言語の歌起源論/進化・発達の謎(4)
動物行動学者の岡ノ谷一夫さんは、言語の起源に関してユニークな説を展開していることで知られる。
言語の起源は実験的に確認することのできない課題である。
免疫論で有名な故多田富雄さんは、『生命の意味論』新潮社(1997年2月)において、人類が最初に発した言葉は、新生児が初めて発する言葉のようなものだっただろう、と書いている。
新人と旧人区別するのは、言語の使用ということである。
言語を使い始めたのは、旧人類が生まれてからでさえ10万年以上経過した後で、たった4万年位の歴史だと推測される。
言語は少しずつ創り出されたのではなく、非常に短期間に生まれたらしい。
http://www.seibutsushi.net/blog/2013/06/001395.html
人間の言葉がどうして生まれたかについては、人間を研究していても分からない。
他の動物との比較研究が必要である。
他の動物にはない人間の言葉の特徴を整理すると、以下の4つが挙げられる。
岡ノ谷一夫、石森愛彦・絵『言葉はなぜ生まれたのか』文藝春秋(2010年7月)
たとえば、ジュウシマツのオスは、求愛のため歌をうたう。
オスがうたう歌は、1羽ずつ異なる。
複雑な歌をうたえるオスほど、メスをひきつける力が強い。
複雑な歌をうたって目立つことは、敵に見つかる危険性が高く、「自己の生存」のためには不利である。...
しかし、複雑な歌をうたえるということは、余力がある証拠でもある。
メスは余力のあるオスにひかれるのである。
ジュウシマツのオスは、どうやって自分独自の歌を編み出すのか?
どうして、歌を複雑化しているのか?
ジュウシマツの鳴き声を分析すると、8種類ぐらいの短い鳴き声を出すことが分かった。
これは日本語でいえば、五十音に相当するものであり、「エレメント」という。
ジュウシマツはエレメントを組み合わせて、自分独自の歌を作る。
あるジュウシマツは、7種類のエレメントをつなぎ合せて歌をうたう。
この歌を調べると、3つの塊があった。この塊を「チャンク」という。「チャンク」は単語に相当する。
ジュウシマツの歌は、まずエレメントがあり、エレメントが組み合わさってチャンクになり、チャンクがつながって歌になるという構造がある。
上掲書
ジュウシマツのオスが成鳥に育つまでの間、歌の変化を観察すると、35日ほどで歌い始め、次第に上手になって4カ月ほどで「歌文法」をもつ歌が完成する。
親子で比較すると、似ている部分もあるが、違う部分も多いことが分かった。
ヒナは誰から歌を学ぶのか?
驚くべきことに、自分の親を含めた複数のオスの歌を聴いて、それを「切り貼り」して、自分独自の歌を作っていた!
つまり、発声と歌文法を、周りの複数のオスの歌をお手本にして、学習しているのである。
「切り貼り」は、チャンクの切れ目ごとに行われていた!
チャンクの切れ目を認識することは、外国語のヒヤリングや音楽を聴くときなどに実感できる。
上掲書
つまり、ジュウシマツも人間も、生まれつき鳴き声や言葉が脳に刷り込まれているわけではなく、生後、鳴き声や言葉を学習する。
人間の言葉はいろいろな意味を表せるが、ジュウシマツの歌には「求愛」の意味しかない。
ジュウシマツの歌にも人間の言葉にも「文法」がある。
ジュウシマツも人間も、歌の中に一定の規則を見つけ、音の切れ目を認識する能力を持っている。
これが、「言語の歌起源説」の仮説である。
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