「河を渡って・・・」事故が起きた/日本の針路(21)
「河を渡って木立の中へ」という言葉がある。
扇谷正造氏の著書で目にした記憶があり、何かの折に引用した記憶があるが、どこに記載されていたか思い出せない。
しかし、「河を渡る」という言葉が、カエサル(シーザー)のルビコン川を渡る際の「際は投げられた」と重なって、決断を要求するものとして頭に残っている。
手許にある『桃太郎の教訓―減速経済時代を生き抜く』PHP研究所(1976年1月)を見ると、扇谷氏が講演に行ったときなどの揮毫に好んで書く、という記述があり、次の言葉が添えられている。
木立はもちろん“憩い”を意味している。人生とは、しょせん、目前の幾つかの河をわたり続けて行くことではないか。
河を渡るのは、リスクのある勇気がいる行為である。
細心の注意を求められるとも言え、安息は渡った先に行かなければ手に入らない。
しかし先日神奈川県山北町で起きた事故は、河を渡ることを余りに安易に考えていたのではなかろうか。
1日午後8時20分ごろ、神奈川県山北町中川のウェルキャンプ西丹沢で「子供が川に流された」と119番通報があった。県警松田署によると、同県藤沢市からキャンプに来ていた家族4人が流され、父親は自力で岸にたどり着いたが、母子3人が行方不明になっている。同署や地元消防が行方を捜している。
署やキャンプ場によると、周辺では同日午後6時ごろから雨が降り、同7時半ごろに急に強くなって川が増水。4人は車で川を渡ろうとしたが、車が川の中で横転したという。
気象庁によると、山北町の丹沢湖の地域気象観測システム(アメダス)で午後8時45分までの1時間に22・5ミリの強い雨を観測していた。
4人は四輪駆動車専用のキャンプサイトにいて、川を渡って炊飯棟やトイレ棟がある側へ渡ろうとしたとみられる。
川に流され母子3人不明 神奈川・山北のキャンプ場 父親は岸にたどり着く
現場は、三保ダムによってできた丹沢湖に流入する河川で、静岡県にも近く格好のドライブコースである。
「丹沢黒部」とも称される急峻な地形であり、晴れていればどうということもないが、1999年の玄倉川のキャンプ事故が示しているように、雨が降ると一転する。
東京新聞8月3日
キャンプ場の運営会社は中州を「アドベンチャーゾーン」と名付けて、浅瀬を渡れる四輪駆動車で来た客だけがキャンプできる場所にしていたという。
このような川の中州が危険なことは、運営会社は十分に承知していたはずである。
公共用物である河川を私的利益のために利用することが許されるのであろうか?
一方、県は2008年から少なくとも6回、中州を広げるためとみられる土砂を運営会社が許可なく運び入れていたなどとして土砂の撤去を指導。また、河川区域内にトイレや浄化槽、洗い場など違法な工作物があるとして、12年に撤去を運営会社に命じていた。
危険性、以前から指摘 キャンプ場、母子3人死亡
河川管理者(県)も不適切と考えて改善命令を出していた。
しかし改善は、結果としてなされなかったのである。
に強制力はないのであろうか?
事故は、運営会社にも河川管理者にも、十分に予見されたはずである。
基本的には自己責任であろう。
自然の脅威を甘く見ていたと言っても厳しすぎるということではないだろう。
同時に、河川管理者の不作為によるとも言えるのではなかろうか。
キャンプをしている当人も、キャンプ場の管理者も、河川管理者も、河川のリスクに対して他人事のように感じる。
その意味で、現代社会の一側面を象徴しているように思う。
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