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2014年4月

2014年4月30日 (水)

吉本隆明『高村光太郎』/私撰アンソロジー(32)

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一昨年の3月16日に亡くなった吉本隆明の全集が晶文社から刊行され始めた。
「全38巻・別巻1」という膨大なものだが、私は特設サイトを見るだけで、購入を迷っている。

吉本氏 は、高村光太郎の先駆け的な研究家であった。
吉本隆明全著作集 8 作家論 2』 勁草書房(1973年2月)は、高村光太郎に関する論考を収めている。
光太郎に関する最初の単行本『高村光太郎』は、飯塚書店から1957(昭和32)年に刊行された。
掲出箇所は、その「敗戦期」のなかの一節である。

『抒情の論理』未来社(1963年4月)の「あとがき」に、収録した初期の詩作品「エリアンの手記と詩」について、次のように書いている。

「エリアンの手記と詩」は、昭和二十一年~二十二年のあいだにかかれたと推定する。少年期から青年前期の印象を手記のかたちでくみたてたフィクションで、未発表のまましまってあった幼稚な原稿をこんどとりだした。これと、『高村光太郎』(飯塚書店 五月書房)のなかの「敗戦期」とが表裏一体の関係にある。

それを敗戦前後の彷徨と自分で言っている。
1942年:(17歳)米沢高等工業学校(現 山形大学工学部)入学。
1945年:(20歳)東京工業大学に進学。

東京工業大学在学中に数学者遠山啓と出会う。
遠山啓教授が開講した自主講座「量子論の数学的基礎」を聴講し、決定的な衝撃を受けたと語っている。
今までに出会った特筆すべき「優れた教育者」として、私塾の今氏乙治と遠山啓の2人の名をを挙げている。

1924年生まれの吉本は、総力戦として戦われた大東亜戦争の動員対象の世代である。
いわゆる「戦中派」である。
幼少期は皇国教育が激化し、中等・高等教育をまともにうける機会をもてなかった。
戦中派でも、吉本より2,3歳上だと特攻死した人も少なくない。

掲出部分は、戦中派の心情を表出したものといえよう。
戦争期から抵抗者だったかのようにふるまっている「前世代の詩人たち」(『抒情の論理』所収)が、戦中派としては許せなかったのだろう。
ちなみに、「前世代の詩人たち」には「壷井・岡本の評価について」という副題がついている。

壷井・岡本とは、プロレタリア詩人として有名な壷井繁治と岡本潤である。
彼らが反戦詩人としてもてはやされていたのに対して、実は「後ろめたそうな戦争詩人」であることを、実作を挙げてみることによって証明したのだ。
吉本は、彼らの実像を明らかにすることを世代的責任と考えたのだ。

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2014年4月29日 (火)

認認介護という現実/ケアの諸問題(6)

日本は平均寿命が女性86.39歳、男性79.64歳にまで伸びている。
⇒2014年4月 6日 (日):平均寿命の延伸と高齢化社会/ケアの諸問題(3)
特別養護老人ホーム(特養)の入所待機が全国で52万人に上ったと報道されている。

特別養護老人ホームは、介護老人福祉施設とも呼ばれ、社会福祉法人や地方自治体が運営する公的な施設である。
入居の対象となるのは、65歳以上で要介護1~5の認定を受け、常に介護が必要な状態で自宅での介護が困難な人である。
寝たきりや認知症など比較的重度の緊急性の高い人が対象であるが、入所待機が常態化しているのでは本来の趣旨に合わないだろう。

厚労省は、施設から在宅へという大方針を打ち出している。
その中核的なしくみが、地域包括ケアシステムであるが、十全に機能するためにはハードルがある。
⇒2014年4月14日 (月):地域包括ケアシステムの理念と現実/ケアの諸問題(4)

平均寿命が延びるとともに、在宅介護の担い手が80歳代ということも決して珍しいことではなくなってくる。
老齢者の介護をする人も老齢者であるという老老介護である。
最近は認知症になった人の介護を認知症の人が行う例も増えているという。
すなわち、認認介護である。

認認介護でどのようなことが起きているか?
具体的な事例を見てみよう。
去年の夏も異常に暑い日が多かった。

東京都港区高輪の民家1階で8月12日、朝香友治さん(87)と妻の和子さん(78)が熱中症の症状で倒れているのが見つかり、和子さんが死亡した。認知症だった朝香さんを介護する和子さんも10日ほど前に認知症と診断され、「認認介護」に陥っていた。2階では足が不自由だった朝香さんの兄、良一さん(89)も腐乱した遺体で発見された。同居していた朝香さんの次男(45)とはすれ違いの生活で、次男がいたことで行政サービスの対象外となる悲運も重なり、最悪の結末を迎えた。
・・・・・・
 警視庁高輪署によると、朝香さん夫婦には熱中症による脱水症状がみられ、和子さんは搬送先の病院で死亡が確認された。良一さんは司法解剖の結果、死後3~4週間たっており、死因は特定されなかった。
・・・・・・
 近所の住民らによると、良一さんと、認知症を患っていた朝香さんの2人を献身的に世話していたのは、高齢の和子さんだった。炊事、洗濯、掃除をすべて一人でこなし、3日おきに近くのスーパーで買い物をし、両手に袋を抱えて帰る姿が目撃されていた。
 朝香さんは10年ほど前に認知症になるまでは町内会に積極的に関わっていたが、最近は和子さんも近所付き合いからは距離を置くようになっていた。和子さんと同じ接骨院に通っていた主婦(73)は「『膝が悪くなって、出歩くのが大変』と言っていて、苦労しているんだと思った」としのんだ。
http://sankei.jp.msn.com/life/print/130830/trd13083021270019-c.htm

先日も、認知症高齢者が起こした列車事故について、遺族の責任を認定し、損害賠償の支払いを命じる控訴審判決が出た。
私の感覚では、介護の現実を分かっていない判決のように思える。
在宅介護をしようという人が減るであろうことは間違いない。

4月28日の日本経済新聞のコラム「春秋」が、介護の担い手の負担に対する手助けや目配りは十分か、と問題提起している。介護確保法が審議されているが、問題解消にはほど遠いだろう。
⇒2014年2月 6日 (木):揺れる介護福祉士養成制度/花づな列島復興のためのメモ(304)
⇒2014年2月17日 (月):「徴介護制」はあり得るか?/花づな列島復興のためのメモ(308)

80歳頃の認知症出現率はおよそ20%であるとされる。
そうすると、夫婦共に80歳の場合に夫婦のどちらかが認知症である確率は、0.2×2=0.4、約 40%となる。
夫婦ともに認知症である確率は、0.2×0.2×2=0.08、約8%である。
80歳以上の夫婦11組のうちの1組が、認認介護ということになる。

認知症の人が認知症の人を介護する、 いわゆる「認認介護」となる。
大阪市で「太郎」という仮名で保護されている人の例について書いた。
⇒2014年4月21日 (月):行方不明の認知症高齢者/ケアの諸問題(5)
幸いにして「太郎さん」の身許は分かったらしいが、家族が認知症の場合、行方不明の届け出もないことがあり得る。
行方不明などの照会がないと身許が分からないことがあるだろう。
結果として、緊急一時保護されるケースが増えると予想される。

 Ws000000 道に迷った高齢者などを見つけた警察は法令上、原則24時間を超えて保護できず、介護の対応もできない。それを超える場合は、自治体が本人の健康と安全を守るため施設に預けるなどの対応を取っている。「徘徊(はいかい)高齢者緊急一時保護」などと呼ばれるが、法律に明確な定めはなく、各自治体がそれぞれの手法で対応している。事前に提携した介護施設に最大1〜2週間の預かりを頼むケースが多く、病院や一時宿泊所を使う場合もある。
緊急一時保護

緊急一時保護の対象となった人は、2008年度以降で少なくとも546人いた(毎日新聞調査)。
年間の対象人数はこの間にほぼ倍増していたという。
要介護者は増える一方であるが、介護者はなかなか増えないので、緊急一時保護の対象者が増えて行くのは必然であろう。

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2014年4月28日 (月)

小保方晴子と石井俊輔/「同じ」と「違う」(72)

京都大学の山中伸弥教授が、インターネット上で不正があるのではないかと指摘された。
同教授は、緊急会見を行って説明した。

 京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥教授は、午後5時から会見を開きました。山中教授が2000年にドイツの学術誌に投稿した論文に対して、2つの画像データが似ていてコピーしたのではないかなどとインターネット上で指摘がありました。これを受けてiPS細胞研究所が調査をした結果、「データに切り貼りした痕跡はない、論文の内容が再現されていることが確認できる」などとして、論文に問題ないと結論づけました。
http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2187740.html

先日は、STAP現象(細胞)をめぐる疑惑の理研調査委の調査委委員長・石井俊輔・理研上席研究員らの論文に、疑義が指摘されている。
⇒2014年4月26日 (土):理研の失態と科学への信頼/知的生産の方法(92)
石井氏は取材に対し、「オリジナルのデータがあり、不正な改竄ではない」と否定しているが、分かりにくい弁明と言わざるを得ない。

小保方晴子氏の研究を不正と認定したのは、遺伝子の実験データ画像の一部に切り貼りがあることを「改ざん」とし、細胞の万能性を示す画像が博士論文からの流用であるとして「捏造」と認定したのに照らせば、不正でないとする理由が不明である。
⇒2014年4月 1日 (火):STAP論文の不正を理研が認定/知的生産の方法(84)

私は、本質的には、「画像の加工によって論文の内容が変わったかどうか」ということが判断の分岐点になると思う。
この点について、小保方氏も石井氏も、加工によって論文の内容が変わったわけではない、と主張している。
つまり、言葉の常識的な意味での「捏造」には当たらないと考える。
旧石器遺跡事件の場合とまったく異なるのではないか。
⇒2014年4月11日 (金):STAP細胞と旧石器遺跡/「同じ」と「違う」(71)

その意味で、理研調査委の結論は勇み足ではなかったかと思う。
今回調査委員長は、不正と断罪されるのであろうか?
調査委の委員長は辞任する旨の発言をしているようであるが、もしそれで済まそうとするなら著しく衡平性を欠くことになるのではないか。
小保方氏は、理研調査委の結論により研究者生命を絶たれようとしている。
石井氏は調査委の委員長を辞しても、別に研究者としては従来通りの立場で居られるだろう。
それは社会正義に反するのではないか?

