「超入門」書の限界と可能性/知的生産の方法(101)
カール・マルクスの『資本論:Das Kapital』は、聖書などと並んで世界で最も有名かつ影響力も大きな書物であろう。
1867年(明治維新の前年!)に第1部が初めて刊行され、1885年に第2部が、1894年に第3部が公刊された。
第1部は、マルクス自身によって発行されたが、第2部と第3部は、マルクスの死後、フリードリヒ・エンゲルスによって編集・刊行された。
余りにも有名なこの書ではあるが、果たして読み通した人はどれ位いるのだろうか?
私は学生時代から、読むべき本だという認識はあったが、手を出す気にならなかった。
『共産党宣言』は辛うじて読んだけれど、この大部の書は敬して遠くに置いてきた。
今となっては、読みとおすのは、体力、気力ともに無理というものであろう。
書店で、小暮太一『超入門 資本論』ダイヤモンド社(2014年5月)が目に入った。
手軽な入門書に飛びついても、ろくな結果にならない、という経験則はある。
「超入門」を読んで、「分かったつもり」になっても、ほとんど無意味だろうな、と思いつつ、しかしいまさら『資本論』は読めないから、雰囲気を知るだけでもいいのではないかと一読してみた。
なんだか、「分かったぞ!」という気になったのである。
商品を中心に成り立っている社会経済のしくみのようなものが、である。
取引するものはすべて商品であり、すべての商品には「価値」と「使用価値」がある。
あるいは、「価値」か「使用価値」のいずれかが欠けるものは、商品ではない。
つまり、取引の対象にならない。
「価値」はその商品をつくるのに要する労力である。なじみ深い言葉でいえば「工数」である。
これに対し「使用価値」は、商品を得ることによるメリットである。
マーケティングで、消費者・生活者の視点で考える、という場合のメリットであり、通常使う「価値」であり「効用」に近い。
生産したモノが商品になるためには「命がけの跳躍」が必要である。
「使用価値」を評価するのは生産者ではない(つまり他人である)からである。
つまり、生産したモノは商品になる可能性は持っているが、いつも商品になる(すなわち<カネ=貨幣>に変わる)とは限らない。
一方、貨幣はいつでも商品に変えることができる。
商品の値段は、基本的には「価値=社会の平均的な工数」で決まり、そこから変動する要因が「使用価値」である。
とすれば、商品の価値(≒値段)を生み出すのは「労力」以外にはない。
つまり、人間の労働だけが価値を生み出す。
原材料や機械設備等が価値を生み出すわけではないのだ。
企業が利益を生み出すのは、労働者が自分の報酬以上の価値を生み出しているからである。
つまり、剰余価値である。
剰余価値には、絶対的剰余価値(労働時間)、相対的剰余価値(単価)、特別剰余価値(生産性)がある。
絶対的剰余価値の追求はブラック企業になり、相対的剰余価値は個別企業が決するというより社会的に決まるものである。
つまり、企業の競争は、基本的には特別剰余価値つまり生産性である。
企業が生産性(効率)を高めようと努力してイノベーションを起こすと、それが商品のコモディティ化(均質化)を招く。
つまり、剰余価値が小さくなる。
これは、資本主義経済の宿命である。
ざっとそんなことが書かれていて、まあ社会経済の1つの側面にしか過ぎないことは承知の上で、「分からない気」でいるより、「分かった気」になるのも悪くないのではないか。
以前に、 鈴木博毅『「超」入門 失敗の本質 日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ』 ダイヤモンド社(2012年4月)を、霧島の病院に入院中の徒然に、と思って羽田空港の売店で買ったことがある。
⇒2012年4月18日 (水):川平法に期待して再入院/闘病記・中間報告(41)
「超入門」というからには、当然原本のエッセンスを紹介しているものだと思ったが、まったくそうではなかった。
モノによりけりであることは、「超入門」書でも当然である。
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