平均寿命の延伸と高齢化社会/ケアの諸問題(3)
竹村公太郎『日本史の謎は「地形」で解ける【文明・文化篇】』PHP文庫(2014年2月)は、日本史の謎のいくつかに、「地形」と「気象」をキーワードとして解明を図った興味深い書である。
私は、『日本文明の謎を解く―21世紀を考えるヒント』清流出版(2003年12月)以来のファンであるが、国土交通省(旧建設省)のキャリアも、これくらい柔軟な人が揃っていれば、現在のような「公共事業=悪玉論」という図式にはならなかったのではないかと思われる。
『日本史の謎は「地形」で解ける【文明・文化篇】』 の中で、大正10(1921)年に日本人の平均寿命が急激に伸びたことがデータと共に書かれている。
それは、竹村氏の推理によれば、東京の水道に塩素殺菌が導入されたからである。
それまで水道水は殺菌されていない水を配水していたから、病原菌の感染ルートにもなり得た。
文明の装置が、場合によっては凶器にもなったのである。
塩素殺菌によって、乳児死亡率が急減した。
大正10年に塩素殺菌が行われるようになったのはシベリア出兵と関係がある。
化学兵器として開発された液体塩素が、シベリア撤兵で用途開発が必要になり、水道の殺菌用に用いられた。
時の東京市長は、後藤新平であるが、じつは後藤は細菌学の草分けでもあった。
平均寿命は、国力なのか幸福度なのかは別として、その国の総合的なバロメーターであろう。
そして、長寿化すれば、必然的に高齢者が増える。
わが国の高齢化が、比類ないような速度で進んでいると言われている。
人口構成の推移は下図のように推測されている。
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/09/dl/s0927-8e.pdf
日本社会の年齢構成において問題となるのが、「団塊の世代」の存在である。
「団塊の世代」とは、堺屋太一氏のネーミングで、第二次世界大戦直後に生まれた人たちである。
前後の世代に比べて人口が突出しているため、学校教育において、あるいは社会に出てから、さまざまな問題を提起してきた。
私は、彼らのすぐ上であるが、彼らの振る舞いには違和感を覚えることが多かった。
2007年から彼らは定年退職期に入ることから、「2007年問題」が話題になったことがある。
2006年4月に「改正高齢者雇用安定法」が成立し、多くの企業が継続雇用制度を導入したことから、団塊の世代の多くは継続雇用されて、「2007年問題」は深刻化しないで過ぎた。
また、2015年には、高齢者(65歳)となり、さらに10年後の2025年には後期高齢者入りすることになる。
高齢者を前期と後期に区分けしているのは、平均的な健康状態にかなりの差があるからである。
要介護認定は、前期高齢者が4%であるのに対し、後期高齢者では29%に上がる。
つまり、2025年になると要介護人口が急激に増えるであろうことが予想される。
⇒2014年2月17日 (月):「徴介護制」はあり得るか?/花づな列島復興のためのメモ(308)
わが国の高齢化率は、1935年にはわずかに4.7%であった。
しかし、出生率の低下と死亡率の改善により、急速に高齢化が進み、世界的にも経験したことのないような速度で、極めて高い高齢化水準に到達した。
2012年における日本人の平均寿命は、女性86.41歳、男性79.94歳で、女性は世界一、男性は世界5位の長寿国である。
平均寿命は、年齢別の推計人口と死亡率のデータを用いて、各年齢ごとの死亡率を算出して、平均して何歳までに寿命を迎えるかを算出する。
日本人の平均寿命の推移は、以下のようなグラフで示される。
http://www.garbagenews.net/archives/1892906.html
信長は、桶狭間の戦いを前にして、「人生五十年、下天のうちを比べれば、夢幻のごとくなり」と舞ったというが、男性の平均寿命が50歳を超えたのは、第二次世界大戦終了後のことである。
今日、「孫の力」が喧伝されているが、孫の顔を見ることができる現代人は、歴史的に希有の時代を生きていることになる。
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