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2014年5月18日 (日)

安倍首相の憲法解釈論/花づな列島復興のためのメモ(327)

最近、若い人と話していると(私の場合、若い人には20歳代から50歳代まで含む)、安倍首相の評価が高いことが多い。
それは、中国、韓国等に対する反感、いわゆる嫌中・嫌韓とセットになっていることがほとんどである。
特に、南シナ海での中国の覇権主義的な態度、珍島沖での客船セウォル号沈没事故における韓国の対応等のニュースにより、嫌中・嫌韓のボルテージが上がっている。
安倍首相が強引に、集団的自衛権の行使を容認すべしと意欲的なのは、このような嫌中・嫌韓感情が高まっている現在が絶好のチャンスだと捉えているのかも知れない。

最初に、安倍首相が記者会見で説明に使用した2枚のパネルを見てみよう。
A 紛争地から邦人を救出する米艦の防護
Orightofcollectiveselfdefense570
B PKOの駆けつけ敬語
Photo
集団的自衛権、限定的行使容認へ

邦人救助のパネルには、母子の図が添えられている。
赤ちゃんを抱いた母親を護ろうとするのは、訴える力が強い。
「自分の家族が殺されるんなら家族を守るため戦争もやむを得ない」という気持ちにもなるだろう。
つまり、家族や邦人の防護は戦意高揚の常套手段でもある。

邦人救出の問題は、1993年の朝鮮半島有事を想定した時から検討されてきた。
統合幕僚会議(現統合幕僚監部)は、米軍や民間人に頼らないで救出する成果をまとめた。
20年も前に想定済みで、しかも安保法制懇で検討してきた集団的自衛権の事例には含まれていないという。
国民の共感を呼べるような事例を、官僚に考えさせたのではないかと言われる。

Bのパネルについて、「NGOの日本人ボランティアや他国の国連平和維持活動(PKO)の要員が、現地の武装集団に攻撃されても、PKOで派遣された自衛隊が警護できない」と訴えた。
しかし、これは集団的自衛権とは無関係の問題ではないか?
PKOの武器使用の問題である。
わざわざ集団的自衛権という概念を持ち出さなくてもいい事例を用意して、集団的自衛権の行使容認の必要性を訴えているのである。

2枚のパネルに、集団的自衛権問題の本質からそれたものをわざわざ選んでいるわけである。
国民の感情に訴えやすい事例をあえて選んでいるのは、首相自ら「命を守るべき責任を負っている私や日本政府は、本当に何もできないということでいいのか」と情緒的に訴えるのを強調しるためであろう。
集団的自衛権の行使容認に向けた空気を醸成する狙いが滲んでいる。

ヒトの脳は、大まかに言えば次図のような構造をしている。
3_2
http://www.sets.ne.jp/~zenhomepage/brainscience1.htm

脳の中で一番早く反応するのは、大脳辺縁系の感情を司る扁桃体である。
つまり、論理的な判断以前に、感情的な判断がある。
⇒2013年4月20日 (土):脳の3層構造とコミュニケーション/知的生産の方法(49)
あえて集団的自衛権と言わずも、個別自衛権で十分対応できる事例による安倍首相の説明には、感情に響くことを狙いとしていることが、見え透いている。

ドイツは、ワイマール憲法という当時最も優れた憲法を持っていながら、ヒトラーを選びファシズム国家になった。
麻生副総理兼財務大臣、金融担当大臣は、憲法改正についてナチスを引き合いに出して、「うまく」改正すればいい、と言ったことがある。
⇒2013年8月 4日 (日):撤回では済まされない麻生副総理の言葉
いま、まさに、そのように事態は進行しているのではないか。

集団的自衛権の本質は何か?
行使事例をあるtwitterで紹介されている図で見てみよう。
Photo_2
https://twitter.com/no_soy_bonito/status/466957718436057088/photo/1

これらの事例から帰納されるのは、大国の軍事介入である。
端的に言えば「他国のケンカ(戦争)を買う」ということである。
自衛という言葉に惑わされてはならない。
集団的自衛というのは、「他衛」のことである。

若い人とのメールのやり取りでは、自分の意見を確立できていないとしつつ、「集団的自衛権を行使するような有事が想像しにくい」「限定的な行使とはどういった場合を想定しているのか?」「グレーゾーン状態とは?」「憲法9条に込められた思いは消してはならない」というような意見であった。
最後に、歌人岡野弘彦氏の歌集から引用する。

親ゆづり祖父(おほぢ)ゆづりの政治家(まつりごとびと)世に傲(おご)り国を滅ぼす民を亡ぼす

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