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2014年9月18日 (木)

朝日新聞の2つの「吉田証言」問題/日本の針路(44)

朝日新聞の2つの「吉田証言」問題は、言論を考える人にとっての大きな試金石ではなかろうか。
2つの「吉田証言」とは、改めて触れるまでもないだろうが、以下のことである。

1つは吉田清治『私の戦争犯罪』三一書房(1983年7月)という著書をめぐる問題である。
朝日新聞が8月5、6日の紙上で自社の慰安婦記事を検証し、「吉田氏の記事16本を取り消します」とした。
これに対し、産経新聞や週刊新潮、週刊文春などは、「謝罪しろ」とか「反省が足りない」という大キャンペーンを張っている。

特に池上彰氏のコラムを一端掲載拒否したことが、火に油を注いだ。
確かに朝日の対応には首を傾げざるを得ない。
社内やOBなどからも批判の声が上がり、結局はコラムを掲載した。
⇒2014年9月 5日 (金):朝日新聞の池上彰氏のコラム掲載騒動/日本の針路(37)

もう1つの「吉田証言」は、東京電力福島第一原発の吉田昌郞所長の調書についてである。
もともとは朝日新聞の大スクープのはずだった。
⇒2014年5月22日 (木):「吉田調書」を全面開示して真相解明の一歩に/原発事故の真相(114)
ところが、調書を入手した他社が、解釈がおかしいと批判し、朝日も謝罪記事を出している。

〈おわび〉
 朝日新聞は東京電力福島第一原発事故の政府事故調査・検証委員会が作成したいわゆる「吉田調書」を、政府が非公開としていた段階で独自に入手し、今年5月20日付朝刊で第一報を報じました。その内容は、「東日本大震災4日後の2011年3月15日朝、福島第一原発にいた東電社員らの9割にあたる約650人が吉田昌郎所長の待機命令に違反し、10キロ南の福島第二原発に撤退した」というものでした。吉田所長の発言を紹介して過酷な事故の教訓を引き出し、政府に全文公開を求める内容でした。
 しかし、その後の社内での精査の結果、吉田調書を読み解く過程で評価を誤り、「命令違反で撤退」という表現を使った結果、多くの東京電力社員らがその場から逃げ出したかのような印象を与える間違った記事だったと判断しました。「命令違反で撤退」の表現は誤りで、記事を取り消すとともに、読者及び東電のみなさまに深くおわびいたします。(2014年9月11日)
福島第一の原発所員、命令違反し撤退 吉田調書で判明=おわびあり

決して誇れることではないが、「捏造」とか「虚報」ではないだろう。
非公開方針だった「吉田調書」等の事故調書を公開させる契機になったことは評価に値しよう。
とろろが、たとえば、静岡新聞の「論壇」9月17日掲載の屋山太郎氏の『二つの“吉田証言”取り消し』では、以下のように記載されている。

(朝日新聞に記事が載ったことを受けて)ところがこのあと産経新聞、読売新聞が相次いで「吉田所長が必要人員を残して避難させた」というスクープを放った。

果たしてこれらをスクープと賞賛すべきだろうか?
フクシマ50と呼ばれる決死隊が残留したことは、周知の事実であったのではないか。
Wikipediaでも以下のように説明されている。

2011年3月11日、東北地方太平洋沖地震の後に発生した津波によって福島第一原子力発電所の原子炉の冷却機能が停止し、それらの復旧作業や応急処置のために同発電所には社員を含め約800人の従業員が従事していた。しかし、懸命の復旧作業にもかかわらず、原子炉1号機の水素爆発など度重なる原子炉爆発事故が発生し、遂に3月15日には、原子炉4号機の爆発と火災が発生。この4号機の爆発は使用済み核燃料プールに保管していた「使用済み核燃料」が建屋(たてや)上層にあり、爆発によってそれが露出した可能性があることと、放射性物質が飛散した可能性があるため、これらの危険回避の為に人員約750人は東京電力の指示によって避難した。しかし、約50人が現地にとどまり、福島第一原子力発電所の被害を食い止めることに尽力した。これを日本国外メディアが彼らを地名と人数を合わせた「Fukushima 50」の呼称で呼び始めた。
しかし16日朝、検出された放射線の高さから健康への影響が懸念され、彼らは短い時間一時的に避難しなければならなくなった。彼らが現場に戻ったとき、新たに130人以上が加わり、当初の約50人に加え総数は約180人になったと報告された。3月18日には柏崎刈羽原子力発電所や送電線敷設要員も加わり、総勢580人の体制になった。彼らの中には東京電力やその子会社の東電工業や東電環境エンジニアリングなど東京電力協力企業の社員、また東芝や日立製作所の社員なども加わっている。3月21日までに、東芝は横浜市磯子の技術センターで700人の原発事故対応チームを組織、そのうち100人を福島の2ヶ所の原発に派遣し、日立も1000人規模の対応チームを組織、120人を現場に送った。
人数は増えていったものの、「Fukushima 50」の名前はそのままメディアで使われ、彼らを総称する言葉となった。

以上のように、「待機命令に違反して撤退した」という朝日の記事は誤りである。
しかし、屋山氏のように、従軍慰安婦問題と吉田調書問題を、あたかも同一の間違いであるかのように扱うことは誤解を招くだろう。
所員が「命令に違反 撤退」したわけではない事実は、現段階で多くの人がすでに知っている公知のことであって、スクープと賞賛するようなことではないだろう。
確かに、朝日の体質のようなところまで含めれば、2つの「吉田証言」に対する関与の仕方に共通性があると言えるかも知れない。

また、「吉田調書」について誤りを認めたのは、従軍慰安婦問題を一緒にして火消しを図ったというような穿った見方もある。
意識的か無意識にか分からないが、自民党の片山さつき氏は自分のツイッターで「2つの吉田証言」を混同している。
Ws000000
https://twitter.com/katayama_s

吉田調書とクマラスワミ報告とはまったく関係がない。
「クマラスワミ報告」とは、旧日本軍の従軍慰安婦を「性奴隷」と位置付けた1996年の国連報告書である。
スリランカの女性法律家、クマラスワミ元特別報告者は、独自に行った元慰安婦への聞き取り調査などに基づき「(慰安婦の)募集は多くの場合、強制的に行われた」との主張を繰り返している。
日韓関係悪化の根源にするな 慰安婦問題で元国連報告者

虚報の実例は以下のようなものだろう。
Photo

産経がこの号外について、どんな謝罪をしたのだろうか?
私は9月17日付東京新聞「本音のコラム」の斎藤美奈子氏の次の見方に同感である。

 それがどんな結果を招くかといえば、報道機関の大本営化である。誤報や虚報が怖いので、メディアは政府発表などの無難な情報しか流さなくなる。左遷や解任が怖いので記事の書き方にもおのずとブレーキがかかる。結果、権力を監視する機能はますます後退する。

牙を抜かれたメディアなど、存在意義がないというべきだろう。

「週刊文春」誌は最新の9月25日号でも朝日批判に熱心だが、池上彰氏が「池上彰のそこからですか!?」という連載の180回で、『罪なき者、石を投げよ』を書いている。
朝日批判に狂奔するメディアに対して、「その資格があるのか?」ということである。
もはや新聞業界自体が末期にあるという認識もあって私もいささか同感する部分もあるが、活字派の池上氏は、新聞界・出版界擁護のスタンスで書いている。
また「新聞不信」という欄で、諦という署名で『“朝日誤報”他山の石とせよ』があるのも付け加えておかないとフェアではないだろうなあ。

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