情報の保秘と開示の線引きは誰がどう決めるのか/日本の針路(61)
東京電力福島第1原発事故の賠償問題のADRを担当する「原子力損害賠償紛争解決センター」の最上位の組織「総括委員会」の議事録を公開していないという。
ADRは、Alternative* Dispute Resolution の略称で、「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」では「裁判外紛争解決手続」と規定されているものである。
「Alternative」ではなく「Appropriate」の略とする考え方もあるが、訴訟手続によらずに、つまり裁判を行わないで紛争を解決するための手続である。
「裁判だとお金も時間もかかりすぎるが泣き寝入りはしたくない」「相手と直接交渉していては解決しそうにない」「中立的な専門家にきちんと話を聞いてもらって解決したい」「信頼できる人を選んで解決をお願いしたい」というような場合の解決手段として重要な役割を負っている。
「原子力損害賠償紛争解決センター」については、和解案を作成する仲介委員(弁護士)の一部についても氏名を明かにされていない。
総括委は大谷禎男委員長(元裁判官)、鈴木五十三(いそみ)委員(弁護士)、山本和彦委員(一橋大教授)の3人で構成。賠償額の目安などを定める重要な「総括基準」を決めており、これまで基準の決定日と決定内容だけしか公開していないため、毎日新聞は決定の作成過程を検証するため、文科省に情報公開請求した。
文科省は議事録の存在を認めた上で、一切の公開を認めない「不開示」とした。一部を黒塗りにして開示する「部分開示」ではないため、3人の発言内容だけでなく、実際に委員会は開催されたのか▽開催されたのならその日時と場所▽出席者▽議題−−など、すべて検証できない。不開示理由について、文科省は(1)率直な意見交換や意思決定の中立性が不当に損なわれる(2)国民に混乱を生じさせる(3)手続きの適正な遂行に支障が及ぶ−−などを挙げた。
センターは和解案を作成する仲介委員282人(退任者を含む)の氏名についても全面開示をしていない。毎日新聞が東電との利害関係の有無を調べるため、氏名の公開を求め情報公開請求したところ、文科省は「個人情報」を理由に、名前や経歴などをすべて黒塗りにした文書を開示した。一方、センターの対応は一貫性を欠いており、ホームページで和解事例を紹介する中で202人の仲介委員名を付記している。それでも残る80人の氏名は分からないままだ。
原発ADRのように行政機関が運営する裁判外手続きは行政型ADRと呼ばれ、消費者庁が2011年10月に有識者会議に提出した資料によると、全国規模の主な機関は、センターを含め6機関ある。毎日新聞のまとめでは、センターを除く5機関は、すべて委員の氏名をホームページ上で公表している。さらに、5機関のうち2機関は最上位の組織の議事録もホームページで開示し、残る3機関も「情報開示請求があれば対応を検討する」と答えた。
原発ADR:議事「不開示」…担当弁護士を黒塗り
国は情報公開法に基づき、請求から原則30日以内に以下のいずれかに決めることにになっている。
(1)すべて公表する全部開示
(2)一部を黒塗りにする部分開示
(3)一切公表しない不開示
2013年度に国の行政機関が行った9万5464件のうち、不開示は2.4%に過ぎない。
その中には、文書そのものが存在しないケースも含まれるという。
議事録が存在するのに不開示とするのは、特別に秘匿しなければならない事情があるのではないかと推測するのが普通であろう。
特定秘密保護法が論議されている折でもあり、原則は公開とすべきではなかろうか。
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