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2014年4月22日 (火)

STAP現象とパラダイムへの挑戦/知的生産の方法(90)

STAP細胞は、「生物学の定説」を覆えすものだと言われている。
どういう意味においてか?

理研のサイトでは、次のように説明している。

哺乳類の発生過程では、着床直前の受精胚の中にある未分化な細胞は、体のすべての細胞に分化する能力(多能性)を有しています。ところが、生後の体の細胞(体細胞)は、細胞の個性付け(分化)が既に運命づけられており、血液細胞は血液細胞、神経細胞は神経細胞などの一定の細胞種類の枠を保ち、それを越えて変化することは原則的にはありません。即ち、いったん分化すると自分の分化型以外の細胞を生み出すことはできず、分化状態の記憶を強く保持することが知られています。
体細胞の分化状態の記憶を消去し初期化する原理を発見

上記が「生物学の定説」である。
東京大学生命科学教科書編集委員会編『
生命科学』羊土社(2006年2月)(大学の理工系の生物学の教科書のスタンダードを目指したもの)では、以下にような記述がある。
2

読み取りにくいだろうが、「分化した細胞の抑制を解除すれば、幹細胞(stem cell)になりうる」と読める。
「抑制の解除」をどう実現するか?

同じく理研のサイトの説明を見よう。

体細胞の分化型を保持している制御メカニズムが、強い細胞ストレス下では解除されることを見いだしました。さらに、この解除により、体細胞は「初期化」され多能性細胞へと変化することを発見しました。この多能性細胞は胎盤組織に分化する能力をも有し、ごく初期の受精胚に見られるような「全能性」に近い性質を持つ可能性が示唆されました。この初期化現象は、遺伝子導入によるiPS細胞(人工多能性幹細胞)の樹立とは全く異質のものです。共同研究グループは、この初期化現象を刺激惹起性多能性獲得(STAP)、初期化された細胞をSTAP細胞と名付けました。STAPの発見は、細胞の分化状態の記憶の消去や自在な書き換えを可能にする新技術の開発につながる画期的なブレイクスルーであり、今後、再生医学のみならず幅広い医学・生物学に貢献する細胞操作技術を生み出すと期待できます。
体細胞の分化状態の記憶を消去し初期化する原理を発見

「ネイチャー」への投稿に際しても、「過去何百年の生物細胞学の歴史を愚弄していると酷評され、掲載を却下された」ということが、その「非常識性」を示しているだろう。
⇒2014年1月30日 (木):新しい人工万能細胞/知的生産の方法(79)
その革新性は、当初の報道記事に良く表れている。

 大阪大の水口裕之教授(分子生物学)は「特殊な状況に細胞を置くと初期化(=万能化)が短時間に起こるというのは、ちょっと想像できないくらいすごい発見だ」と舌を巻く。国立成育医療研究センター研究所の阿久津英憲幹細胞・生殖学研究室長も「がんの研究者などは興味が湧くのではないか。明日からでもできるような実験。今後、爆発的に研究が広がるだろう」と高く評価する。
 国内外から驚きの声が上がるが、当初、小保方さんの研究には周囲の研究者も疑心暗鬼だった。共同研究者で、マウスにSTAP細胞を移植する重要な実験をした若山照彦・山梨大教授(46)もその一人。「できないだろうと思っていたので、ものすごくびっくりした。ありえないことが起こったと思った」と明かす。
 こうした独自の成果を後押ししたのが、理研の発生・再生科学総合研究センターの研究体制だ。笹井芳樹副センター長(51)によると、同センターは「5年、10年で何をしたいか」といったアイデアを重視し、人事委員会で採用を協議する。大学院を修了する前後の20代後半から30代前半の研究者も多く、小保方さんのような30歳のリーダーも珍しくないという。
http://sankei.jp.msn.com/west/west_life/print/140201/wlf14020118180028-c.htm

 山中教授が所長を務める京都大iPS細胞研究所(CiRA=サイラ)では、妻木範行教授が昨年10月、人の皮膚細胞に遺伝子を入れ、万能細胞を経ずに直接、軟骨細胞に変えることに成功したと発表した。「ダイレクト・リプログラミング」と呼ばれる手法で、iPS細胞の研究で明らかになった初期化や分化の仕組みを応用した。
 同じような手法で、皮膚の細胞から心筋や神経を直接作ったとの成果も、国内外の研究機関で報告されている。STAP細胞と同じように、将来的には患部に特定の物質を注入して細胞を体の中で直接変換する治療も夢ではない。
20140414_162840_3
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1402/03/news046.html

ちなみに「定説」を辞書で確認してみよう。

てい‐せつ【定説】
広く検証されて確実なものと認められた(仮)説。「―をくつがえす」
広辞苑第六版
ていせつ【定説】
評価が確定している学説・理論。established theory
パーソナル現代国語辞典

小保方氏らの研究は、まさに「定説」を覆すものである。
「定説」に挑戦するものであっても、結果的に次の2つがある。

A パラダイムを転換させ、あらたなパラダイムに繋がるもの
B ほら話

A or B ?

それを決定するのは、再現性の検証である。
再現できなければ、それは「ほら話」に終わる。
しかし、再現の成功例が出れば、Aとなる。
STAP細胞の場合、iPS細胞を意識したのか、簡単に作成できると発表したことが事態を紛糾させた面もあるのではなかろうか?

メディアでも、STAP細胞(現象)をめぐって、さまざまな言説が交錯している。
果たして、STAP細胞(現象)は、確かに存在するのか?
疑惑に対して、理研の調査委員会は、小保方晴子ユニットリーダーを筆頭著者とする「ネイチャー」掲載論文に、「改ざん」と「捏造」があると認定し、それは研究不正であり、論文の撤回を求めた。
⇒2014年4月 1日 (火):STAP論文の不正を理研が認定/知的生産の方法(84)

これに対し、小保方氏が、調査委の判断には事実誤認があるとして、記者会見を開いて、再調査を求めるとともに、論文の撤回はしないと言明した。
⇒2014年4月10日 (木):小保方氏の研究不正認定は冤罪か?/知的生産の方法(86)
また、論文の撤回には同意しているものの、小保方氏の研究指導者にあたる笹井芳樹氏は、記者会見をして、「STAPは有望で合理的な仮説と考える」と話した。
なぜならば、「STAP現象を前提にしないと容易に説明できないデータがある」からだという。
また、「STAPはreal phenomenon(本物の現象)だと考えている」とも発言している。
共著者の1人の丹羽仁史氏も、撤回に同意はするが、マウスの実験でES細胞からはできないはずの組織ができたことを顕微鏡で見て確かめたと説明している。
⇒2014年4月13日 (日):利権としてのSTAP細胞/花づな列島復興のためのメモ(319)

私は、実在性に信念をもっているのであれば、論文を撤回するのではなく、訂正や続報で対応すべきだ、という福岡伸一氏の意見に賛成である。
「ある」と考えるが、論文の撤回に同意するというのは、分かりにくい。
⇒2014年4月11日 (金):STAP細胞と旧石器遺跡/「同じ」と「違う」(71)

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