総選挙の大義と剥げ落ちたカンバン/日本の針路(69)
来週に解散総選挙を表明することが既定らしい。
野党各党は、「大義なき解散」と言っており、私もそう思うが、何だか負け犬の遠吠えのようにも聞こえる。
誰も「仁義なき戦い」に、大義など求めてはいない。
解散の大義はどうでもいいが、選挙の「争点」ははっきりすべきだろう。
端的に言えば、2年間の安倍政治をどう評価するかである。
アベノミクスはもちろんのことであるが、解釈改憲、特定秘密保護法などの内容と手法が問われねばならないだろう。
俗に、選挙には3バンが必要であるとされる。
ジバン、カバン、カンバンである。
カンバンは看板、すなわち告知のツールである。
Wikipediaでは次のように解説されている。
知名度。看板のように市中に知られている(目立つ)喩え。地元有名企業の社長(社名と同じ苗字など)、多選者、世襲候補、旧藩主家出身者、芸能人・文化人等は知名度が高く、始めから有利である。「看板のない」候補は自分の存在と名前を知らせる必要が生じ、不利となる。
確かにその通りで、カンバンのない候補は、当選が難しい。
カンバンとして有力なのは世襲である。
現内閣の半数が世襲議員である。
しかし、世襲は本質において、選挙という制度の理念とはなじまない。
選挙制度の理想と現実ということであろうか?
情報化が進んだ社会では、実体よりもイメージが重要である。
「女性が輝く社会」とアピールしながら、女性活躍担当相には伝統的な家庭観を本領とする「日本会議」のメンバーである有村治子氏を任命する。
「女性は家庭を守れ」と「女性の社会進出」とは両立しない。
⇒2014年10月24日 (金):「女性が輝く社会」と「妊娠降格」訴訟/日本の針路(58)
小渕優子全経産相は典型的な世襲議員である。
改造内閣で誕生した5人の女性大臣の中でも、「女性が輝く社会」のカンバンとして起用されたはずである。
しかし、後援会の不明朗な会計処理を指摘され、自身も「分からないことが多すぎる」と困惑を隠せない状態で、輝く間もなく辞職せざるを得なくなった。
⇒2014年10月19日 (日):小渕辞任は安倍腹痛のトリガーになるか?/日本の針路(54)
小渕優子前経済産業相の政治団体で浮上した不明朗会計疑惑は、発覚から2週間あまりで東京地検特捜部による強制捜査に発展した。地元では「小渕氏は何も知らなかったでは済まない。政治資金について認識が甘すぎる。議員辞職もやむを得ない」との声が上がった。
30日午前8時40分ごろに小渕氏の元秘書で前群馬県中之条町長の折田謙一郎氏の自宅に入った東京地検の係官らは、母屋だけでなく離れや小屋、ガレージの乗用車も手分けして捜索。午後には合鍵業者が呼ばれ、地検は施錠された場所でも資料を捜したとみられる。家宅捜索は夜まで続き、段ボールに入れられた押収資料がワゴン車に積み込まれた。
小渕前経産相:夜まで家宅捜索…「小渕氏認識甘い」の声
父から引き継いだ後援会組織だから、事実としてブラックボックスだったのだろうが、根本は小渕氏自身の遵法意識や金銭感覚の問題であろう。
政治資金報告書に、乳幼児向け用品や服飾雑貨などの支払いが記載されている。
小渕氏は、世話になった方への贈答品であり、公私混同ではないという認識を示したが、世間では個人的な贈答は、個人の財布から支出するというのが常識である。
その他にも選挙区内の有権者に名入りの特注ワインを贈るなどの公職選挙法違反が指摘されている。
いくら世間知らずのお嬢様とはいえ、大人としての判断力が問われると言わざるを得ない。
⇒2014年10月31日 (金):「輝く女性」の看板に偽りあり!/日本の針路(63)
小渕氏は、父の急死直後の総選挙で代議士になったから、政治の世界について不案内だったのだろう。
しかし今の社会では、そのこと自体は決してハンディとは言えない。
プロの政治家が失ってしまった清新さは、差別化要素として強味であり得たはずだ。
もちろん社会人としての健全な感覚が前提となるが。
女性が妊娠や出産を機に不利な処遇を受ける事例が後を絶たない。一〇月二三日に、同意なき「妊娠降格」は違法という最高裁判断が示されたが、泣き寝入りしていた女性たちにとって、待望久しい朗報といえよう。私は女性が輝くためには、社会進出が必ずしも必要条件だとは思わないが、子育て中の母親の多くが何らかの職業に就く時代である。
少子化はあらゆる社会問題の根底に横たわっている。
人口は最も確実な未来予測である。
出産可能年齢からして、20年後までの出産可能年齢女性の数は現在既に決まっている。
1人の女性が産む子どもの数(合計特殊出生率)も急激なトレンドの変化は起こりにくいとすれば、20年後の人口は変えられない。
女性が働ながら安心して出産・育児できるか否かは、自ずから少子化という問題にも影響してこよう。
安倍首相が「3年間抱っこし放題」というキャッチフレーズで、法定育児休業の長期化を提唱したことがある。
しかしできるだけ早期に職場復帰できることを望む女性も多く、議論はかみ合わないままだった。
「妊娠降格」のような事例が多い土壌として、女性は家庭を守るのが本分である、という伝統的な家庭観がある。
安倍首相は、意識してかしないでか、その辺りを取り違えていると言わざるを得ない。
小渕優子氏は、日本最初の総理大臣候補に擬せられたことがある。
いわば自民党のカンバンになるはずであった。
そのカンバンに偽りがあったのである。
自民党のデタラメを続けさせるか否かが問われている。
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