「この道しかない」はソフト・パスだ!/技術論と文明論(17)
エネルギー政策に、ハード・パスとソフト・パスという2つの路線があることを示したのはエイモリー・ロビンズという若き物理学者であった。
彼の著書『ソフト・エネルギー・パス』の邦訳(室田泰弘、槌屋治紀訳)が、1979年に時事通信社より刊行されて日本人にも馴染みとなった。
ロビンズは1947年生まれ、原著の出版は1977年であるから、弱冠30歳の時ということになる。
ハード・パスとソフト・パスについて、日本語版の「序言」を書いている大来佐武郎氏は、次のように整理している。
①現在(当時)先進各国においては、主としてハード・パスがとられている。
②今後もエネルギー需要が増大するとして、石油の供給は頭打ちにならざるを得ず、その不足は原子力や石炭に頼ることになる。
③ハード・パスには、核拡散、廃棄物問題、集中志向になりやすい等の問題がある。
④ソフト・パスは、再生可能エネルギーを供給の中心に置き、需給ギャップの調整のために省エネを図る。
以上のような整理を改めて読めば、池内了氏が『科学・技術と現代社会 下 』みすず書房(2014年10月)で提言している「地上資源文明」は、まさにソフト・パスであることが理解できる。
『ソフト・エネルギー・パス』の日本語訳が出てから、35年が過ぎた。
しかもその間に原発事故が起き、未だに多くの人がハイマートロスの状態にある。
⇒2015年1月22日 (木):ふる里を諦めざるを得ない原発避難者/原発事故の真相(125)
ということを考えれば、ソフト・パスへの傾斜を加速すべきだと、通常は考えるであろう。
にもかかわらず、日本では明確にソフト・パスを選択しようという合意ができていない。
市民レベルでは脱原発志向は一定のウェイトを占めてはいるが、残念ながら国政選挙の争点としては曖昧にされた。
多数を占めた自公政権は、原発再稼働と将来の比重をなるべく高くしようと画策している。
東京新聞1月31日
政府は東京電力福島第一原発の事故で、同原発1号機が四十年を超え老朽化していたことなどを重視、一二年の法律改正で運転期間を四十年に区切った。経産省は「現時点で原発の新増設は想定していない」としており、多くの原発が再稼働したとしても時間がたてば自然に原発は減る。同省試算では、火力なども含めた総発電量が一定と仮定すると、原発の占める割合は二八年度に約15%と〇九年度の半分になり、三〇年度はさらに下がる見通し。
しかし、原発は原子力規制委員会の特別点検に通れば最長六十年まで運転を延ばせる。安倍政権は原発の維持推進を目指しており、経産省は原発の割合を引き上げるため「延長特例を利用する想定を置く」(同省関係者)方針だ。
三十日の初会合でも、経産省が配った資料は「天然ガスなど化石燃料への依存度が急上昇している」など原発の必要性を示唆する内容がほとんど。一方、再生エネルギー計画で21%以上を目指すとした再生エネについては「増やすと電気料金も上がる」と後ろ向きの説明に終始した。
会合では委員の橘川武郎一橋大大学院教授が「政府は『原発は可能な限り減らす、再生エネは最大限導入』と言っているのだから、再生エネは(最低でも)30%、原子力は15%ぐらいでないとおかしい」と原発回帰の議論にくぎを刺した。同調査会基本政策分科会委員の福井県の西川一誠知事も「原子力規制委は安全の責任をとらないので、政府が規制委の認めた原発は動かすといっても国民の支持は得られない」と批判した。
2030年度の電源構成案 60年運転前提 原発20%に上昇も
つとに安倍政権の暴走を危惧してきた。
⇒2014年2月14日 (金):安倍首相の暴走をコントロールするのは?/花づな列島復興のためのメモ(307)
⇒2014年10月14日 (火):経済政策の自壊と暴走政権の行方/アベノミクスの危うさ(40)
認知症高齢者などの高速道路逆走の事例が報道されているが、安倍政権も暴走というよりも逆走というべきなのかも知れない。
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