以上のことは、STAP細胞(現象)の真偽の問題とは別である。
それは理研として行う再現実験の結果を待てばいい。
私が見聞した範囲においては、小保方氏は、不適切な部分はあったかも知れないが、不正はなかったという心証である。

不適切が未熟さに起因するとしたら、それを小保方氏の責任にするのは如何なものだろうか?
むしろ未熟な研究者に筆頭著者の立場で論文を書かせた理研の問題ではないか。
ついでに言えば、不適切な論文を投稿したとしても、それで罰するというのも道理に合わないのではないか?

もちろん、「不正」であれば、罰するべきであろうが、小保方氏の場合はどうか?
余りこういうことばかり問題にしていて、研究者が萎縮するような結果になれば、大きな損失ではないか?

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2014年4月27日 (日)

電王戦の結果と2045年問題/知的生産の方法(93)

2045年問題が、一般的な話題になってきたようである。
4月21日の東京新聞に、解説記事が載っていた。
20453140421

2045年問題とは何か?
端的に言えば、「人工知能の能力が人類の能力を超える時点」のことである。
良く知られているように、集積回路の性能を示す「ムーアの法則」と呼ばれるものがある。

世界最大の半導体メーカーIntel社の創設者の一人であるGordon Moore博士が1965年に経験則として提唱した、「半導体の集積密度は18~24ヶ月で倍増する」という法則。
ムーアの法則Moore’s law

ムーアの法則と実際の下図の通りである。
2
 ムーアの法則-Wikipedia

この傾向が継続すれば、人工知能が人間の知能を凌駕する時がやってくるに違いない。
そして、2045年に人工知能は人間の能力を超える。

人工知能の賢さを測る尺度はさまざまある。例えば計算能力でいうと、いまある普通のコンピュータでもはるかに人間の能力を超えている。それをふまえて、現段階の人工知能の賢さをどのようにイメージできるだろうか。
「頂上が人間の知能だとすると、いまは3合目の手前というところです。人間の知能をつくり出すということが以前思っていたよりも相当難しいということがわかってきた段階です。ここまでくるのに約60年。しかし初期のころはどちらが頂上かもわかっていなかった、つまり何をすれば鉄腕アトムができるのかもわからなかったのです。方向性が見えてきたということで、今後はこれまでの60年とはぜんぜん違います」
では現時点でどれくらいの速度で進化していると捉えているのだろうか?
「何をもって知能の量を数えるかという問題がありますが、私の感覚では3年で5倍というところで しょうか」
3年で5倍というのは驚くべき数字だ。9年で125倍(5×5×5)になる。
「10年で100倍というイメージは確かです。このフェイズに入ったのは多分2010年ごろからで、そ こまではじわじわとゆっくり進歩していました」
2045年に人工知能は人類の知能を超えられるのか?──迫りくる特異点問題

分かりやすい人工知能に、将棋ソフトがある。
将棋ソフトはどれくらい強いのか?

プロ棋士と将棋ソフトが対戦する電王戦が注目を集めている。
第2回の昨年は、将棋ソフト側の3勝1敗1分けで、プロ棋士を圧倒した。
⇒2013年5月 5日 (日):将棋ソフトの進歩と解説ソフトの可能性/知的生産の方法(52)

その中で、負けられないという気持ちで不本意な手で引き分けに持ち込んだ塚田泰明九段の手記が話題となった。
⇒2013年6月 3日 (月):電王戦の記者会見における塚田九段の涙/知的生産の方法(57)

今年はどうだったか?

 2014年4月12日、将棋のプロ棋士5人と5つのコンピュータ将棋ソフトが対決する団体戦『第3回 将棋電王戦』が閉幕した。最終結果はプロ棋士側の1勝4敗で、昨年の『第2回』と合わせると2勝7敗1引き分け(持将棋)と大きく負け越し。現在のコンピュータの実力は、プロ棋士の平均どころか、間違いなくトップクラスと言ってよいものであることは明らかだ。
第3回将棋電王戦全5局を総括。「1勝4敗」の意味するものとは?

人工知能学者・松原仁さんの研究チームは、将棋ソフトの開発で有名である。
その松原さんのチームが、将棋界の頂点・羽生善治氏との勝負に挑もうとしている。

「数年以内にコンピュータが羽生さんに勝つことは間違いありません。これはけっこうなインパクトを世間に与えるはずで、われわれの間では"羽生問題"と密かに呼んでいます。日本人にとって羽生さんというのは、ある種の象徴でもあるわけです。コンピュータがその羽生さんに将棋で勝利したとなると、日本人のコンピュータに対する見方ががらりと変わる可能性があります」
松原さんのチームはさらに、人工知能に8000字程度のショートショートを創作させるプロジェクトに取り組んでいる。そのためにショートショートの名手・星新一の膨大な作品群データを解析中だ。
2045年に人工知能は人類の知能を超えられるのか?──迫りくる特異点問題

また別の例では、東大入試がある。
国立情報学研究所の新井紀子教授が中心となって進めているプロジェクトに、「ロボットは東大に入れるか(Todai Robot Project)」がある。
現在は、代ゼミのセンター模試は平均点以下であるが、私立大学の学部のほぼ半数で、合格可能性80%以上のA判定を獲得する程度だという。
2021年度には東大入試を突破することが目標である。
⇒2014年1月19日 (日):ロボットが東大に入る日/知的生産の方法(78)

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2014年4月26日 (土)

理研の失態と科学への信頼/知的生産の方法(92)

STAP現象(細胞)をめぐる問題に、意外な番外劇が報道されている。
理研調査委の調査委委員長を務める石井俊輔・理研上席研究員らの論文に、疑義が指摘されているというのだ。

 新型万能細胞「STAP(スタップ)細胞」の論文不正問題で理化学研究所の調査委員長を務める石井俊輔・理研上席研究員らが執筆した論文に対し、インターネット上で疑義が指摘されていることが24日、分かった。石井氏は同日、産経新聞の取材に対し委員長を辞任する意向を明らかにした。
 この論文は乳がんを抑制するタンパク質に関するもので、平成20年に理研などのチームが英学術誌に発表。石井氏が責任著者の一人になっている。遺伝子を調べる実験結果の画像の一部を入れ替えた改竄(かいざん)ではないかとの指摘が出ていた。
 石井氏は取材に対し「オリジナルのデータがあり、不正な改竄ではない」と否定。その上で「疑義を指摘された以上、その部分を突かれると理研や委員会に迷惑をかける。調査委員長がこのような隙を作ってはいけない。不本意だが本日、理研に委員長の職を辞したい旨を伝えた。慰留されても意志は固い」と述べた。石井氏によると学術誌側も不正でないことは認め、訂正を承諾しているという。
 理研は2月中旬に調査委を設置。委員長の石井氏は分子遺伝学が専門で、16年に発覚した理研の研究者による血小板に関する論文不正の調査委でも委員を務め、改竄などを認定した。
 STAP論文をめぐっては、調査委から不正を認定された小保方晴子・研究ユニットリーダー(30)が不服を申し立て、再調査の実施と不正認定の撤回を求めている。責任者である石井委員長が自身の疑義で辞任の意向を固める異例の事態となり、一連の問題はさらに波紋を広げそうだ。
STAP問題、理研調査委員長、辞任へ 自身の論文データに疑義

詳細な事情は分からないが、上記記事を見る限りでは、小保方氏に向けられている疑惑と何が違うのか、という気がする。
「実験結果の画像の一部を入れ替えた」ことを改竄と認定したのが調査委ではなかったか?
⇒2014年4月 1日 (火):STAP論文の不正を理研が認定/知的生産の方法(84)

これに対して、小保方氏が、画像の取り違えは過失であることは認めるが、不正(捏造)であるとの認定は誤認であると不服申し立てをした。
⇒2014年4月10日 (木):小保方氏の研究不正認定は冤罪か?/知的生産の方法(86)

私は、科学的主張の真偽の問題と、研究不正の認定の問題は分けて考えるべきだと考える。
そして、科学的主張の真偽の問題に関しては、小保方氏に挙証責任があるだろうが、研究不正を認定すること、言い換えれば懲戒処分をするということになると、懲戒する側に挙証責任が生ずると考える。
そして、調査委の結論は拙速ではないかと感じた。
⇒2014年4月 1日 (火):STAP論文の不正を理研が認定/知的生産の方法(84)

