現場に根差した公共経済学・宇沢弘文/追悼(57)
経済学者の宇沢弘文さんが亡くなった。
1928年鳥取県米子市に生まれた。86歳だった。
1951年、東京大学理学部数学科を卒業し、同時に特別研究生となった。
スタンフォード大学のケネス・アロー教授に送った論文が認められ、1956年に研究助手として渡米し、スタンフォード大学、カリフォルニア大学バークレー校で教育研究活動を行い、1964年シカゴ大学経済学部教授に36歳で就任した。
1968年に東京大学経済学部に助教授として戻り(翌年教授)、1989年退官した。
日本に帰国以来40年以上にわたり日本政策投資銀行設備投資研究所顧問を務めていた。
数学科出身だけに、60年代は数理経済学の分野で数多くの先駆的な業績をあげた。
経済が成長するメカニズムを研究する経済成長論の分野で、従来の単純なモデルを、消費財と投資財の2部門で構成する洗練されたモデルに改良し、高い評価を受けた。
ノーベル経済学賞候補に擬せられたこともあったが、ノーベル賞を受賞したスティグリッツは宇沢さんの弟子である。
70年代に入って、研究の方向性を大きく変化させた。
数理的経済理論が現実から遊離し、形骸化していることから、公害などの環境問題の社会問題に視座を転換させた。
岩波新書の『自動車の社会的費用』(1974年6月)は、通事故や排ガス公害などを含めた自動車の社会的コストを経済学的に算出し、ベストセラーになった。
私はリサーチャーの時代に私的な勉強会に来て頂きお話を拝聴したことがある。
上掲書が刊行されて間もない頃だったと記憶している。
健康法はジョギングで、趣味は山歩きということだそうだが、そのときもトレッキングシューズのような靴を履いていたのが印象的だった。
きわめて穏やかで、ユーモアの富んだ人柄という感じの話し方だった。
日本政策投資銀行の前身の日本開発銀行に在籍していた某先輩は、「酒(バーボン)好き・話好きな方で、屡々酒杯を交わし、歓談した」と言っている。
学校、病院といった社会的インフラから自然環境までを包含する「社会的共通資本」という概念の重要性を提唱した。
また、地球温暖化を防ぐため、二酸化炭素の排出1トンあたりの税率を1人あたり国民所得に比例させる「比例的炭素税」の導入なども提言している。
リュック一つ背負って現地に飛び、実地調査するという現場主義の人でもあった。
『経済学と人間の心』東洋経済新報社(2003年5月)では、田中康夫・長野県知事による「脱ダム」宣言を「世界全体にとって、新しい時代の時代精神を簡潔で、格調高い文章で表したもの」と称え、全文を引用している。
原発事故を体験してしまった現在、発言を聞きたい経済学者を失った。
特に、アベノミクスについてはどう評価していたのだろうか。
合掌。
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