「美しい属国」化により歴史に名を残す安倍首相/日本の針路(107)
安倍首相は、第1次安倍内閣が成立する直前に『美しい国へ』文春新書(2006年7月)を出した。
もちろんゴーストライターがいるのであろうが、とりあえず彼の書いたものとして扱う。
第二章に次のような記述がある。
日本の国は、戦後半世紀以上にわたって、自由と民主主義、そして基本的人権を守り、国際平和に貢献していた。当たり前のようだが、<世界は、日本人のそうした行動をしっかり見ているのである。><日本人自身がつくり上げたこの国のかたち>に、わたしたちは堂々と胸を張るべきであろう。わたしたちは、こういう国のあり方を、今後も決して変えるつもりはないのだから。」
ところが戦後70年という節目の年にあたり、首相談話を準備していると聞く。
かねてから、戦後レジームからの脱却を主張しており、村山談話、河野談話の見直しという歴史認識の修正をしたいと言っている。
この両者は安倍首相の中で、どう整合しているのだろうか。
「イスラム国」による日本人殺害という自らの判断ミスとされかねない事態を逆用して、「テロとの戦いにひるむな」と昂然とした様子である。
イスラム国からの「犯行声明」、あるいは彼らをテロリストと呼び、彼らとの戦いを「対テロ戦争」と呼ぶなら、まさしく「宣戦布告」であるが、そうした声明をイスラエルに訪問しているタイミングで受けとった安倍総理の間の悪さについて、東京大学名誉教授の板垣雄三氏は、先ほど私の電話での取材に応じて、こう答えた。
「ヨーロッパでイスラエルは孤立している。欧米とイスラエルにすれば、日本がしゃしゃり出てきたのはもっけの幸いでしょう。日章旗とイスラエルの旗が並んだその前で記者会見を行なうという、最悪の状況で『テロとの戦い』を宣言してしまった。これははめられましたね。安倍総理の決定的な政治的ミスです。一般のマスメディアは、イスラムは親日的だから、欧米の人質と違って、特別扱いしてくれるのではないか、などと言っておりますが、大間違いです」
「はめられた」安倍総理の決定的な政治的ミス! 〜イスラエル国旗と日章旗が並ぶ前で、「イスラム国との戦い」を事実上宣言
日章旗とイスラエルの国旗が並んだというのは以下である。
「卑劣なテロはいかなる理由でも許されない。断固として非難する」──。事件後、安倍首相はエルサレムで行った緊急会見でこう強調していたが、会見映像を見て驚いた人は多かっただろう。背景に白地に青い六芒星のイスラエル国旗が掲げてあったからだ。
イスラエルは、イスラム世界で敵視されている。そのイスラエルに日本の軍需産業の幹部を引き連れて訪問しただけでなく、国旗の前で戦う姿勢を示したのだ。「イスラム国」だけでなく、イスラム世界全体にケンカを売ったのも同然だろう。
日本人殺害予告 安倍政権が事件発生後に犯した“3大失態”
確かに、安倍首相はイスラエル国旗が持っている国際社会におけるコノテーション(潜在的意味)を、全然理解していないと言えるだろう。
⇒2015年2月14日 (土):安倍政権は外交オンチか、狡猾なのか?/日本の針路(106)
このような状況に、田中秀征氏が警鐘を鳴らしている。
安倍首相は、今回の「イスラム国」問題が日米一体化の流れを加速させると考えているのだろうか。国会審議でも一段と強硬姿勢になったようだ。
この日本の動きに呼応するかのように、6日、オバマ政権は5年ぶりに国家安全保障戦略を発表した。今後の外交政策、軍事政策の基本方針である。この新戦略のキーワードは、「同盟国との連携重視」、「アジア重視」だが、この2つが揃えば、新戦略は日本の役割に過大な期待があると言わざるを得ない。
トラウマがある。その反省に立った新戦略なのだろう。そうならば、連携重視の方針で日本への役割分担は新戦略の核心部分である。しかも、米国が頼まなくても進んで引き受けるということだから願ってもない。
オバマ大統領は新戦略の前文で「米国は常に国益を守り、われわれの同盟国や友好国に関与し続ける」と明記している。あくまでも米国の軍事戦略の第一義は米国の国益であることに念を押している。
米国の国益が日本の国益に沿うことも多いが、すべてがそうであるわけではない。それどころか米国の仕掛けた戦争がイラク戦争のように事後的に間違いと総括されたこともある。「イスラム国」発生の遠因はイラク戦争だと言えるが、このような戦争にこれから日本が加担していくことは、日本のためにならないばかりか、世界のため、何よりも米国のためにもならない。
日本が米国戦略における役割分担を飛躍的に増大させるとどうなるか。米国は資金と生命の犠牲を格段に減らすことができる。そうなれば、連邦議会や世論からの反対論が当然弱まるだろう。その結果、米政府は、戦争を今よりもっとやり易くなる可能性が出てくる。
日本が名実ともにアメリカの従属国になる!?
そしてオバマ大統領の任期末が近づいているが、ひょっとすると日本を取り込んだことが彼の歴史的業績になるかもしれないという。
米国が日本を従属国化しようとしているというより、日本が進んで米国に従属しようとしているような印象だという。
つまり、安倍首相は日本をアメリカの従属国にしようということである。
| 固定リンク
「ニュース」カテゴリの記事
- スキャンダラスな東京五輪/安部政権の命運(94)(2019.03.17)
- 際立つNHKの阿諛追従/安部政権の命運(93)(2019.03.16)
- 安倍トモ百田尚樹の『日本国紀』/安部政権の命運(95)(2019.03.18)
- 平成史の汚点としての森友事件/安部政権の命運(92)(2019.03.15)
- 内閣の番犬・横畠内閣法制局長官/人間の理解(24)(2019.03.13)
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 藤井太洋『東京の子』/私撰アンソロジー(56)(2019.04.07)
- 内閣の番犬・横畠内閣法制局長官/人間の理解(24)(2019.03.13)
- 日本文学への深い愛・ドナルドキーン/追悼(138)(2019.02.24)
- 秀才かつクリエイティブ・堺屋太一/追悼(137)(2019.02.11)
- 自然と命の画家・堀文子/追悼(136)(2019.02.09)
「日本の針路」カテゴリの記事
- Happy New Year(2019.01.01)
- 沖縄知事選の対決の構図/日本の針路(411)(2018.09.10)
- 不気味な日本列島の地殻変動/日本の針路(410)(2018.06.18)
- 佐川証言の虚偽/日本の針路(409)(2018.04.01)
- 麻生大臣の軽さと不見識/日本の針路(408)(2018.03.31)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント