「地上資源文明」の可能性/技術論と文明論(15)
池内了『科学・技術と現代社会 下 』みすず書房(2014年10月)にきわめて示唆に富んだ提言が書かれている。
それは「課外講義Ⅴ 地下資源文明から地上資源文明へ」である。
著書の全体はまだ目次を眺めている程度であるが、刮目すべき内容だと思われる。
東日本大震災とりわけ福島原発事故は、私たちに薄れていた「成長の限界」意識を呼び覚ました。
私は、原発事故が大きく報道される中で、震災からの復興に文明史的視点が欠かせないだろうと思った。
⇒2011年3月22日 (火):津々浦々の復興に立ち向かう文明史的な構想力を
ところが、民主党政権の程度の低さによって自民党が政権に復帰すると、安倍首相は従来のパラダイムの延長線上のアベノミクスという経済政策を掲げ、原発再稼働に前のめりになった。
アベノミクスのメリットをを全国の「津々浦々に」と言っているが、根本的な認識の違和感をどうすることもできない。
⇒2015年1月14日 (水):LOHASと「早送り」/日本の針路(97)
私は工業文明の行き詰まりを打開する視点として、坪田知己『サービス文明論: 「多様性」を支える時代が始まる』Symphocity Digital Publishing刊(2014年6月)を評価したいと述べた。
⇒2015年1月 3日 (土):福島第一原発事故と新しい文明/技術論と文明論(12)
坪田氏は俯瞰的な視点で、アルビン・トフラーの『第三の波』に依拠しつつ、第三の波である工業文明が既に飽和点に達していることを示し、次の文明として「サービス文明」を提案している。
工業文明の原則は、規格化・分業化・同時化・集中化・極大化・中央集権化であったが、サービス文明ではそれらは、タイムシフト・連携・多様化・特定顧客志向・分権化・分散化へ交代する。
工業文明の基本原理を他律・集中・同調とすれば、インターネットは、自律・分散・協調である。
サービス文明とインターネットは親縁性があるといえよう。
特定顧客志向や分散化などは、滝川クリステルさんのプレゼンでお馴染みの「おもてなし」とも重なろう。
そしてサービス文明と相性の良いのが「地上資源文明」ではなかろうか。
産業革命以降の近代化・工業化を支えたのは、地下資源の利用である。
産業革命は1760年代にイギリスで起こったことを考えれば、250年程度の歴史に過ぎないが、近代とそれ以前を分かつ分水嶺である。
特に現代文明は石油文明ともいえるくらい、多面的に石油の「濫費」の上に成り立っている。
「石油の寿命はあと30年」というのが私の若い頃から変わらぬ表現であるが、それは主として探鉱・採掘の技術革新と価格上昇によるだろう。
石油が有限な資源であることには変わりなく、現在のような「濫費」がいつまでも持続するはずがない。
次の世代のことを考えれば、可及的速やかに石油文明からの脱却を試みるべきであろう。
石油生産量の予測は難しいが、以下のグラフを掲げる。
エネルギーから見た環境・食糧問題
地下資源の技術体系は、大量生産に向いている。
生産におけるスケールメリットの追求である。
大量生産されたものはいずれは大量廃棄されるのであるが、大量廃棄プロセスをネグレクトしているのが現代文明である。
その典型が原発であることは、核燃料廃棄物が処理さえできていないことをみれば良いだろう。
⇒2015年1月27日 (火):プルトニウムは次世代原子炉の燃料になるか?/技術論と文明論(14)
地上資源は地下資源ほど効率的ではない。
従って、地下資源文明とは対極的に、小型化・多様化・分散化という特徴を持つ。
必然的に「地産地消」という方向性になり、「地産地消」ということになって、「地方創生」にも都合がいいだろうと思うが、安倍首相、石破大臣および彼らの取り巻きは、ほとんど関心の外だろうなあ。
また、日本列島は貞観期以来の活性状態だという見方がある。
⇒2014年12月30日 (火):天地動乱の時代の到来?/日本の針路(92)
⇒2015年1月17日 (土):阪神淡路大震災から20年/日本の針路(99)
自然災害に対する強靱性・回復力(レジリエンス)という点でも優位性がある。
池内了『科学・技術と現代社会 下 』みすず書房(2014年10月)
手遅れにならないうちに転換の準備を始めるべきではないだろうか。
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