ニホンザルのボス選出の投票行動/進化・発達の謎(3)
ニホンザルが社会を構成していることは良く知られている。
ボスに選ばれたサルが、群れを統治しており、ボスは何年かで交代する。
私は、学生時代に藤田信勝『学者の森・下』毎日新聞社(1963年10月)に収録されている「社会と文化の起源を探る」によって、この分野の研究のことを知った。
半世紀も前のことであるが、『学者の森』は、大学に入りたての若者にとって、ワクワクするような分野が紹介されており、「社会と文化の起源を探る」はそのようなものの1つであった。
「社会と文化の起源を探る」は、今西錦司氏を始祖とする京都大学霊長類研究グループを対象としていた。
幸島の野生サル、高崎山の大きな群れ等のフィールドに取り組む川村俊蔵氏や伊谷純一郎などの姿勢に驚嘆しつつ、大きなシンパシーを感じた。
特に、サルの個体識別という方法論に、日本人研究者らしさを見たような記憶がある。
好奇心を刺激されたのは、私だけではない。
この書が契機だったかどうかは分からないが、私と教養部時代に同じクラスだった掛谷誠氏は、工学部電気工学科に入学したが、理学部に転部し、生態人類学の研究者になった。
同氏は、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科教授を経て、現名誉教授である。
理工系ブームだったこともあり、一度は工学部に入ったものの、他学部へ移ってその分野の第一人者になった人には、たとえば高校時代の友人でガンダーラ美術の研究者になった宮治昭前龍谷ミュージアム館長もいる。
⇒2011年11月30日 (水):龍谷ミュージアム/京都彼方此方(3)
昔のことを思い出したのは、4月1日の東京新聞「特報部」欄に、ニホンザルの驚嘆するような記事が載っていたからである。
瀬戸内海のある島に約500頭にニホンザルが生息している。
数十頭の複数の群れに分かれている。
それぞれの群れは、「ボス格の数頭のオス-サブ格のオス-メスと子ザル-若いオス」というピラミッド型の秩序がある。
ボス格の順位も決まっている。
ボスはどういう基準で選ばれるか?
直観的には、体が大きく力も強いオスが選ばれるだろう。
事実、ほとんどの群れは、そのようなオスがボスとなっている。
ところが、ある1つの群れが、奇妙な方法でボスを選ぶようになった。
サルたちが小石を1個ずつ手にして、それを複数の山として積み上げるのだ。
石の山は、数年おきに築かれるということが分かった。
東京新聞4月1日
そして、石の山が築かれると決まってボス格の交代があった。
山の数は、ボス格のオスの数に一致しており、山の高さは序列と一致していた。
この小石を積む行為は、ボスを決める投票行動だったのだ。
石の山ができる前の一定期間は、ボス格のサルは、毛繕いやえさの分与等の行動はしていないことも確認されている。
利益の供与のような行為が禁じられていると見られる。
この群れは、かつては弱小の群れだった。
ところが、この投票による選出方法でボスを決めるようになって、勢力を拡大した。
力よりも賢さが群れの消長を決めていたのだ。
何だか身につまされる話である。
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