と発言したと記者団に明かしている。
 続いて委員以外の有識者として出席した奥脇直也・東大名誉教授が、国際法の観点から意見表明。侵略の定義について「今なお国際社会が完全に一致点を見いだしたとは言えない」と説明した。
 その後の各委員の発言は匿名で記載され、約半数が侵略に言及。「日本は自衛のための判断を間違えた。当時の価値観から見ても侵略だった」「歴史的、政治的な面から、侵略的な側面は認めざるを得ない」などの発言があった。一方では「定義が曖昧で、歴史家の中で異論がある」「侵略という言葉を使用するのは問題を帯びる」などの慎重論も出た。
戦後70年談話:「侵略」表現に賛否 第2回会合 有識者懇、結論出ず

ゲストの奥脇直也氏の発言に対して、泥憲和さんがFacebookで明快に批判している。

 奥脇直也・東大名誉教授が侵略の定義について・・・・・・
 ・・・・・・
 1974年の国連総会で決議された「国連決議3314」。
 この決議は一般に「侵略の定義に関する決議」と呼ばれている。
 この決議によれば、侵略行為かそうでないかを最終的に認定するのは国連安保理である。
 すると常任理事国の行為が侵略であると認定するのは不可能である。
 いま議論が続いているのは、「安保理事会が認定する」というようなことではなく、もっと明確に客観条件を定めることができないかという、立法技術的なことである。
 議論は、侵略の定義を明確にする方向に向いている。
 あいまいにする方に向いている安倍さんや奥村名誉教授の向きは、時代の潮流と正反対なのだ。
 では大日本帝国の戦争がどんなだったかを確かめよう。
 これは簡単だ。
 大日本帝国は1938年に「近衛声明」というものを発表した。
 中国に対してさらに戦争を継続するという声明だ。
 戦争を継続する理由は、簡単にいえば「日本が攻撃しているのに降参しないのがけしからん」という無茶なものだった。
 第二次近衛声明は「第一次声明で中国政府を対手とせずとあるのは、否認するよりも強い意味だ」といい、「この際、国際法の先例を開いて、相手を抹殺するのである」とまで述べている。
 ほんとうに「抹殺する」と述べているのだ。
 ここまであからさまな侵略声明はめったにない。
 「攻撃しているのに負けないとはけしからん、抹殺する」なんてのが侵略でなかったら、いったい何を侵略というのか。
 いま国際社会が議論していることと、大日本帝国の戦争は、まったく関連がないのだ。
 奥脇直也・東大名誉教授は専門家だから、こんなことぐらいは先般承知のはずである。
 つまり奥村名誉教授は、十分に分かっていながら、あえて議論をあらぬ方向に曲げようとしているのだ。
 学問的・法的な話のように見せかけているが、じつはそんな話をしているのではないのだ。
 どうにかして結論を侵略戦争に持っていかないために、政治的議論をしているのだ。
・・・・・・

まったくシンプルな事柄を、概念規定の問題にして曖昧化するのは常套手段だろう。
近衛声明によって、日本は中国国内で交渉相手をなくしたも同然となった。
破滅に向かって邁進するしかなかったのである。
Photo
大日本帝国の轍 取材日記

奥脇氏のように、いたずらに議論を複雑化させ、曖昧化する論法は、原子力ムラの常套手段であった。
これを「東大話法」という。
⇒2012年9月20日 (木):もはや嗤うしかない「革新的エネルギー・環境戦略」の「東大話法」
⇒2012年10月10日 (水):「霞ヶ関文学」と「東大話法」はメダルの表裏/花づな列島復興のためのメモ(149)

安倍首相は、自衛隊のことを、思わず「わが軍」と発言した。
これとても、「軍隊とは何か」といったスコラ的な論議にしようと思えばいくらでもできよう。
事実、菅官房長官は、「自衛隊も軍隊の1つ」と言っている。

 菅義偉官房長官は25日午前の記者会見で、安倍晋三首相が20日の国会質疑で自衛隊を「我が軍」と答弁したことをめぐり、「自衛隊は我が国の防衛を主たる任務としている。このような組織を軍隊と呼ぶのであれば、自衛隊も軍隊の一つということだ」と述べた。
 菅氏は「自衛隊は憲法上、必要最小限度を超える実力を保持し得ないなどの制約が課せられており、通常の観念で考えられる軍隊とは異なる」と、従来の政府見解に沿って自衛隊の解釈を説明した。そのうえで、「自衛隊は一般的に国際法上は軍隊に該当することになっている。自衛隊が軍隊かどうかというのは、軍隊の定義いかんによるものだ」とした。
菅氏「自衛隊も軍隊の一つ」 首相の我が軍発言巡り

自衛隊は事実上の軍隊ではあろうが、今それを言ったらおしまいというものだろう。
まあ、マスメディアで知られた顔ぶれからすると、有識者懇というのも、おそらく結論ありきの会合になるに違いない。
⇒2015年3月10日 (火):70年談話とメルケル独首相の来日/日本の針路(119)

先の「八紘一宇」といい、いよいよ戦前回帰の「空気」が充満してきた。
⇒2015年3月18日 (水):確信的「無知」の「無恥」・三原じゅん子/人間の理解(10)
かつて山本七平氏は、われわれが何かを判断するときの基準に「空気」が大きな役割を担っている、とした。
⇒2008年4月28日 (月):山本七平の『「空気」の研究』

空気とか「風」に左右されているうちに、取り返しがつかなくなる。
⇒2009年9月 1日 (火):総選挙における「風」と「空気」
⇒2015年3月22日 (日):日本国民の「茹でガエル」を憂う/日本の針路(125)

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