『21世紀の資本』と富の偏在/アベノミクスの危うさ(44)
衆院選の結果を受けて、先ず衆院議長に町村信孝氏が、次いで内閣総理大臣に安倍晋三氏が選ばれた。
これで第3次安倍内閣がスタートしたわけである。
とりあえずアベノミクスといわれるものが継続することになる。
アベノミクスの効果を説明するのに、トリクルダウンという言葉が使われている。
企業の業績改善は、雇用の拡大や所得の上昇につながり、さらなる消費の増加をもたらすことが期待されます。こうした「経済の好循環」を実現し、景気回復の実感を全国津々浦々に届けます。(首相官邸HPより)
これはいわゆるトリクルダウン理論(trickle-down theory)と呼ばれるもので、「富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が滴り落ちる(トリクルダウン)する」とする経済理論です。
トリクルダウン理論とは?景気回復を全国に!
なんとなく、おこぼれを頂くようなイメージになるが、図化すれば以下のようである。
トマ・ピケティ/山形浩生、守岡桜、森本正史訳『21世紀の資本』 みすず書房(2014年12月)が評判である。
私は当面手にする予定はないが、雑誌等の紹介記事は目にする。
⇒2014年8月23日 (土):消費増税と景気対策/アベノミクスの危うさ(38)
Amazonの内容紹介によれば、以下のような著書である。
≪資本収益率が産出と所得の成長率を上回るとき、資本主義は自動的に、恣意的で持続不可能な格差を生み出す≫
格差は長期的にはどのように変化してきたのか?
資本の蓄積と分配は何によって決定づけられているのか?
所得格差と経済成長は、今後どうなるのか?
18世紀にまでさかのぼる詳細なデータと、明晰な理論によって、これらの重要問題を解き明かす。格差をめぐる議論に大変革をもたらしつつある、世界的ベストセラー。
乱暴に要約すれば、ストックから得られるフローが平均的なフローを上回れば、格差は拡大するということを実証的に示したものといえよう。
欧州における格差拡大のメカニズムは、それぞれの世帯が所有する資産額に大きな格差があること、そしてこの資産格差が所得格差を生み、それがまた資産格差を拡大させるというものである。具体的には、「資本収益率」(株式や不動産投資などにおける利回り)が、1914年から1970年までの期間を除き、常に「経済成長率」(賃金の伸び率とほぼ同一)を上回り、このことにより、持てる者はより資産・所得を増やし、持てない者との間の格差が拡大していった、ということである。ちなみに、18世紀以降では、「資本収益率」は平均して5%、「経済成長率」は1~2%であった。欧州では、第1次世界大戦から1970年代までは格差は一旦縮小したが、1980年以降は再び拡大し、格差が拡大していた100年前の状態に近づいている。
トマ・ピケティの『21世紀の資本』の読み方
ピケティ入門 「21世紀の資本」の読み方』金曜日(2014年12月)という解説書が出ていて、次のように解説している。
一方、ピケティはある国に住んでいる人たちの年間所得の総額を『国民所得』とします。こうした1年間の経済活動による『所得』の総額に比べ、先に述べた資本の総額が極端に大きいということは、資産の蓄積度が高いということになります。この資本総額を総所得で割った比率が『資本/所得比率』であり、これはβ(ベータ)と呼ばれます」(P.20)。要するに、簡単に言えば、「国民所得」とはフローであり、βとはストック/フローの意味だ。このβの値が、高ければ高いほど、その国民経済のその年の格差は大きいことになり、逆に小さければ小さいほど、格差は小さいということになる。
竹信三恵子の『ピケティ入門』と若干の問題点 - 不正確なマルクス認識
また、池田信夫『日本人のためのピケティ入門: 60分でわかる『21世紀の資本』のポイント』東洋経済新報社(2014年12月)も出ている。
「ピケティの主張は、次の資本主義の根本的矛盾と呼ばれる不等式で表現されています。 r>g ここでrは資本収益率、gは国民所得の成長率です」(14~5頁)。
「成長が停滞した社会では、過去に蓄積された富の比重が大きくなり、社会構造と富の分配に重要な影響を与えます」(54頁)。
「1950年代や60年代の最高税率が80~90%だった時期には、経営者は報酬を上げることにそれほど強いインセンティブがなかったでしょう。しかしそれが30%代になれば、自分の報酬を上げるために友人を取締役にし、彼らの報酬も引き上げて互いの利益になるように考えるのは当然です。・・・ 経営者の報酬と高い相関関係があるのは、彼らの能力ではなく「運」です。そして統計的にもっとも高い相関があるのは、累進税率の低下なのです」(74頁)。
「ピケティが提案するのは、グローバルな累進資本課税と、世界の政府による金融情報の共有です」(75頁)。
わが国の実体はどうか?
日経ビジネスオンライン12月19日号に岡直樹『日本でも納税者の0.1%に富が集中する傾向が顕著』という記事が載っている。
著者は、前国税庁国際課税分析官である。
ピケティと同じ手法で日本について分析したものである。
まず、わが国の「富の分布」の概況を次のように説明する。
2010年に2000万円を超える申告をした納税者は31万人で、この年のわが国の納税者数は約5500万人(総務省調べ)なので、Top 0.6%だ(本コラムではTop1%とみなす)。また、5000万円を超える申告をした納税者は5万人なので、Top0.1%(細かくは0.09%)に相当する。なお、2010年において米国の納税者のTop1%に該当するためには最低42万ドルの所得が必要なので、120円で換算すると5000万円相当だ。
つまり、申告所得2000万円超の1%くらいの人が、富裕層という言葉に相当し、特に5000万円超はアメリカと比肩しても富裕ということになる。
Top0.1%(申告所得5000万円超)が得ている所得の種類は下図の通りである。
岡氏は次のように要約している。
図からわが国のTop0.1%の所得構成の特徴として次が挙げられる。
(イ)勤労所得である給与所得の割合が高い
(ロ)いわゆる「富」からの所得として、(1)株式譲渡所得、(2)不動産の譲渡、(4)不動産の貸付からの所得が目立つ。
(ハ)10億円を超える納税者は所得の7割が株式等譲渡所得であり、言い換えれば10数億レベルに達するためには株式譲渡所得が必須だ。
富裕の程度が高いほど、給与所得以外の所得の比率が大きくなるのは当然だろう。
また、割合でなく、絶対値でみれば給与所得の額も大きくなっているであろう。
社会が成熟してくると、過去の蓄積の差の影響力が大きくなる。
何らかの社会政策が行われない限り、格差は増大するのである。
冒頭に言ったように、低所得者は、富裕層からのトリクルダウンを待てというのがアベノミクスである。
気がついた時は既に手遅れという「茹でガエル」の教訓が頭に浮かぶ。
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