菅義緯と菅直人/「同じ」と「違う」(81)
安倍首相は、内閣改造とを9月3日に断行する意向だという。
自民党役員人事は前日の2日に行われる見通しで、党三役を全員交代させる方針だという。
改造で首相は、女性を積極的に登用する方針だが、現内閣を中枢で支える菅義偉官房長官、麻生太郎副総理兼財務相、甘利明経済再生担当相は続投させる方針だ。
巷では石破幹事長が入閣要請を受けるかどうかに関心が集まっているようだ。
自民党の石破茂幹事長は22日、9月3日にも行われる内閣改造・党役員人事で、安倍晋三首相が打診した安全保障法制担当相への就任を辞退する意向を固めた。安保法制をめぐって首相の考えと距離があることや、来年秋の党総裁選への出馬をにらみ、入閣に消極的な側近議員の意向を踏まえた。
石破氏:安保相を辞退へ 安倍首相と意見相違
高い支持率を維持していた安倍政権も、潮目が変わったのではないかという観測がある。
石破氏辞退が波乱の幕開けになるのかどうか?
石破氏が打診を断れば、首相の人事構想も白紙に戻る。岩屋毅・党安保調査会長、中谷元・元防衛庁長官らの名前が浮上。幹事長には、岸田文雄外相や河村建夫・党選対委員長のほか、二階俊博氏ら重鎮の配置も取りざたされている。
7月の閣議決定を機に安倍内閣の支持率は急落。首相は今後、沖縄県知事選や消費税10%増税の決断など、政権を左右する難題に直面。石破氏の決断は、無役となって首相と距離を置き、総裁選出馬に備える準備とも受け取れる。沈静化していた自民党内の対立を呼び起こす「石破の乱」が、ついに始まる。
石破の乱 安保相就任を辞退へ
安倍政権の要石が菅義偉官房長官であることは、衆目の一致するところだろう。
菅義緯はスガ・ヨシヒデと読む。
官房長官という役職は、参謀、軍師に類似している。
NHKの大河ドラマ『軍師官兵衛』で何かと軍師が話題になる年であるが、軍師特集の「文藝春秋 SPECIAL」2013年12月号において、後藤謙次氏が現代の軍師として名を挙げているのが菅氏である。
⇒2014年1月 4日 (土):現代軍師論/花づな列島復興のためのメモ(288)
安倍首相も菅氏の留任をいち早く表明していた。
安倍晋三首相は9日、長崎市で記者会見し、9月4日を軸に行う内閣改造で菅義偉官房長官を留任させると表明した。「安定的に政策を進めるため、官邸の要になっている官房長官に引き続き職にとどまってもらいたい」と述べた。官房副長官3人と首相補佐官5人の続投方針も明言。菅氏以外の閣僚人事や自民党役員人事については「白紙の状態だ」と説明した。
菅氏を留任させるのは、秋以降の原発再稼働や消費税率10%への再増税判断などの課題を抱え、官邸主導の意思決定を維持する狙いとみられる。
3人の官房副長官は自民党衆院議員の加藤勝信、同党参院議員の世耕弘成、警察庁出身の杉田和博各氏。5人の補佐官は自民党衆院議員の木村太郎氏、同党参院議員の礒崎陽輔、衛藤晟一両氏、内閣広報官を兼務する長谷川栄一氏、元内閣官房参与の和泉洋人氏。
改造人事では、閣僚の半数以上を交代させる見通しだ。自民党内で約60人に上る「入閣待機組」の不満解消に努めるため、首相は国会議員を中心に閣僚を選ぶ意向で、女性も積極的に起用する。
菅官房長官は留任 内閣改造で首相、他の閣僚は「白紙状態」
菅氏の辣腕ぶりは、以下のような報道からも窺える。
集団的自衛権ではミソをつけたものの、依然として高い支持率の安倍政権。その立役者は策士、菅義偉(すがよしひで)官房長官(65)だ。毎日2回の記者会見をソツなくこなしながら、閣内外に睨(にら)みをきかせているのだ。
「菅さんが最も恐れているのが『失言』と『閣内不一致』です。即、政権の命取りになるため、厳しい姿勢で取り締まっています」
安倍内閣のある閣僚は、本誌の取材にこう話した。