小保方氏の主張は、あくまで理研の調査委の結論に対してである。
⇒2014年4月23日 (水):STAP問題の個人的な中間おさらい/知的生産の方法(91)
それが、調査委委員長が同じような問題を指摘されては、話にならない。
委員長辞職は当然であろうが、それだけで済む問題か?
理研トップの野依良治理事長の責任問題も浮上してこよう。

日本の至宝ともいうべき科学者が、このようなことで責任を問われるのは忍びない。
同時に、科学に対する信頼性を損なうことになってはならないだろう。

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2014年4月25日 (金)

東アジア情勢と非超大国のアメリカ/世界史の動向(12)

オバマ米大統領が、23日に2泊3日のスケジュールで訪日した。
今回の訪日は、日本だけではなく、韓国、マレーシア、フィリピンの4カ国を歴訪する中の一環ではあるが、その最初の訪問国である。
オバマ政権の「アジア軸足」外交が問われるアジア訪問である。

今回は、国賓としての来日であり、24日には、皇居で歓迎行事に出席して天皇・皇后両陛下と会見し、宮中晩餐会に出席した。
来日する外国賓客の区分は「国賓」「公賓」「公式実務訪問賓客」「実務訪問賓客」「外務省賓客」の順番で、それぞれ待遇が決まっており、国内の滞在経費は日本側が負担する。
平成21年に来日した際には、国賓ではなく、実務訪問賓客の待遇だった。
安倍政権の期待の反映であろう。

24日には、安倍首相と会談し、アジアの安定に日米同盟が果たす役割の重要性を確認した。
「アジア軸足」において、クリミア危機が勃発して状況が変化している。
ロシアがクリミアの併合に成功しつつあるが、海洋進出の野望を隠さないでアジア諸国との領土問題を抱える中国にとっては、好都合の例であろう。

オバマ大統領は尖閣諸島(中国名:釣魚島)が日米安全保障条約の適用対象であることを明言、日本が進める集団的自衛権の行使容認の動きを支持するなど、安倍政権の望む形の会談となった。
しかし、尖閣で日中が衝突するような事態になった場合、米軍が乗り出してくることを約束したわけではない。
安保条約上、米軍の行動はあくまで米政府の判断になる。

実際に、安倍首相に対し、「事態がエスカレートするのは望ましくない。日中は信頼関係を醸成すべきだ」と緊張緩和の取り組みを求めたという。
安倍首相の言動が東アジアの緊張を高めているのではないか、という見方は多い。
防衛研究所が発行する「東アジア戦略概観」の今年度版を、高野孟氏は次のように解説している。

「北東アジア情勢の先鋭化・深刻化の背景となる4つ目の要因として、主要国間におけるいわゆるセキュリティジレンマの顕在化も指摘されている。すなわち、自国の安全を高めようと意図した国防力の増強や対外的な安全保障関係の強化が、他国にとっては脅威や懸念と見なされ、対抗的な政策を引き起こし、結果的に軍事的緊張関係が高まり、全体としての安全保障環境が悪化する状況を招いているとする見方である。こうした状況を打開するには、首脳レベルにおける戦略対話、広範な分野における国際交流、危機管理メカニズムの構築や防衛交流・安全保障協力などを包括的かつ着実に積み重ねる必要があろう」
緊張を高めているのは北朝鮮や中国だという露骨な言い方をしてもよさそうなものだが、敢えてそうせずに、「主要国間」でお互いに疑心暗鬼になって軍拡がエスカレートしていると、客観的に突っぱねたような見方をした上で、これを打開するには首脳対話、国際交流、危機管理メカニズム構築や防衛交流・協力を総合的に進めるべきだと指摘している。この「主要国」に日本も含まれていると受け止めるのが自然な読み方で、そこを捉えて5日付の東京新聞は「防衛研究所、首相の安保政策懸念」との見出しを立てて「安倍晋三首相が中国や北朝鮮の脅威を強調し、軍事力強化を図ることは軍拡競争を招き北東アジア情勢の悪化につながっていると指摘した」と書いた。この報道だけを読むと、防衛省付属のシンクタンクが本当に安倍を名指しで批判したのかとビックリするが、実際は上の引用を見れば分かるとおり、そんなストレートな表現はない。その意味では東京新聞はちょっとやり過ぎだろう。とはいえ、安倍が中国との首脳対話も開けないような状況を作り出しながら南西諸島防衛強化や集団的自衛権解禁による日米同盟強化など軍事手段ばかりを追求している異常さに、同研究所が懸念を抱いているのはたぶん事実で、上記引用の「首脳レベル…」以下の記述は安倍政権への提言と読んで読めないことはない。
高野孟:防衛研究所「戦略概観」が安倍を批判?!

問題の東京新聞の記事における図解は次のようである。
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米国にとって中国は利害を共有する相手でもある。
オバマ大統領は、「領有権の決定的な立場は示さない」と語り、日中の領土問題には踏み込まない米政府の方針をあらためて示した。
また、尖閣諸島をめぐって日中で武力衝突が起きた場合に、米国が軍事介入に踏み切る一線はどこかと記者から問われ、「レッドラインは引かれていない」とも語った。
ある意味で、日中双方にハーフハーフといったところであろうか?

オバマ大統領にとっては、東シナ海で日本、南シナ海でフィリピンなどと対立する中国と、ウクライナ南部のクリミア編入に踏み切ったロシアの姿がオーバーラップしているのではなかろうか。
「力を背景とした現状変更に反対する」と安倍首相とオバマ大統領は共通認識を示したが・・・・・・。
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東京新聞4月25日

 

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2014年4月24日 (木)

日ハム大谷選手の二刀流のへの期待/花づな列島復興のためのメモ(322)

日本ハムファイターズの大谷翔平選手が、23日のソフトバンク戦に「3番・指名打者」で先発出場して、初回二死の第1打席で寺原から今季1号の先制ソロ本塁打を放った。
大谷選手は、花巻東高の出身。3年の春のセンバツでは初戦の大阪桐蔭高校戦で藤浪晋太郎投手(現阪神)から本塁打を放ったが、自ら崩れて敗退した。
夏に期待がかけられたが、岩手大会では決勝の盛岡大附高校戦で敗れて甲子園出場はならなかった。

プロ野球デビューの昨シーズン、プロ野球では非常に珍しい投手と打者の『二刀流』を実行した。
投手としては、3勝0敗、防御率4.23、打者としては、204打席で打率0.238、本塁打3本だった。
今季は投手として既に2勝を挙げている。
数字もそうであるが、投手として出場した試合(5試合)、打者として本塁打を打った試合のすべて(4試合)が勝利に結びついており、不敗神話を作りつつある。

二刀流は、玄人筋には反対意見が多いようであるが、私のような一介のファンにとっては新しい楽しみである。
今季のセ、パ両リーグの交流戦における特別企画として指名打者(DH)制を普段のリーグ戦とは入れ替え、セの主催試合で採用し、パの主催試合では採用しない方向だという。
そうなれば、大谷投手が本拠地の札幌ドームで投手として打席に立つ姿が見られることになる。
ファンサービスということだろう。

 
もちろん、二刀流は心身ともに負担が大きい。
反対意見に次のようなものがある。

 栗山監督もできれば投手陣の柱として起用したいと考えているものの、大谷本人の体に問題があった。昨秋から登板後に背中の筋肉が張る傾向があり、それが中6日では回復しなかったのだ。
 だからこそ前回は中8日、今回は中7日での登板だった。中6日のローテに入れたくても入れられなかった。代わりに登板と登板の間に野手として起用してきた。結果として去年同様、中途半端な「二刀流」だった。
 だが、原因が大谷の肉体面にあるとハッキリした以上、一日も早く背中の張りを取り除くために時間を使うべきではないか。登板の疲労を取り除くなり、張りが出ないような体をつくるトレーニングを課すなり、投球間にやることはいくらでもある。「先発の軸」にすることが何よりの優先事項なのだから、少なくとも中6日で回れるようになるまでは野手としての出番を制限すべきだ。
 大谷は現在、野手として12試合に出場し.385。これは10試合以上出場したチームの野手の中で最高打率。得点圏打率(.429)、出塁率(.405)もチームトップだ。
 結果を出すことは分かっちゃいるが、「二刀流」はローテに定着、余裕が出てきてからでも遅くはない。
2勝目挙げた日ハム大谷 体調戻るまで「投手専念」のススメ

しかし、「12試合に出場し.385。これは10試合以上出場したチームの野手の中で最高打率。得点圏打率(.429)、出塁率(.405)もチームトップ」ということは、二刀流の実行が、現時点ではチームにとってベストということでもある。
問題は、現時点で(あるいは短期的)考えるか、長期的に(選手としてのライフサイクル)考えるかの違いだろうか。
囲碁でいう「実利」か「厚み」かということにも似ている。

アマチュアは実利に走りがちであって、そうすると強くはなれないと言われる。
将棋の故米長邦雄氏は、『碁敵が泣いて口惜しがる本―“将棋の天才”が発見した囲碁必勝の秘訣』祥伝社ノン・ポシエット文庫(1997年4月)で、現金と株券の違いにたとえて説明している。
私にも、投資の発想は分からなくもない。
しかし、常識を破る楽しみというものもある。
もし、大谷選手が現在のペースでシーズンを終えれば、大変な記録となる。
そして、記録を塗り替えるのは、若者の特権である。

