集団的自衛権行使の新3要件決定の手口/日本の針路(3)
集団的自衛権の行使に関して、自公両党の調整は、「武力行使の新3要件」で決着した。
東京新聞7月3日
その舞台裏について次のような報道がある。
解釈改憲の核心は、自民党の高村正彦副総裁が提案した自衛権行使の「新3要件案」だ。特に「他国に対する武力攻撃が発生し、これにより国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される恐れがある」という集団的自衛権行使に絡む文言をめぐり、自公間で調整が続く。
だが、実はその原案は、公明党の北側一雄副代表が内閣法制局に作らせ、高村氏に渡したものだった。解釈改憲に反対する公明党が、事実上、新3要件案の「下書き」を用意したのだ。
「私が考える新3要件というものの、たたき台を作ってみました」
13日の安全保障法制整備に関する第6回与党協議会で高村氏が突如A4サイズの紙を配った。「集団的自衛権の行使はできない」と結論付けた1972年の政府見解の一部を引用し、行使を認める逆の結論を導き出す私案だった。「この紙を見たのは初めてだ」。協議会後に北側氏は明言した。だが、事実は違う。
政府関係者によると、その数日前に公明党執行部がひそかに集合。解釈改憲で対立する首相と山口氏の「落としどころ」を探るためだった。連立維持を優先させ、解釈改憲を受け入れる政治決断の場でもあった。
山口氏が「憲法解釈の一番のベースになっている」と尊重してきた72年見解を援用する形で、限定容認と読み取れる原案を内閣法制局に作成させる。北側氏がそれを指示していた。
自衛権行使「新3要件」公明が原案 自民案装い、落としどころ(2014/06/20付 西日本新聞朝刊)
「平和の党」を標榜する公明党に期待する人も多かったようだが、結局は「理念」よりも政権という現実の御利益を優先したのだ。
まあ、宗教団体も現世利益を訴求しないと組織の維持拡大が図れないということだろう。
しかし、緩んだタガが求心力の低下という形でフィードバックしてくることは必然である。
⇒2014年6月29日 (日):公明党の存在理由/花づな列島復興のためのメモ(336)
公明党が、限定容認論を認めた段階で、外堀は埋められたといえよう。
執行部が連立維持を優先した後は、公明党の党内会議はガス抜きの場となった。
ちなみに、防衛省・自衛隊のサイトには次のように記されている。
憲法第9条の下において許容されている自衛権の行使は、わが国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであり、他国に加えられた武力攻撃を実力をもって阻止することを内容とする集団的自衛権の行使は、これを超えるものであって、憲法上許されないと考えています。
憲法と自衛権
現行の武力行使の3要件は次のようである。
(1)日本への急迫不正の侵害がある
(2)侵害を排除するために他に適当な手段がない
(3)必要最小限度の実力行使
集団的自衛権は、他国を防衛することであるから、(1)を書き換える必要がある。
はじめに高村氏から提示された私案は「我が国の存立が脅かされ、国民の権利が覆されるおそれがある場合」であった。
この「おそれ」という文言があまりに曖昧であることから、調整した結果決着したというのがストーリーであるが、実際は公明党が譲れる線を提示してそれに沿ってまとめたということだろう。
自民修正案「おそれ」を「明白な危険」に
自民党はハードルを上げておいて、公明党側に低くすることを委ねたのだ。
難題を吹っ掛けて相手の顔を立てつつ狙いどころに落とし込む。
ヤクザやインチキ商法が良く使う手口である。
安倍首相は「新3要件は基本的にこれまでの自衛権行使の3要件と変わるものではない」と言っているが、日本が攻撃された場合だけ武力行使するという限定と、日本は攻撃を受けていないのに他国のために武力行使を容認するのとでは大きな差異がある。
①の状況であると政府は判断すれば、「先制攻撃」もあり得るということであり、従来の「専守防衛」とはまったく異なるというべきだろう。
「明白な危険」を捏造し、武力行使に至ればもはやそれが捏造だと分かっても後戻りはできない。
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