2012年12月に発足した第2次安倍政権。高い支持率が続く要因に閣僚の失言が少ないことが挙げられるが、“汚れ役”菅氏の存在が大きいという。
模範回答を作成し、みなでコピー 安倍政権支える菅官房長官の凄腕
菅の字で思い浮かぶもう1人の政治家は、菅(カン)直人元首相であろう。
同じ字で読みが異なるからややこしい。
菅氏は、政権交代後の民主党で、鳩山由紀夫氏に次いで首相を務め、在任中に東日本大震災が起きた。
俳人の長谷川櫂氏が震災直後に読んだ『震災歌集』の中に次の一首がある。
かかるとき かかる首相をいただいた かかる目に遭う日本の不幸
長谷川氏の歌集はあれこれ考えて、というより迸り出てきた直観が自然に三十一文字になったという感じであるが、これ以上言葉を尽くす必要はないと思われる。
⇒2011年7月 3日 (日):長谷川櫂『震災歌集』/私撰アンソロジー(3)
菅(カン)氏は、吉田調書の中でも批判されているらしい。
「私にとって吉田(昌郎)さんは『戦友』でした。現(安倍)政権はこの(吉田)調書を非公開としていますが、これは特定秘密にも該当しないし、全面的に公開されるべきです」
菅直人元首相は月刊宝島8月号で、ジャーナリスト(元朝日新聞記者)の山田厚史氏のインタビューに対し、東電福島第1原発の元所長、吉田氏を自らの「戦友」だと述べている。
だが、産経新聞が入手した吉田調書を読むと、吉田氏側は菅氏のことを「戦友」とは見ていない。むしろ、現場を混乱させたその言動に強い憤りを覚えていたことが分かる。
例えば、政府事故調査・検証委員会の平成23年11月6日の聴取では、「菅さんが自分が東電が逃げるのを止めたんだみたいな(ことを言っていたが)」と聞かれてこう答えている。
「(首相を)辞めた途端に。あのおっさんがそんなのを発言する権利があるんですか」
「あのおっさんだって事故調の調査対象でしょう。辞めて、自分だけの考えをテレビで言うというのはアンフェアも限りない」
菅氏は同年8月の首相辞任後、産経新聞を除く新聞各紙やテレビ番組のインタビューに次々と応じ、自身の事故対応を正当化する発言を繰り返していた。これを吉田氏が批判的に見ていたことがうかがえる。
また、菅氏が自分も政府事故調の「被告」と述べていたことから、吉田氏は「被告がべらべらしゃべるんじゃない」とも指摘し、事故調が菅氏に注意すべきだとの意見を表明した。
菅氏だけでなく、当時の海江田万里経済産業相や細野豪志首相補佐官ら菅政権の中枢にいる政治家たちが、東電が全面撤退する意向だと考えていたことに対しては「アホみたいな国のアホみたいな政治家」とばっさり切り捨てている。
「あのおっさんに発言する権利があるんですか」 吉田所長、菅元首相に強い憤り
もちろん、1つのメディアが報ずることであり、真実は分からないが、東日本大震災の発災時に菅氏が首相だったのは、まさに不幸中の不幸というべきであった。
菅(スガ)氏は、安倍政権の実務の中心にいて、手堅く安倍氏の意図を実現させていくことに手腕を発揮している。
しかし、安倍政権の政策を実現することが、日本にとって幸いなことかどうかは別の問題である。
⇒2013年12月 6日 (金):安全保障の名目で国を危うくする安倍一族/戦後史断章(17)
菅義緯氏は、安倍政権を支えるという意味で国を危うくさせると考えれば、菅直人氏と共通である。
ただ、両者には、黒子の役割に徹するか、表に出たがるかという点において、大きな差異がある。
それは、畢竟自分の器を知っているか否かということのように思われる。
⇒2011年3月18日 (金):菅首相の器のサイズと事態の深刻さのミスマッチ
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