海外での武力行使に道を開くな/世界史の動向(20)
第一次世界大戦が勃発してからちょうど100年になる。
まあ、時間は連続しているので、時間そのものに節目があるわけではないが、人間の意識には節目がある。
その節目の時に、安倍政権は戦後ずっと封印してきた「戦力の海外派遣」というパンドラの箱を開けた。
安倍内閣は1日夕の臨時閣議で、他国への攻撃に自衛隊が反撃する集団的自衛権の行使を認めるために、憲法解釈を変える閣議決定をした。歴代内閣は長年、憲法9条の解釈で集団的自衛権の行使を禁じてきた。安倍晋三首相は、その積み重ねを崩し、憲法の柱である平和主義を根本から覆す解釈改憲を行った。1日は自衛隊発足から60年。第2次世界大戦での多くの犠牲と反省の上に立ち、平和国家の歩みを続け、「専守防衛」に徹してきた日本が、直接攻撃されていなくても他国の戦争に加わることができる国に大きく転換した日となった。
政府、集団的自衛権行使へ閣議決定 憲法解釈を変更
第二次大戦の反省を踏まえ、敗戦後のわが国は、戦争放棄の平和国家を国是としてきた。
それが一内閣の判断で、反故にされようとしているのである。
東京新聞7月1日
安倍首相が、ダボス会議において、現在の日中関係を第一次世界大戦前の英独関係にたとえた。
安倍首相自身は、「そうならないように、コミュニケーションを図る」という趣旨であったと説明しているし、その通りだと思うが、参加各国との間でかなりの温度差があったようである。
史上初の世界大戦は、戦車や飛行機、機関銃といった大量殺害兵器が登場し、死者、負傷者とも数千万人に上ったといわれる。
きっかけは、100年前の6月28日に起きたサラエボでのオーストリア皇太子の暗殺事件である。
半島の紛争が瞬く間に欧州全土での戦闘へと広がり、多くの人が戦争は早期に終結すると楽観していたにもかかわらず、「塹壕戦」が主流となったため戦線は膠着して、戦争は長期化した。
長期化とともに戦線が拡大していった。
当時のヨーロッパ列強は複雑な同盟・対立関係の中にあった。
経済的な相互依存が深まり、戦争は「無益どころか不可能」と言われていたにもかかわらず、多くの誤算の上に各国が「望まない戦争」の泥沼に引きずり込まれた。
日本は日英同盟に基づいて、1914年8月23日にドイツ帝国へ宣戦を布告し、連合国の一員として参戦した。
帝国陸軍はドイツが権益を持つ中華民国山東省の租借地青島を攻略、さらに海軍はドイツが植民地支配していた南洋諸島を攻略した。
戦後、大日本帝国は連合国の主要5大国の一国としてパリ講和会議に参加し、山東半島の権益と併せてパラオやマーシャル諸島などの、それまでドイツが支配下に置いていた赤道以北の太平洋上の南洋群島を委任統治領として譲り受けるとともに、国際連盟の常任理事国となった。
戦闘行為が国外であったこと、勝利の分け前に与ったことが、軍部の発言権を強くし、泥沼の地平に足を踏み入れて行った。
他国の領土での戦争は、ある意味で非戦闘員の犠牲を伴わない。
しかし、核兵器を持った段階で、地球上に安全地帯はなくなったのである。
われわれは、20世紀に体験した2つの世界大戦に学ばねばならない。
1つは、国外で戦力を発動しないこと。
2つは、為政者の煽るナショナリズムに乗らないこと。
3つは、情報を客観的に分析し、挑発に乗らないリテラシーを身につけること。
後で振り返った時、今日が大きな曲がり角だったと総括されないようにしたい。
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