いまこそ聞くべき「わだつみの声」/花づな列島復興のためのメモ(323)
日本戦没学生記念会『きけ わだつみのこえ―日本戦没学生の手記』岩波文庫(1995年12月)は、第二次世界大戦末期に戦没した日本の学徒兵の遺書を集めた遺稿集である。
BC級戦犯として死刑に処された学徒兵の遺書も掲載され、1949年(昭和24年)10月20日に出版された。
編集顧問の主任は医師、そして戦没学徒の遺族である中村克郎、編集委員として渡辺一夫・真下信一・小田切秀雄・桜井恒次が関わった。
東京大協同組合出版部が1947(昭和22)年に出版した『はるかなる山河に-東大戦没学生の手記』を、全国の学徒に広げたものであり、1982年に岩波文庫に入り、改訂を加えた1995年に新版となり現在もロングセラーを続けている。
わだつみ(海神)とは、日本神話における海の神さまである。
海神は、世界各地の神話においても比較的高位の神とされている場合が多い。
学徒兵の遺稿を出版する際に、書名を公募したが、京都府在住の藤谷多喜雄のものが採用された。
藤谷のそもそもの応募作は「はてしなきわだつみ」であったが、それに添えて応募用紙に「なげけるか いかれるか/はたもだせるか/きけ はてしなきわだつみのこえ」という短歌を添付した。
この詩は同書の巻頭に記載されている。
現在「わだつみ」は戦没学生をあらわす普通名詞のように使われる。
同書の中でも感動的な内容で知られる木村久夫の遺書が、もう一通存在したという。
東京新聞4月29日
木村久夫の遺書は、特別に重要なものだとして「本文のあと」に掲載されているものである。
見つかったのは父親宛てに書かれたもので、「処刑半時間前擱筆ス」と書かれていた。
木村は、大阪府吹田市出身で、京都帝大に進学。
召集されて、陸軍上等兵として、インド洋・カーニコバル島に駐屯。
通訳などをしていたが、住民をスパイ容疑で取り調べた際、拷問で死なせた容疑でB級戦犯に問われた。
シンガポールの戦犯裁判で死刑とされ、1946年5月執行された。
この遺書で木村は、先立つ不孝をわび、故郷や旧制高校時代を過ごした高知の思い出を語るとともに、死刑を宣告されてから哲学者で京都帝国大(現京都大)教授だった田辺元の「哲学通論」を手にし、感激して読んだことをつづった。また、戦後の日本に自分がいない無念さを吐露。最後に別れの挨拶(あいさつ)をし、辞世の歌二首を残した。
木村の遺書は、旧制高知高校時代の恩師・塩尻公明(一九〇一~六九年)が四八年に「新潮」誌に発表した「或(あ)る遺書について」で抜粋が紹介され、初めて公になった。「凡(すべ)てこの(「哲学通論」の)書きこみの中から引いてきた」とされ、「わだつみ」でも同様に記されたが、いずれも二つの遺書を編集したものだった。
「わだつみ」の後半四分の一は父宛ての遺書の内容だった。二つの遺書を精査したところ、「哲学通論」の遺書で陸軍を批判した箇所などが削除されたり、いずれの遺書にもない言葉が加筆されたりしていたことも分かった。「辞世」の歌二首のうち最後の一首も違うものになっていた。
「わだつみ」に別の遺書 恩師編集、今の形に
遺書を編集したのは恩師の塩尻公明だと推測されるが、今となってはその経緯は確定はできない。
しかし、2つの遺書が揃ったことで、木村の心中がより確実に理解できる。
安倍政権は、憲法改正の手続きを踏まないで、憲法の解釈を変えようとしている。
かつて通った道を再び歩むことのないようにしなければ、私たちは戦没学生たちに顔向けできない。
まさに今こそ、「わだつみのこえ」に耳を傾ける時であろう。
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