フィギュアスケートの羽生結弦選手、スキージャンプの高梨沙羅選手、水泳の荻野公介選手等が未踏の世界を切り拓きつつある。
大谷選手には、もちろん課題もある。
今季2勝目の後である。

 右腕が唇をかむのが4-0で迎えた7回。連打と四球などで背負った1死満塁のピンチで、捕逸と失策で2点を失いお役ご免となった。
 悔しがった右腕を楽天関係者はどう見ていたのか。「6回にジョーンズを三振に切ったのが大谷本来の直球。でもあそこで力を使い果たした。7回は別人。高く浮いて空振りがほとんど取れなくなっていた。今後も体力的に100球が目安だろう」と指摘する。
 だが投球からは“100球のカベ”を乗り越えようという意識が見られたという。「中盤までは第1ストライクを意識していた。多少キレが落ちるのでウチも早めに仕掛けていた。確かに早打ちは攻撃側にリスクが高い。もう少し質の高い球を投げてくると100球で完投、完封もある。恐ろしい2年目だよ」と青ざめた。
 投手がスタミナ不足を補うには、走り込みなどの練習があるが、時間が限られるシーズン中には難しい。考えられる選択肢は「田中(現ヤンキース)のように早いカウントで打たせる術を身に付けること。それには打者の狙い球を見抜いて外していくことが必要だが、大谷は打者の心理も自分でつかめる。これは大きな利点だ」(同)。
 打席で意識している打者としての狙いを投球に反映することができれば、飛躍的に伸びるとみている。
 “2人の大谷”は助け合って2本の刀を鍛え上げることができるか。 
日本ハム・大谷、二刀流を阻む100球のカベ 乗り越えるカギは

是非この課題をクリヤーして欲しい、と思うが如何なものであろうか。

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2014年4月23日 (水)

STAP問題の個人的な中間おさらい/知的生産の方法(91)

1月末のSTAP細胞に関する発表以後、発生生物学という自然科学の分野が日本列島の大きな関心事となった。
発生生物学-Wikipediaには、次のような記述がある。

この分野は、古くは発生学 (embryology) と呼ばれていたが、現在ではより広い意味を持たせた発生生物学という名称で呼ばれている。発生学ではウニなどの胚 (embryo) の発生を観察し記載することを主としていた。「これは技術的な限界により研究対象が大きくて透明な卵に限られていたためである」という。また多種生物間での比較を主とする場合は比較発生学と呼ばれる。この分野は19世紀には比較解剖学とともに進化論を支える根拠となった。 その後に、移植などの操作を行う実験発生学と呼ばれる分野が発達してきた。
近年になり分子生物学や遺伝学、細胞生物学の手法・知見を取り込みながら発展し、研究対象は多様な生物種・発生過程に及んでいる。多様な生物の発生生物学的知見が蓄積され、それらを比較することにより進化を探ろうとする進化発生生物学 (evo-devo) も盛んになっている。

STAP細胞(現象)は、今までのこの分野の知見からは考えにくいものであり、共同研究者たちも最初は信じられなかったというような感想を語っていた。
なおかつ、研究リーダーが若い女性であることもあって、日本女性初のノーベル賞受賞か、などと囃された。
2014年1月30日 (木):新しい人工万能細胞/知的生産の方法(79)

私は、このような大発見が往々にして予期しないことから行われるいわゆるセレンディピティに属することから、官僚的なコントロールには馴染まないのではないかとした。
⇒2014年2月 1日 (土):官製成長戦略でイノベーションは起きるか/アベノミクスの危うさ(26)
言い換えれば、予算主義の大企業も同じことである。
⇒2014年1月 7日 (火):半導体戦争における巨艦日立の沈没/ブランド・企業論(14)

ところがほどなくして、肝心のネイチャーへの投稿論文に少なからぬ不備があることが分かって、世論は手のひらを返したように、研究不正ではないかと追及しだした。
⇒2014年3月13日 (木):STAP細胞に関する過熱報道/花づな列島復興のためのメモ(315)
本来、小保方氏たちと利害を共通するはずの理研が調査に乗り出し、中間報告段階では、不適切ではあったが不正は確認できず、引き続き調査をするとした。
⇒2014年3月16日 (日):STAP細胞ー成果主義と広報戦略/花づな列島復興のためのメモ(316)
そして、最終報告で、「改ざん」と「捏造」があった、故に研究不正であると結論した。
⇒2014年4月 1日 (火):STAP論文の不正を理研が認定/知的生産の方法(84)

しかし、この理研調査委は、拙速のような印象であった。
⇒2014年4月 3日 (木):STAP細胞論文の検証/知的生産の方法(85)  
小保方氏も、調査委には事実誤認があるとして、不服申立書を提出することになった。
⇒2014年4月10日 (木):小保方氏の研究不正認定は冤罪か?/知的生産の方法(86)

論点が分散しているきらいがあるが、小保方氏も論文に不備があったことは認めており、それを「不正」と認定すべきかどうか、ということが争点である。
これについて、小保方氏の代理人の三木秀夫弁護士が、21日に「『不服申立についての理由補充書』を公表した。
以下の報道等がある。
小保方氏「不服申立についての理由補充書」要約版全文

この他の問題、たとえば「研究成果の真実性の問題」については、理研の調査委はミッション外であるとし、理研が再検証を1年かけて行うということである。
したがって、現時点では何とも言えないとしか言いようがないように思う。
しかし、次のような批判がある。

日本分子生物学会副理事長で九州大学の中山敬一教授は、まず改ざん問題について「弁護側は結果が正し今回の文書について、日本分子生物学会副理事長で九州大学の中山敬一教授は、まず改ざん問題について「弁護側は結果が正しければ画像の切り貼りをしても改ざんには当たらないと解釈をねじ曲げている。データを切り貼りすること自体が改ざんで、科学の常識からは考えられない誤った解釈だ」と指摘しています。
また、ねつ造と認定された画像については、「実験が実際に行われ、本物の画像があるというのであれば、事実を裏付けるデータや実験ノートなど誰もが納得する一次資料を示すべきだ」としています。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140421/k10013898211000.html

「科学の常識」を判断の基準にしているが、小保方氏は「理研の規定」に照らして研究不正ではない、と主張しているのであって、批判がかみ合っていない。
科学上の問題は、再現検証実験を待つしかないのではないか。
現時点では、小保方氏の反論は理研の調査委の結論が妥当であるのかという問いかけであって、それ以外の問題については、争いがないか検証待ちなのである。

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2014年4月22日 (火)

STAP現象とパラダイムへの挑戦/知的生産の方法(90)

STAP細胞は、「生物学の定説」を覆えすものだと言われている。
どういう意味においてか?

理研のサイトでは、次のように説明している。

哺乳類の発生過程では、着床直前の受精胚の中にある未分化な細胞は、体のすべての細胞に分化する能力(多能性)を有しています。ところが、生後の体の細胞(体細胞)は、細胞の個性付け(分化)が既に運命づけられており、血液細胞は血液細胞、神経細胞は神経細胞などの一定の細胞種類の枠を保ち、それを越えて変化することは原則的にはありません。即ち、いったん分化すると自分の分化型以外の細胞を生み出すことはできず、分化状態の記憶を強く保持することが知られています。
体細胞の分化状態の記憶を消去し初期化する原理を発見

上記が「生物学の定説」である。
東京大学生命科学教科書編集委員会編『
生命科学』羊土社(2006年2月)(大学の理工系の生物学の教科書のスタンダードを目指したもの)では、以下にような記述がある。
2

読み取りにくいだろうが、「分化した細胞の抑制を解除すれば、幹細胞(stem cell)になりうる」と読める。
「抑制の解除」をどう実現するか?

同じく理研のサイトの説明を見よう。

体細胞の分化型を保持している制御メカニズムが、強い細胞ストレス下では解除されることを見いだしました。さらに、この解除により、体細胞は「初期化」され多能性細胞へと変化することを発見しました。この多能性細胞は胎盤組織に分化する能力をも有し、ごく初期の受精胚に見られるような「全能性」に近い性質を持つ可能性が示唆されました。この初期化現象は、遺伝子導入によるiPS細胞(人工多能性幹細胞)の樹立とは全く異質のものです。共同研究グループは、この初期化現象を刺激惹起性多能性獲得(STAP)、初期化された細胞をSTAP細胞と名付けました。STAPの発見は、細胞の分化状態の記憶の消去や自在な書き換えを可能にする新技術の開発につながる画期的なブレイクスルーであり、今後、再生医学のみならず幅広い医学・生物学に貢献する細胞操作技術を生み出すと期待できます。
体細胞の分化状態の記憶を消去し初期化する原理を発見

「ネイチャー」への投稿に際しても、「過去何百年の生物細胞学の歴史を愚弄していると酷評され、掲載を却下された」ということが、その「非常識性」を示しているだろう。
⇒2014年1月30日 (木):新しい人工万能細胞/知的生産の方法(79)
その革新性は、当初の報道記事に良く表れている。

