科学技術政策のあり方と大学の自由/知的生産の方法(112)
毎日のおびただしいニュースに、次々と風化していく大事件。
今では、佐村河内某をめぐる一連の出来事などは忘却の淵に沈んでしまったような気がする。
⇒2014年2月 7日 (金):佐村河内守代作問題/ブランド・企業論(18)
⇒2014年3月 7日 (金):佐村河内守の罪と罰/人間の理解(2)
しかし、佐村河内問題と同じ頃に端を発したSTAP細胞問題は、決して一過性のものとはできないだろう。
わが国は、自然資源に乏しいことから、科学技術立国は国是であったといってよい。
私を含め、1960年代に大学へ入学した人間のかなりの部分がその国是に貢献しようと思っていたはずだ。
残念ながら私は途中で挫折してしまったが、少なからぬ優れた友人たちに出会えたことは得がたいことだろうと思う。
ところで、科学技術界に内在している問題が露呈し始めたのは1960年代からであるように思う。
五島綾子『〈科学ブーム〉の構造――科学技術が神話を生みだすとき』みすず書房(2014年7月)が問題を抉っている。
〈科学ブーム〉とは、特定の科学技術に対する社会的関心が急激に高まり、 個人・企業・国や自治体に対して、その関連研究や関連商品への投資(購買)が煽られる現象である。
かつての石油化学や原子力工学がそうであったし、現在の再生医療がそうである。
政治による「選択と集中」が行われる。
しかし、その結果としてどういうことが起きるか?
STAP細胞問題で注目を浴びた理化学研究所(理研)についてみよう。
理研には約3000人の研究者がいる。
1917年に財団法人の研究機関として発足し、1958年に特殊法人に、2003年に独立行政法人になった。
独法化により自由度は高まったか?
事業の効率化と研究実績が厳しく要求され、国の関与が強まった。
杉晴夫『論文捏造はなぜ起きたのか?』光文社新書(2014年9月)によれば、大学も独法化によって同じような結果を迎えている。
2001年、文科省は、政府の経済財政諮問会議に以下の3点を強調した大学法人化方針案を提出した。
①国立大学のスクラップ・アンド・ビルドによる活性化
②民間的発想による経営手法の導入
③国立大学への第三者の評価による経営原理の導入
この案に沿って、2003年に国立大学法人法案が国会で承認され、2004年独立行政法人となった。
この結果、研究者の評価がインパクトファクター(学術雑誌を対象として、その雑誌の影響度、引用された頻度を測る指標)中心主義になった。
インパクトファクターを獲得しなければ科研費にも恵まれず、就職にも影響する。
研究者は、以下のような理由でデータ捏造に走る。
①研究者本来の研究の自由が奪われ
②すぐに結果が出るような研究に駆り立てられ
③研究費が使い切れなくても使い切らねばならず
④ある期限内に成果(インパクトファクターで機械的に評価される)を出さなければ研究者としての生命を絶たれかねない
これらは決して免罪符となり得るものではないが、インパクトファクターの係数の高いネイチャーやサイエンス誌を舞台とした論文不正が生まれる土壌となった。
私は、大学の自治とか自由は、最大限に尊重されるべきだと考える。
京都大学で11月4日、公安捜査を担当する京都府警の男性捜査員が、学生約20人に教室に連れて行かれ、府警が大学周辺に機動隊員ら100人を待機させる騒ぎがあった。
京大と府警によると、集会をしていた学生が、私服捜査員がいるのに気付き、教室で約3時間にわたり抗議。報告を受けた杉万俊夫副学長は、捜査員に無断で学内に入った事情を聴いた。
京大と府警は、大学の自治を守るため、警察官が学内に入る際には事前通告することを取り決めている。京大は「無断で警察官が立ち入ったことは誠に遺憾だ」とのコメントを出した。
杉万副学長は「私が見ていたときは学生に暴力行為はなかった。最初に教室に連れて行った際に何があったかはこれから調査する」と説明。府警は「なぜ警察官が学内に入ったかは言えない。学生の行動に事件性があるかどうかは今後検討する」としている。
京大学内に警官が無断侵入 学生が抗議
さらに学生寮の熊野寮を強制捜査し、学生と対立した。
東京・銀座でデモ行進の警備に当たっていた警察官に暴行したとして、京都大生ら3人が公務執行妨害の疑いで現行犯逮捕される事件があり、警視庁公安部は13日午後、京都市の京都大学の「熊野寮」の家宅捜索を始めた。捜査関係者への取材でわかった。
捜査関係者によると、3人は2日午後4時ごろ、東京都中央区銀座6丁目の路上で、国鉄職員の解雇撤回などを求めるデモ行進の警備に当たっていた機動隊員3人に体当たりしたり、殴ったりした疑いがある。いずれも20代の男で、中核派全学連の構成員で、このうち2人が京都大生という。調べに対し、3人とも黙秘しているという。
京大・熊野寮を捜索 警視庁公安部、公務執行妨害の疑い
特定秘密保護法が施行になると、公安捜査をし放題ということになるのだろう。
時代が一挙に巻き戻されている感じである。
2011年の東日本大震災で、見ないようにしていた問題が否応なく私たちの目の前に現れた。
福島原発事故という先端技術の脆弱性、土建国家と言われるほどに国土に力を注いで来たはずの自然災害に対する無力さ。
そしてSTAP細胞をめぐる一連の騒動。
これらの根底に、国家の株式会社化があるのではなかろうか?
「投資と回収」「集中と選択」といった思考様式では、真に「創発的」な研究を評価し得ない。
改めて科学技術のあり方について考える時ではなかろうか。
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