政府安保法制懇と国民安保法制懇/「同じ」と「違う」(75)
安倍首相は、自ら設置した「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)の報告書の提出を受けて、記者会見を行い集団的自衛権の行使が必要であることを説明した。
⇒2014年5月16日 (金):成長戦略の実体は原発と軍需産業か/アベノミクスの危うさ(31)
安保法制懇とはいかなる存在か?
首相官邸のサイトでは次のように説明している。
我が国周辺の安全保障環境が一層厳しさを増す中、それにふさわしい対応を可能とするよう安全保障の法的基盤を再構築する必要があるとの問題意識の下、集団的自衛権の問題を含めた、憲法との関係の整理につき研究を行うため、内閣総理大臣の下に「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」を開催するものです。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/anzenhosyou2/
安倍首相の考えと同じもしくは似ている人を中心に人選したということである。
首相の設置した懇談会だから当然である、という見方もあるが、その報告書をもとに憲法解釈を変えようとするにはいかにも正統性がない。
集団的自衛権行使の容認論者だけを集めて構成した法的な設置根拠もない首相の私的機関で、議事録も非公開だという。
正式会合は事前に開催日を公表。終了後、北岡伸一座長代理らが内容を説明し記者団との質疑に応じた。一週間後には議事要旨が公表された。非公式会合は日程が公表されず、議論の中身は非公表で、密室度が高い。安保法制懇はメンバー全員が集団的自衛権の行使容認論者で、客観性が欠けていると批判されてきた。非公式会合が頻繁に開催されていたことが明らかになり、不透明さが増した。
安保法制懇 非公式に会合8回 集団的自衛権 頻繁に密室協議
「後ろめたさ全開」という感じであるが、それで国の根本を変えようとしているのだから恐ろしい。
さすがに、28日に、憲法解釈変更による行使容認に批判的な内閣法制局長官経験者や憲法学者らが、安保法制を考える懇談会を発足させた。
メンバーは、改憲派の憲法学者、小林節・慶応大名誉教授、孫崎享・元外務省国際情報局長、内閣法制局長官を務めた阪田雅裕、大森政輔両氏、第1次安倍政権で官房副長官補を務めた柳沢協二氏ら12人である。
「国民安保法制懇」と命名され、今年夏にも報告書をまとめるという。
集団的自衛権:批判派の憲法学者ら「安保法制懇談会」発足
私の知る限り、改憲派、護憲派が入り混じってなかなかバラエティに富んでいる。
解釈改憲による集団的自衛権行使には反対、というのが共通点である。
28日は、集団的自衛権を巡る国会集中審議が始まった当日である。
午前中の集中審議で、戦争に巻き込まれるとの懸念に対し「実際に武力行使するかは高度な政治的決断だ」と釈明した。
この発言に対し、小林氏は「法的規制がないに等しい。『おれに任せろ』ということか」と批判した。
安倍首相は、「法治よりも人治」という考えなのだろう。
元長官の大森氏は「首相の判断の誤りを防ぐ人たちが内閣に集まっているとは思えない」と突き放し、首相の諮問機関「安保法制懇」の報告書について、「結論ありきで、まさに牽強付会。理由づけも実にひどい」と酷評した。
私は、元自衛官のジャーナリスト・江口晋太朗氏の次の意見に1票を投じたい。
日本が持つ戦争放棄の考え方は、世界的に認知が広がっている。だからこそ、この考え方を国の強みとし、世界に発信すること、世界に対して戦争放棄という考え方を輸出することこそが、日本ができることではないだろうか。そのためには、中国やアメリカ、近隣諸国、武力解決を図ろうとする人たちに対して「あなた達は間違っている」と言えるかどうか。その気概をもち、地道な外交交渉を行っていくことこそが、戦後レジームからの脱却なのではないだろうか。
これまで、あまりに政治的な話題を学校や家庭で話すことをタブー視してきた。しかし、それによる弊害が政治的無関心を作り出している。その結果、気づいたら自分たちが望まない形に法律が変わった、憲法(解釈)が変わっていた、ではいけない。自分の身が安全であることに安住するが、ひとたび自分の身が危険になった時にはすでに手遅れ、ということにもなりかねない。ハンナ・アーレントの言う「悪の凡庸さ」は、まさに私たちの普段の意識によって生み出されているということに気づかなければいけない。自分は知らなかった、ではすまされないのだから。
問われているのは日本のプリンシプル/民主主義のプロセス軽視の行使容認に反対
「政府」と「国民」、対照的な2つの安保法制懇である。
報告書が出揃った時点でどちらの議論が正鵠を射ているか、判断は国民に委ねられていると考えるべきだろう。
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