 大阪大の水口裕之教授(分子生物学)は「特殊な状況に細胞を置くと初期化(=万能化)が短時間に起こるというのは、ちょっと想像できないくらいすごい発見だ」と舌を巻く。国立成育医療研究センター研究所の阿久津英憲幹細胞・生殖学研究室長も「がんの研究者などは興味が湧くのではないか。明日からでもできるような実験。今後、爆発的に研究が広がるだろう」と高く評価する。
 国内外から驚きの声が上がるが、当初、小保方さんの研究には周囲の研究者も疑心暗鬼だった。共同研究者で、マウスにSTAP細胞を移植する重要な実験をした若山照彦・山梨大教授(46)もその一人。「できないだろうと思っていたので、ものすごくびっくりした。ありえないことが起こったと思った」と明かす。
 こうした独自の成果を後押ししたのが、理研の発生・再生科学総合研究センターの研究体制だ。笹井芳樹副センター長(51)によると、同センターは「5年、10年で何をしたいか」といったアイデアを重視し、人事委員会で採用を協議する。大学院を修了する前後の20代後半から30代前半の研究者も多く、小保方さんのような30歳のリーダーも珍しくないという。
http://sankei.jp.msn.com/west/west_life/print/140201/wlf14020118180028-c.htm

 山中教授が所長を務める京都大iPS細胞研究所(CiRA=サイラ)では、妻木範行教授が昨年10月、人の皮膚細胞に遺伝子を入れ、万能細胞を経ずに直接、軟骨細胞に変えることに成功したと発表した。「ダイレクト・リプログラミング」と呼ばれる手法で、iPS細胞の研究で明らかになった初期化や分化の仕組みを応用した。
 同じような手法で、皮膚の細胞から心筋や神経を直接作ったとの成果も、国内外の研究機関で報告されている。STAP細胞と同じように、将来的には患部に特定の物質を注入して細胞を体の中で直接変換する治療も夢ではない。
20140414_162840_3
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1402/03/news046.html

ちなみに「定説」を辞書で確認してみよう。

てい‐せつ【定説】
広く検証されて確実なものと認められた(仮)説。「―をくつがえす」
広辞苑第六版
ていせつ【定説】
評価が確定している学説・理論。established theory
パーソナル現代国語辞典

小保方氏らの研究は、まさに「定説」を覆すものである。
「定説」に挑戦するものであっても、結果的に次の2つがある。

A パラダイムを転換させ、あらたなパラダイムに繋がるもの
B ほら話

A or B ?

それを決定するのは、再現性の検証である。
再現できなければ、それは「ほら話」に終わる。
しかし、再現の成功例が出れば、Aとなる。
STAP細胞の場合、iPS細胞を意識したのか、簡単に作成できると発表したことが事態を紛糾させた面もあるのではなかろうか?

メディアでも、STAP細胞(現象)をめぐって、さまざまな言説が交錯している。
果たして、STAP細胞(現象)は、確かに存在するのか?
疑惑に対して、理研の調査委員会は、小保方晴子ユニットリーダーを筆頭著者とする「ネイチャー」掲載論文に、「改ざん」と「捏造」があると認定し、それは研究不正であり、論文の撤回を求めた。
⇒2014年4月 1日 (火):STAP論文の不正を理研が認定/知的生産の方法(84)

これに対し、小保方氏が、調査委の判断には事実誤認があるとして、記者会見を開いて、再調査を求めるとともに、論文の撤回はしないと言明した。
⇒2014年4月10日 (木):小保方氏の研究不正認定は冤罪か?/知的生産の方法(86)
また、論文の撤回には同意しているものの、小保方氏の研究指導者にあたる笹井芳樹氏は、記者会見をして、「STAPは有望で合理的な仮説と考える」と話した。
なぜならば、「STAP現象を前提にしないと容易に説明できないデータがある」からだという。
また、「STAPはreal phenomenon(本物の現象)だと考えている」とも発言している。
共著者の1人の丹羽仁史氏も、撤回に同意はするが、マウスの実験でES細胞からはできないはずの組織ができたことを顕微鏡で見て確かめたと説明している。
⇒2014年4月13日 (日):利権としてのSTAP細胞/花づな列島復興のためのメモ(319)

私は、実在性に信念をもっているのであれば、論文を撤回するのではなく、訂正や続報で対応すべきだ、という福岡伸一氏の意見に賛成である。
「ある」と考えるが、論文の撤回に同意するというのは、分かりにくい。
⇒2014年4月11日 (金):STAP細胞と旧石器遺跡/「同じ」と「違う」(71)

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2014年4月21日 (月)

行方不明の認知症高齢者/ケアの諸問題(5)

来年に、団塊の世代(昭和22(1947)~24(1949)年に生まれた人)の高齢者入りが完了し、2025年には後期高齢者となる。
その時、1人の現役世代が支える高齢者の数は1.8人と予測されている。
⇒2014年2月17日 (月):「徴介護制」はあり得るか?/花づな列島復興のためのメモ(308)

高齢者人口は、平成27(2015)年には3,395万人となり、37(2025)年には3,657万人に達すると見込まれている。
その後も高齢者人口は増加を続け、54(2042)年に3,878万人でピークを迎え、その後は減少に転じると推計されている。
Photo
http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2012/zenbun/s1_1_1_02.html

私は、リハビリ専門病院に入院していた時、これは近未来の姿ではないかと思ったが、どうやらそれが現実になるようである。
後期高齢者になると、認知能力が衰えるのは避けられない。
⇒2014年3月23日 (日):認知症患者の増大と在宅ケア/ケアの諸問題(2)

次のようなニュースがあった。

 2年前に大阪市の路上で警察に保護されたが、名前や住所など身元が全く不明のまま、仮の名前が付けられ介護施設で暮らす重い認知症の男性がいることが分かった。男性は自分の名前が分からず、該当する行方不明者届もない。専門家は「高齢化が進み、今後このような人が増えていくのでは」と危惧している。
 大阪市は男性に対し、保護された場所にちなんだ名字に「太郎」という仮の氏名を付けた。福祉の保護を受ける手続きなどで必要なためだ。容姿などから70歳と推定して仮の生年月日も決めた。現在推定72歳になったが、入所する同市内の介護施設の職員には「実際はもう少し若いかもしれない」との見方もある。
 介護施設は通常、本人の経歴や病歴、家族構成などを踏まえてケアにあたる。例えば夕方に歩き回る人がいれば「子供の夕食を作るため家に帰ろうとしているのか」と理由を推測し、不安を取り除くよう努める。だが、太郎さんには保護前の情報がない。山内さんによると、30ほどの施設が入所を断り、受け入れ先は容易に見つからなかった。
 太郎さんは特殊なケースなのか。認知症介護研究・研修東京センターの永田久美子研究部長は「超高齢社会では人ごとでなく、同様のケースが身近で増えることは確実だ。これまでも太郎さんのような存在と対面しているが、実態把握も対応も進んでいない。一刻も早く本名を取り戻し家に戻れるように、国や自治体が本格的に対策に乗り出すべき時期だ」と話している。【
http://mainichi.jp/shimen/news/20140419ddm001040177000c.html

この「太郎」さんのような人が、今後次第に増えてくることは間違いないだろう。
認知症予防にさまざまな対策が講じられている。
⇒2013年3月15日 (金):認知症の原因としての情報不全/知的生産の方法(42)
認知症の予防には、極力情報に積極的に接触することが望ましい。
しかし、自治体等が主催する認知症予防講座のような対策を受講しようという人は、むしろリスクは小さいのではなかろうか?
また介護予防のための風船バレーのようなゲームは、健常の間は余り参加意欲を湧かせないであろう。
外に出たがらない人をどうして外出させるか、それが課題といえよう。

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2014年4月20日 (日)

STAP論文に新たな疑惑か?/知的生産の方法(89)

ネイチャーに、小保方氏を筆頭著者とした論文にさまざまな疑惑が指摘されている。
理研の調査委員会は、研究不正と断じ、小保方氏のみ責任があるとした。
⇒2014年4月 1日 (火):STAP論文の不正を理研が認定/知的生産の方法(84)

小保方氏は、不正認定を不服とした申立書を提出済みであるが、4月17日、本来、論文に掲載すべきだった画像など追加の資料を用意しているという。

 STAP細胞の論文問題で、理化学研究所の小保方晴子研究ユニットリーダー(30)の代理人弁護士は17日、週明けにも不服申し立てに関する追加資料を理研に提出すると明らかにした。
 代理人の三木秀夫弁護士によると、捏造(ねつぞう)とされた画像を取り違えて使った経緯について、本来載せるべきだった画像を添付して、詳しく説明するという。三木氏は「それさえあれば、捏造(との指摘)は吹き飛ぶ」と強調した。
 また、切り張りした画像については、改竄(かいざん)の定義に当たらないと改めて主張する。
「それさえあれば捏造吹き飛ぶ」と代理人弁護士 小保方氏、正しい画像提出へ

理研は不服申立書を受理しているが、どう判断するかは未だ明らかではない。
調査委の判断が出た後で、新たな「疑惑」が指摘されている。

論文にはメスのマウスのSTAP幹細胞に関するデータが載っているが、幹細胞を作った研究者は「オスしかつくっていない」と話していることが11日、理化学研究所の関係者の話でわかった。
・・・・・・
 一方、論文にはメスでしか確認できない実験の記述があり、「メスのSTAP細胞では確認されたX染色体の不活化を示すマーカーが、STAP幹細胞では見られなかった」とある。関連の図表にも同様の説明があった。「オス」と「メス」を書き間違えたとは考えにくいとみられる。
Ws000000_3
STAP幹細胞作製「オスのみ」 論文は「メスも」記述

