自殺と原発事故の因果関係を認定/因果関係論(24)
福島第一原発の事故で、避難生活を余儀なくされた女性が自殺したことに関して、東電に損害賠償を求めていた裁判で、福島地裁は26日、「自殺と原発事故の間には相当な因果関係がある」として遺族の訴えを認め、東電に約4900万円の支払いを命じる判決を言い渡した。
東京新聞8月27日
遺書がない場合、自殺の真因を確定することは難しい。
社会的事象については因果関係が明確でないことが多いので、相当因果関係という概念が導入された。
相当因果関係とは、社会生活観念上も、特異のことではなく通常予想できる程度のものである場合をいう。
公害などの場合が典型である。
⇒2012年8月 2日 (木):水俣病と福島原発事故/「同じ」と「違う」(49)/因果関係論(18)
本件に関して言えば、相当因果関係を認めることは当然であると考える。
原告は、渡辺はま子さん(当時58歳)を失った夫の幹夫さん(64)と子供3人。訴状などによると、原発事故後の11年4月、自宅があった福島県川俣町山木屋地区が計画的避難区域(当時)に指定され、福島市のアパートでの避難生活を余儀なくされた。同年7月1日朝、はま子さんは一時帰宅した自宅の庭先でガソリンをかぶって火を付け死亡した。遺族は12年5月、原発事故が原因として提訴した。
遺族側は、はま子さんが抑うつや食欲減退などうつ病の兆候を避難後に示すようになったと主張。「原発事故による生活環境の激変で、死を選択せざるを得ない状況に追い込まれた」と訴えた。これに対し東電側は、はま子さんが事故前に精神安定剤を使っていたことなどを指摘し、「因果関係の認定には総合的な判断が必要」と反論していた。
福島第1原発事故 避難者訴訟 自殺「事故が影響」 福島地裁、東電に賠償命令
避難生活に大きなストレスがかかることは容易に想像できる。
自分が原因者ではないにもかかわらず、住み慣れたわが家から離れなければならないのだ。
⇒2013年3月30日 (土):避難生活のストレス/原発事故の真相(65)
裁判では、はま子さんの自殺の原因が原発事故だと言えるかという点が争われた。
遺族側は、避難先のアパートで、はま子さんが夜眠れないと頻繁に訴えるようになっておる、自宅に帰れないと悲観して自殺したのは明らかだ、と主張していた。
これに対し、東京電力側ははま子さんが事故前から睡眠障害で薬を飲んでいることを指摘し、「遺書が見つかっていないなど、自殺の原因がはっきりしない」として、事故以外の原因を考慮するべきだと主張した。
たとえ事故前から睡眠障害で薬を飲んでいたとしても、事故がない場合に、はま子さんが自殺をする可能性がどの程度あったかを考えてみれば、東電の主張は、反論のための反論であることは自明である。
一時帰宅した自宅で自殺したことを考えれば、避難生活が原因であると考えるのが普通だろう。
東電の主張を極論すれば、一時帰宅したのが原因で、帰宅しなければ自殺も起こりえなかった。
だから、帰宅に同行した夫が悪いということにもなりかねない。
自殺という行為者が永遠に証言をし得ない行為について、その真因を特定することには限界がある。
たとえば、明確な遺書が遺されていた江藤淳の場合ですら、どういう心理的な経緯で死を覚悟するに至ったかは、第三者の窺い知れない部分がある。
⇒2010年9月 6日 (月):江藤淳の『遺書』再読
あるいは最近の例でいえば、理化学研究所の笹井芳樹氏の場合もいろいろな憶測がされている。
⇒2014年8月 5日 (火):STAP論文問題のキーパーソン・笹井芳樹/追悼(53)
遺書には、自殺の理由として「マスコミなどからの不当なバッシング、理化学研究所やラボ(研究室)への責任から、疲れ切ってしまった」と書かれていたそうだが、それも部分にすぎないのではないか。
私には東電の責任を認定しない判決文は考えられない。
ここで、原発事故で死者は出ていないと言い放った自民党高市早苗政調会長のことを復習しよう。
⇒2013年6月19日 (水):高市発言の思考の文脈/原発事故の真相(73)
俯瞰してみれば、避難生活と自殺の因果関係を認めることは当然であるし、高市氏の思考が粗雑であることは良く分かる。
いくら力の大きな相手であっても、泣き寝入りをするのは終わりにしたい。
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