ラディカルな時代のラディカルな思考・松本健一/追悼(61)
評論家の松本健一さんが、11月27日亡くなった。
胃がんで闘病中だったという。
男の平均寿命が80歳を超えていることを考えれば、68歳というのは若過ぎると言って言いだろう。
1968年に東京大学経済学部を卒業し、旭硝子入社するが翌年退職した。
1969年に修士課程を修了し会社勤めを始めた私には、同時代人という感覚のある評論家だった。
旭硝子を直ぐに退職した判断も、あの頃の雰囲気として良く理解できる。
とりあえず就職してみたものの、本当に自分の人生はこういうことでいいのか?
ものごとを本源に遡って考えようとするラディカルな精神が横溢していた時代だったと思う。
もっとも大多数は、大企業の中に沈潜(埋没)してしまったのであるが。
法政大学大学院で近代日本文学を専攻。
1971年、『若き北一輝』を上梓し、在野の評論家、歴史家として執筆を続け注目される。
1994年から麗澤大学経済学部教授を務め、2009年麗澤大比較文明文化研究センター所長に就任。
竹内好、橋川文三らと同様に、右翼・左翼という分類を越えて歴史と思想が融合した領域で多くの著作がある。
民主党の仙谷由人元官房長官とは大学時代からの親友であり、その縁で2010年10月〜2011年9月、菅政権時代に内閣官房参与を務めた。
当時の内幕を冷静な目で批判して欲しいと期待していたところだった。
⇒2011年8月20日 (土):菅批判を始めた松本健一内閣官房参与
近著の『「孟子」の革命思想と日本―天皇家にはなぜ姓がないのか』昌平黌出版会(2014年6月)では、「天皇」という最大の「やまとの謎」に取り組んでいる。
⇒2012年3月19日 (月):吉本隆明の天皇(制)論/やまとの謎(58)
⇒2011年1月 7日 (金):初詣と神道と天皇制
書店で立ち読みしたところだったが、訃報に接するとは思わなかった。
33年かけて完成させた「評伝北一輝」(全5巻)ではファシストといったレッテルを排して、近代日本が生んだ特異な革命家の実像に迫り、司馬遼太郎賞、毎日出版文化賞を受けた。また「日本の失敗」では、第2次大戦を中国への侵略の延長ととらえ、日本が敗戦へと至った経緯を追った。冷戦終結後に勃興したナショナリズムについても論じた。
評論家の松本健一さん死去 近代日本の精神史を考察もう少しこの人の問題意識がどこに向かうのかを見てみたかったと思う。
合掌。
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