これについて、小保方氏サイドは文書で反論している。

 弁護団は「4月9日の記者会見に関する補充説明」と題した文書を報道陣に配布。弁護団が小保方氏から聞き取ったとする内容で、その中に朝日新聞記事への反論も含まれていた。この文書によると、STAP幹細胞は少なくとも10株は現存し、理研に保管されているという。そのうち、8株の幹細胞はオスだったが、それ以外を第三者機関で調べたところ、メスの幹細胞も含まれていたと指摘。「オスの幹細胞しかないというのは、事実と異なります」「(記事は)大きな誤解を招くもので、許容できるものではありません」と主張している。
「メスの幹細胞もある」小保方氏が朝日新聞記事に反論

経緯は以下のようである。

 STAP幹細胞は、若山照彦・山梨大教授が理研CDBのチームリーダーだった当時、少なくとも43株作製した。一つの株には多くの細胞が含まれる。若山教授によると、うち約20株はその後廃棄したが、残る約20株は昨春、若山教授が理研から山梨大に移る際に小保方氏と株の細胞を分け合い、各自が同じ約20株の細胞を持つことになったという。
Photo
「残存の幹細胞、第三者が解析」 小保方氏「メスも存在」、本紙に反論 STAP論文

若山氏は、共著者の中でいち早く撤回を呼びかけた人だ。
「藪の中」のような感じである。

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2014年4月19日 (土)

原発事故とエネルギー政策/原発事故の真相(112)

安倍内閣が、「エネルギー基本計画」を閣議決定した。
⇒2014年4月12日 (土):新エネルギー基本計画批判/原発事故の真相(111)
その一方で、福島第一原発事故現場では、汚染水をめぐるトラブルが収束の気配を見せない。

 東京電力は14日、福島第一原発の汚染水処理で、使う予定のない仮設ポンプ4台が動き、本来移送されるはずのない焼却工作建屋の地下に汚染水約203トンが流れ込んだと発表した。汚染水には放射性セシウムが1リットル当たり3700万ベクレル含まれていたが、東電は「地下に外部との貫通部はなく、建屋外への流出はない」としている。作業関係者が故意にポンプを操作した可能性を含め、原因を調査している。
http://www.minpo.jp/pub/topics/jishin2011/2014/04/post_9794.html

東電は誤送の原因について、設備の誤動作ではなく人為的ミスの可能性があるとした。
監視カメラの増設や作業員の位置情報の把握などについても検討を進めるというが、規制委の更田豊志委員は「作業員の環境の改善を進めることも大切だ」と指摘した。
この誤送事件は全くの想定外のことだという。
であれば、これからも想定されていない事態が起きる可能性があるということである。
 
福島第一原発の汚染水対策の凍土遮水壁について、経済産業省と東電は来年3月に運用を開始するというが、規制委から疑問点が指摘されている。

 座長役の更田豊志委員はエネ庁の安全対策の検討状況を聞き、「えいやっと決めた部分がかなりある。これだけで安全上の判断はできない」と批判した。エネ庁側は「超一級の専門家に作ってもらった」などと反論。更田委員が「根拠を示してください」と語気を強める場面もあった。
 さらに更田委員が「一つ一つ説明してもらいます」と畳み掛けると、エネ庁の新川達也事故収束対応室長が「凍土壁の議論なので、本筋から若干外れている」と不満を漏らした。
 検討会メンバーで首都大学東京の橘高義典教授は「壁が水圧を受ける。地盤の安定性が心配だ」と懸念を示した。京都大の林康裕教授も「検討が十分でないところも、見込みみたいなところもあるようだ」と述べた。
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc&k=2014041800775

地下水バイパス計画で地下水をくみ上げる12カ所の井戸の1つから、基準値を超える値が検出された。

 東京電力は17日、福島第一原発の地下水バイパス計画で地下水をくみ上げる専用井戸1カ所の水から放出基準を上回る1リットル当たり1600ベクレルのトリチウムが検出されたと発表した。放出基準は同1500ベクレル未満で、東電はこの井戸の使用を一時中断し、水の再分析を行うとともに、貯留タンクに移送した際の放出基準への影響を検討する。
http://www.minpo.jp/pub/topics/jishin2011/2014/04/post_9817.html

これらの事象は、福島第一原発事故が「収束していない」ことを示すものである。
にもかかわらず、「エネルギー基本計画」にはそのことが考慮されてはいない。
田中秀征元経済企画庁長官(福山大学客員教授)は、次のように言う。

 さて、今回の基本計画を精読してもその無内容さに驚かされる。今までのエネルギー政策、原発政策を続行していくという宣言のようなものだ。
「原子力規制委員会の規制基準に適合した原発の再稼働は進める」とした部分が計画の核心部分だ。これでは再稼働までに首相などの政治判断も不必要になり、規制委の審査結果によって自動的に再稼働していくことになる。政治や行政が不人気な決断から逃げている印象だ。
 さらに気になったのは「原発依存度は、可能な限り低減」とした部分だ。深く読めば、これは必ずしも原発の基数を減らすことにはならない。原発を減らすのではなく、依存度を減らす、しかも「可能な限り」である。
・・・・・・
「エネルギー政策に奇策は通用しない」とか「万全の対策を尽くす」とか決意表明のような文言が並ぶが、それがまた無内容さを浮き彫りにしている。その最たるものが「高レベル放射性廃棄物は国が前面に立って最終処分に向けた取り組みを進める」だ。今までできなかったことを信用しろと言っても無理である。言葉だけの努力規定に聞こえる。総じてこの計画には数値も期限も明示されていない。これでは計画ではなく、単なる「再稼働宣言」に過ぎない。
 なぜそうなったのか。それは事故の第一級の被告である原発行政と電力会社が自ら判決文を書いたからだろう。全く事故を反省し学んだ形跡がうかがえないことに怒りさえ感じる。
http://diamond.jp/articles/print/51771

このような安倍政権の原発推進政策に対し、都知事選で共闘した細川護煕氏と小泉純一郎氏が、脱原発を目指す一般社団法人「自然エネルギー推進会議」を設立するという。
3
東京新聞4月15日

学者や文化・芸能など幅広い分野の著名人が参加し、脱原発の国民運動を起こす狙いがある。
発起人には小泉、細川両氏のほか、哲学者の梅原猛氏や作家の瀬戸内寂聴氏らが名を連ね、賛同人には俳優の吉永小百合氏らが加わる。
東京電力福島第一原発事故が収束しない中で、政府が原発推進のため閣議決定したエネルギー基本計画の問題点を訴え、再稼働や原発輸出に反対を掲げる。
脱原発の動きは終わったわけではない。

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2014年4月18日 (金)

研究における管理と自律/知的生産の方法(88)

STAP細胞の論文問題で、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの笹井芳樹副センター長が16日、記者会見した。
私はTVの報道で断片的にしか見ていなかったが、他に言いようがないだろうな、というのが率直な感想であった。
研究の共著者であり、理研の管理職であり、エース研究者でもあり、という何重ものしがらみがある。
しかも、当初のセンセーションを引き起こした記者会見には同席していた。
⇒2014年1月30日 (木):新しい人工万能細胞/知的生産の方法(79)

上記のことを考えると、小保方氏の主張を否定(調査委の調査結果の肯定)するにしても、肯定するにしても、100%その立場に立つというわけにはいかないだろう。
しかし、「STAPは有望で合理的な仮説であり、再検証に値する」と語ったことは、事実上STAPは存在するという立場ではなかろうか。
再検証作業について、一部にムダなことという意見もあるようだが、私も再検証に全力を尽くせという立場である。
⇒2014年4月11日 (金):STAP細胞と旧石器遺跡/「同じ」と「違う」(71)
⇒2014年4月10日 (木):小保方氏の研究不正認定は冤罪か?/知的生産の方法(86)
⇒2014年4月 3日 (木):STAP細胞論文の検証/知的生産の方法(85)

ただ、私は論文の撤回に同意という姿勢には疑問を持つ。
笹井氏のように、「STAP現象を前提にしないと容易に説明できないデータがある」と考えるならば、撤回すべきではないように思う。
不適切を指摘されている部分は、逐次補足し修正していけばいいと思われる。
結果的にSTAP現象が否定されれば、撤回したのと同じことだろう。
あえて原形を曝しておくというのも、価値があるのではないだろうか?

また、一部には「責任逃れ」という声もある。
Ws000000
静岡新聞4月17日

東大医科学研究所の上昌広特任教授は、次のように語っている。

 会見の始めに、笹井芳樹氏が「私が参加した時点で実験やデータ分析は終了しており、私の役割は論文の仕上げだった」「論文の文章を俯瞰(ふかん)する立場だった」などと語ったことに言葉を失った。会見は完全に失敗だった。「私は翻訳家です」と堂々と宣言したようなものだ。
 笹井氏は小保方晴子氏とともにデータをまとめて論文を執筆し、研究を統括してきた中心人物だ。副センター長として、博士号を取ったばかりで実績がない小保方氏をユニットリーダーに抜擢(ばってき)した張本人でもある。山梨大に行った若山照彦氏の後を引き継いで、研究をプロデュースしていたはずだ。例えるなら、俳優が不祥事を起こしたら、プロデューサーが逃げちゃったようなもの。若手を抜擢し、競争させる。良い結果が出たら会見にも出席してPRするのに、悪い結果が出たら自分は翻訳家だと言って逃げる。これでは下にいる研究者は救われない。
笹井氏会見「完全な失敗」「あれでは翻訳家宣言」 東大医科研・上昌広特任教授

確かに小保方氏の抜擢に笹井氏は関与していたであろう。
しかし、上記の「「私は翻訳家です」と堂々と宣言したようなものだ」というのは良く分からない例えだ。
論文の仕上げの役割を負い、論文の文章を俯瞰する立場ならば、論文の全体について責任があると言っているのではないだろうか?

