人命軽視の積極的平和主義/世界史の動向(34)
湯川、後藤両氏の殺害という結果は痛恨の極みである。
政府もメディアも「イスラム国は許しがたい」「テロには屈しない」の大合唱であり、私もそう思うがここは情に流されずに、理で考えたい。
東京新聞2月2日
安倍政権の対応についてである。
「LITERA]というサイトの『交渉を妨害し後藤さんを見殺し
私がメディア等の報道に接していて疑問に感じていたことの多くに応えてくれるように思われる。
田部祥太という署名がある。
1.官邸の救出の本気度
湯川さん、後藤さんの拘束について、昨年11月時点でヨルダンに対策本部を設置していることから、情報としては早くから認識していた。
ところが救出に前向きに動き出そうとしたのは、「イスラム国」が2人の動画を公開して、日本の世論が後藤さんの救出の方向の集約されてからである。
外務省は上村中東アジア局長が中心になって、「イスラム国」と秘密裏に交渉を進めていた。
しかし官邸は、交渉の自由も低額の身代金も払うかどうか判断しなかったので、外務省も動きようがなかった。
官邸はこの問題に無関心で、棚ざらしにされていた。
2.選挙に関心が向いていた官邸
内閣改造が裏目に出て、目玉のハズの小渕・松島両大臣がミソをつけ、政権としては流れを変える必要に迫られていた。
官邸の関心事は解散総選挙で、後藤さんが人質にとられていることが発覚すると、選挙に影響を与えるという判断があったと思われる。
情報が漏れないようにするのが最優先にされ、外務省も動きをストップさせられてしまった。
3.交渉窓口をヨルダンにした
昨年11月にヨルダンに現地対策本部を置き、交渉窓口をヨルダン政府に委ねてきたのは、ヨルダンが親米国であり、「イスラム国」ともっとも激しく対立している国であるからであろう。
ヨルダンは「イスラム国」空爆の有志連合にも参加している。
「イスラム国」を硬化させるあるいは挑発と受け止められかねない選択であった。
ヨルダン政府を巻き込んだ結果として、ヨルダン国内に収監されているリシャウイ死刑囚の要求というカードを「イスラム国」に与えることになり、交渉の要因を複雑化させた。
4.トルコチャネルのネグレクト
専門家には、ヨルダンではなくトルコに協力を求めるべきだという声もあった。
トルコは、アメリカの中東政策から距離を置き、オバマ大統領の攻撃参加要請も拒否している。
人質に取られたトルコ国民49名の解放に成功している。
集団的自衛権の行使にもきわめて慎重だ。
しかし良好だったヨルダン・日本の関係に多少でもヒビが入り、日本がアメリカ側の国家であることが中東各国に明瞭に印象付けられたとすれば、「イスラム国」の術中にはまったとも見える。
5.2億ドル支援
「イスラム国」の当初の要求・身代金2億ドルは明らかにカイロでの2億円支援演説を受けたものだ。
これについては、英文を見れば人道支援というよりも戦闘支援のニュアンスである。
6.安倍首相は「イスラムと闘う」と明言
安倍首相は、対「イスラム国」に強硬的な姿勢をとるアメリカに、いい顔をみせたかったのだろう。
しかし安倍首相はこの時点で、湯川さん、後藤さんが拘束されていることを知っていたはずで、にもかかわらず、こんな挑発的な台詞を口にしている。
つまり、この時点で彼らの生命よりアメリカの顔色が重要だったということを意味している。
安倍首相が「人命を第一優先に」と口にしたのは、「イスラム国」が2人の動画を公開して日本のメディアが取り上げるようになって以降である。
安倍首相の唱える積極的平和主義とは、畢竟、自国民の人命軽視という基盤の上にあることが改めて確認されたわけである。
邦人救出に自衛隊を使えるようになどと言っているが、米軍でも自国民を救出できていないことを考えれば現実的ではない。
自衛隊を危険地域に派遣したくて仕方がないようである。
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