嘉悦大学の高橋洋一教授は次のように書いている。

冒頭述べた笹井氏の場合、研究者なので、論文の共著者としての責任はあっても、独立した研究者同士であれば、いくら歳の差があって、指導責任なんてありえない。実際、笹井氏は、小保方氏は部下ではないので、指導しなかったと明言していた。
 サラリーマンの視点から見れば、理研が所属組織としてきちんと管理すべきとなるだろう。まして、理研には税金が900億円近くも投入されているのだから、当然だろうと。
 これを研究者からみれば、自由な研究の阻害にみえるかもしれない。研究者といっても十人十色であるが、変人が多い。筆者は官僚を長くやっていたので、事務管理はお手のものだが、大学の研究者にはしばしば驚かれる。
STAP細胞問題にみる個人vs.組織

要は、研究における自由と自律、言い換えれば研究管理の責任の所在である。
私は、笹井氏の発言は、共著者であり、理研の幹部として、現時点でのギリギリのものだと思う。

小保方氏の博士論文にコピー&ペーストがあると問題になった。
私は、疑惑とされている問題について、次のように考えたらどうか、とした。
1.研究成果の真実性の問題
2.論文などにおける表現の問題
 A.博士論文の文章流用疑惑
 B.ネイチャー論文の画像の妥当性

上記の「2.A.」については、余り大騒ぎしない方が良いのではないかとした。
⇒2014年3月13日 (木):STAP細胞に関する過熱報道/花づな列島復興のためのメモ(315)
中部大学教授の武田邦彦氏は次のように書いている。

5)多くの人が誤解しているが、「著作権」というのは「書いたから俺の権利」ではなく、「思想又は感情に基づく創作物で表現されたもの」に限定されている。
6)通常の理科系の著作は、「思想又は感情」に基づいていないし、「創作物」でもないので、著作権はない。裁判の判例もそうである。
7)「著作権がない著作物」は公知であるから引用は不要である(これも多くの人が間違っている。著作権法32条は著作物に限り引用が必要とされている)。著者は公知になって無断で利用してくれることを望んでいるはずである。
・・・・・・
10)「倫理」と言う点では、社会の認識と反対だが、無断で引用するほうが倫理的である。つまり「人類共通の財産」を認め「公知」であるという法律に従っているからだ。引用しなければならないというのは法律より村の掟を上位に置く思想だから危険。
STAP事件簿08 世間の参戦(1)「あり得ないコピペ」??

つまり、文章のコピペは、理科系の論文については不要ということだろうが、武田氏の言い方は極論であって、引用元を示すのはマナーであろう。
マナー違反があるからと言って、論文の価値を全否定するような扱いは行きすぎということではなかろうか。

笹井氏の会見によって疑惑とされているものがスッキリしたわけではない。
しかし、可能性にかける方が、可能性を否定するよりも得られるものは大きいのではないか。

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2014年4月17日 (木)

公私の分界をどう考えるか?/花づな列島復興のためのメモ(321)

私たちは、純粋に「私」として存在し得るか?
人間が社会的な動物である以上、何らかの形で「公」という部分が入ってくることは否めない。
その「私」と「公」の分界をどう考えるか?

埼玉県の県立高校の教師が、息子の入学式に出席するために、自校の入学式を欠席したということが話題になっている。

 県西部の県立高校で50代の女性教諭が長男が通う別の高校の入学式に出席するため、担任を務める1年生の入学式(8日)を欠席していたことが分かった。新入生の保護者らは「今の教員は教え子より息子の入学式が大切なのか」と困惑している。
 県教育局によると、県内の県立高校では、ほかに男女3人の担任教諭が子息の入学式出席を理由に休暇届を提出し、勤務先の入学式を欠席した。
 関根郁夫県教育長は11日に開いた県立高校の校長会で「担任がいないことに気付いた新入生や保護者から心配、不安の声が上がった」と、この事実を報告した上で「生徒が安心して高校生活をスタートできる体制づくりと心配りに努めてほしい」と異例の“注意”を促した。
・・・・・・
 県教育局は「教員としての優先順位を考え行動するよう指導する」としている。
担任、息子の入学式へ…高校教諭勤務先を欠席、教育長が異例の注意

公私の分界をどう考えるかは、人それぞれであろうし、時代によっても変わるであろう。
かつては滅私奉公が強調された時代があった。
しかし、戦後史の過程では一貫して、私的価値の優位性が強調されてきた。
1944年生まれの私は、戦後的価値の中で自我を形成してきたから、前世代の人たちよりは私的価値を重く見てきたであろう。

そんな私でも、「おやっ?」と首を傾げてしまった。
職場を放棄して、高校生になる息子の入学式?

私の感覚では、15歳になれば男は自立したい頃である。
もっとも、大学の入学試験にも親がついていく例が多いというから、高校の入学式に親が参加すること自体は不思議ではないのが、「時代の空気」というものだろう。
実際、この教師の行動につて、世論は賛否半々らしい。

Yahoo!ニュースが行っている意識調査(実施期間:2014年4月12日~2014年4月22日)では、「担任が『自分の子供の行事』を理由に、学校行事を欠席することについてどう思うか」という質問に対して、13日16時現在、「問題だと思う」と答えた人は48.2%、「問題だと思わない」は42.9%となった。問題だと思う人がやや多いようだ。
高校教諭が入学式を欠席 「息子の入学式に出席のため」という理由は許されるか

埼玉県の県立高校では、「3人の担任教諭が子息の入学式出席を理由に休暇届を提出し、勤務先の入学式を欠席」とある。
休暇届が受理されているということは、学校長も許可したということだろう。
賛成論としては、下記のような意見がある。

我が子の入学式を優先することは、別段何の不思議はありません。当たり前でしょそんなの。自分の子どもの、たった一度の入学式なんですから。というか、逆に先生が自分の息子の入学式を優先しないとしたら、そっちの方が「え、親としてどーなの?ぼくが子どもなら、やっぱり出てほしいけど…」と思ってしまいます。
「教員が、教え子より息子の入学式を大切にする」のは当たり前

「時代の空気」を変えたのに力があったのは、いわゆる「団塊の世代」であると思われる。
60年代末の大学紛争と呼ばれる時代、私もその現場の一端を現認してきた。
叛乱を起こした側の論理・問題提起は理解する部分があるものの、大衆団交と称する場で、碩学の教授たちに、「テメエ、この野郎」と大声を上げる様子には、甚だしい違和感を覚えた。

ところで、この問題は、「息子」か「仕事」か、という二者択一で考えるべき問題なのだろうか?
私が思うのは、職務に対する矜持ということである。
高校教師という仕事に矜持を持っていたなら、息子にこそ了解を求めるのではないか?
息子も、そんな親を尊敬こそすれ、不満を持たないのではないか?

かつては教師は聖職だといわれた。
今は、その他の職業と無差別の労働者ということだろう。
しかし、教師という職業には、少なからぬ聖職性があると考える。
「聖」ということの背景に、「私」の犠牲を厭わないという要素があるのではなかろうか。

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2014年4月16日 (水)

アクロバティックな解釈改憲/花づな列島復興のためのメモ(320)

集団的自衛権行使容認へ憲法解釈の変更を目論む政府・自民党は、55年前の砂川判決を根拠にしようとしている。
しかし、その主張は唐突感を免れない。
識者や関係者からは「聞いたことのない説」「今になってなぜ?」と疑問視する声が相次いでいる。
Photo
東京新聞4月15日

1957年7月8日、、在日米軍立川飛行場(立川基地)の拡張のための測量阻止のデモ隊の一部が、立ち入り禁止の境界柵を壊し基地内に数メートル立ち入ったとして、9月22日に学生や労働組合員23人が検挙され、うち7人が日米安全保障条約に基づく刑事特別法違反の罪に問われ起訴された。
いわゆる砂川事件である。
1959年3月30日に出された一審では、米軍駐留は憲法違反であり被告全員無罪との判断が示された。
裁判長の名前をとって、伊達判決と呼ばれている。
これに対し、検察側は直ちに最高裁判所へ跳躍上告した。
同年12月16日、上告審で最高裁判所が統治行為論によって原判決を破棄したことから、逆転して1963年12月25日に7人の有罪が確定した。

2008年以降の研究により、伊達判決を早期に破棄させるため日米両国政府間で秘密協議がされていたことが明らかになった。
つまり、この最高裁の判決は、憲法の規定に違反したものである。

第七十六条 すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
  特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。
  すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。

砂川事件-Wikipediaでは、最高裁判決を次のように解説している。

最高裁判所(大法廷、裁判長・田中耕太郎長官)は、同年12月16日、「憲法第9条は日本が主権国として持つ固有の自衛権を否定しておらず、同条が禁止する戦力とは日本国が指揮・管理できる戦力のことであるから、外国の軍隊は戦力にあたらない。したがって、アメリカ軍の駐留は憲法及び前文の趣旨に反しない。他方で、日米安全保障条約のように高度な政治性をもつ条約については、一見してきわめて明白に違憲無効と認められない限り、その内容について違憲かどうかの法的判断を下すことはできない」(統治行為論採用)として原判決を破棄し地裁に差し戻した(最高裁大法廷判決昭和34.12.16 最高裁判所刑事判例集13・13・3225)。

素直に読めば、憲法9条2項に規定する「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」に、外国の軍隊が該当するか否かの判断である。
「日本が主権国として持つ固有の自衛権を否定しておらず」に集団的自衛権も含めて考えるかどうか?
Sunagawatr2014041200578_2
http://www.47news.jp/47topics/e/252564.php

集団的自衛権の行使をめぐっては、公明党が慎重姿勢のままである。
その説得の切り札とするという目算であるが、集団的自衛権行使容認の根拠となるのか?
「判決から集団的自衛権の行使が基礎付けられるとする学者は、知る限りではいない」と長谷部恭男東大教授(現早稲田大大学院教授、憲法学)は言う。
違憲とされる判決を持ち出して憲法解釈の変更をしようというのだから、アクロバティックな論理というしかない。

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2014年4月15日 (火)

記憶のメカニズム/知的生産の方法(87)

記憶とは不思議なもので、思い出そうと一生懸命になると消えてしまい、ふと何かの拍子に思い出す。
人の名前などは典型で、顔はくっきりとしたイメージを描いているにも関わらず、名前がどうしても出てこないことがある。
そういったことは、加齢とともに増えていくようで、同世代の人間同士の会話では、「アレ何て人だっけ?」、などというのが常態である。
記憶に脳の海馬という組織が関係していることは良く知られている。
中原清一郎『カノン』は、この海馬を入れ換える手術が、近未来において実施されるという想定である。
⇒2014年2月15日 (土):記憶とアイデンティティ/知的生産の方法(80)
⇒2014年2月16日 (日):記憶とアイデンティティ②/知的生産の方法(81)

海馬を入れ換える、すなわち脳間移植をするとどうなるか?
移植する人間をAaとBbで表す。
大文字のA、Bは、AとBという2人の人間の海馬以外の部位の総体を表し、小文字のa、bは2人の海馬を表すものとする。
手術後には、AbとBaという2人が誕生し、AaとBbは消滅する。

小説の設定では、Aaは氷坂歌音(カノン)という32歳の女性であり、Bbは寒河江北斗という58歳の男性である。
手術をして誕生したAbは、歌音の身体と北斗の海馬、Baは北斗の身体と歌音のかいばである。
小説では、身体が覚えている記憶についても触れられているが、優越的なのは海馬に蓄えられている記憶である。

ところで、記憶研究は、現在進行中のホットな領域であるが、井ノ口馨 記憶をコントロールする-分子脳科学の挑戦』岩波科学ライブラリー(2013年5月)を見てみよう。
井ノ口氏は分子生物学の立場から脳科学に取り組んでいる人である。
 井ノ口氏によれば、生命科学には「氏の生命科学」と「育ちの生命科学」の2つの潮流がある。
前者は遺伝的な現象を中心とする20世紀の生命科学である。
1953年のワトソン&クリックによるDNAの二重らせん構造の発見がその金字塔である。

一方、後者は、生き物が経験や環境によってどう影響を受けるかを追究する21世紀の生命科学である。
その中心は脳科学であるが、DNAの二重らせんあるいは物理学におけるニュートンの運動法則のような基本原理は未解明である。
「Decade of the brain.」という言葉があるそうである。
「脳の10年」、1990年代のことであり、脳科学が急速に発展した時期である。

著者は、その10年が始まる直前に、分子生物学に基礎を置いた細部の研究から脳科学の分野に転身した。
私が特に興味を持って読んだのは、記憶が連合するメカニズムについてである。
記憶は一旦、海馬という部位に蓄えられ、海馬にある記憶は関係のない記憶と連合しやすい状態にある。
しかし、大脳皮質に移されて以後は、記憶は別々に収納されるので、連合しにくくなる。
海馬の記憶は活性ということだろう。
Photo_2
http://www.scj.go.jp/omoshiro/kioku3/kioku3_1.html

心的外傷後ストレス障害(PTSD)という疾患がある。
危うく死ぬまたは重症を負うような出来事の後に起こる、心に加えられた衝撃的な傷が元となる、様々なストレス障害を引き起こす疾患のことである。
新しい体験をするとその情報が脳内の海馬にある特定のシナプスに入力されるが、神経新生を促進すれば海馬から記憶が早く消えることが分かってきた。
神経新生を促進するような介入をしてあげれば、トラウマ体験そのものを消すことができなくても、PTSDの症状を和らげることができるのではないか。
つまり、海馬にある記憶が特に問題なのであって、大脳皮質に独立した記憶としてしまわれる状態に移してしまえば、PTSDの症状は軽減されるという仮説である。
臨床的にも有意なデータが得られているということだ。

あるいは、瞬間瞬間に記憶はアップデートされている。
新しく入ってきた情報が、蓄積されている記憶をアップデートするからこそ、人間は知識を形成したり概念を作ったりできる。
人間が他の動物と異なるのは、高度に知的な活動を営むことができるからである。
言語、道具、文明・文化・・・・・・

誰でも一度は、「自分は何者なのだろうか?」という疑問を持つといわれる。
私も、いつも考えているという訳ではないが、人生の岐路のような局面では考えた。
もっとも、わが人生の岐路は多過ぎるのではないか、という気もするが。
デカルトは、「我思う、ゆえに我あり」と言った。
それでは、「思う」とは、どういうことか?
脳の働きであることは分かってきたが、どう理解すれば良いのだろうか?

井ノ口氏によれば、人間の精神の営みとして、知識や概念の形成と意識という2つが特に重要である。
われわれが何かを考える時、思考のベースには過去に獲得した知識があり、それを照合しながら新しい事柄を考える。
逆に言えば、記憶がなかったりものを覚えられなかったりして知識を持つことができなければ、精神的な営みもできないということになる。
概念あるいは知識を形成するには、別個に覚えた記憶を連合することが必要である。
その連合のメカニズムを、物理科学の言葉で説明することが、記憶研究の目指す方向ということになる。

意識についてはどう考えられるか。
意識を司っているのは、額の裏側に位置する大脳皮質の前頭前野である。
意識には、今この瞬間に意識している意識と、自分の自我とか人格を形作っている意識がある。
後者は記憶そのものであるが、「今この瞬間の意識」はどう考えられるか?

意識が形成される瞬間についての実験によれば、意識する数秒前に脳の活動が変化を起こしている。
過去の瞬間瞬間に体験したことを、その瞬間瞬間に意識したことが記憶になって、現在の記憶を構築している。
瞬間の意識を脳に留めるメカニズムがあって、それが記憶の獲得(記銘)ということになる。
一方で、過去の記憶の積み重ねが現在の意識を形成しているという面があって、過去の出来事を思い出す(想起)ことが意識ともいえる。
そう考えれば、「今この瞬間の意識」というのは、超短期記憶ではないのか、というのが現在の井ノ口氏の仮説のようである。

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2014年4月14日 (月)

地域包括ケアシステムの理念と現実/ケアの諸問題(4)

わが国は世界でも例のない速度で、例のない高さへ、高齢化が進んでいる。
高齢者になれば、程度の差はあれ、誰でも身体不如意になり、介護が必要になってくる。
特に、団塊の世代が後期高齢者入りをする2025年には、介護をどうするかが深刻な課題になると予測されている。
⇒2014年2月17日 (月):「徴介護制」はあり得るか?/花づな列島復興のためのメモ(308)

社会保障との一体改革ということで受忍させられている消費税の増税も、公共事業に回される分が大きく、増収分約5兆円のうち、社会保障制度には5千億円しか充当されない見通しだ。
⇒2014年4月 5日 (土):消費税増税の趣旨と現実/アベノミクスの危うさ(30)
そして、今後のケアの方向性を決める介護確保法案が国会で審議されている。

 消費税率が8%に上がった1日、地域医療・介護確保法案が衆院本会議で審議入りした。同法案には介護分野を中心に給付減や負担増のメニューが並ぶ。民主党など野党は消費増税と合わせた「二重の負担増」に批判の矛先を向けた。
 税と社会保障の一体改革は、消費増税による増収分を「すべて社会保障の安定・充実に充てる」とした。同法案は一体改革を具現化する第1弾。それなのに介護保険のサービスカットが柱だとして、民主党の柚木道義氏は「消費税が上がったのになぜ介護は削減なのか」と安倍晋三首相に迫った。しかし、首相は「サービス抑制ありきではない」と述べるにとどめた。
 一体改革は自民、民主、公明の3党合意に基づく。ただ、同法案は一律1割の介護の自己負担割合を、年収280万円以上の人は2015年度から2割に引き上げることなどが中心で、維新を除く野党は反発。3党合意の当事者でもある民主党は1日も「我々の考えとは違う」と政府を責めた。
http://mainichi.jp/select/news/20140402k0000m010062000c.html

法案のポイントは、「地域包括ケアシステム」の構築といわれている。
「地域包括ケアシステム」とは、介護が必要になった高齢者も、住み慣れた自宅や地域で暮らし続けられるように、「医療・介護・介護予防・生活支援・住まい」の五つのサービスを、一体的に受けられる支援体制のことだ。
Photo_3
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=83200

理念は別として、現実はどうか?
地域包括ケアシステムで在宅サービスを充実させるためには、240万~250万人の介護スタッフが必要だと言われる。
現在は約150万人だとされるから、2025年までに約100万人の増加が必要ということになるが、介護職のなり手は少ない。
⇒2014年2月 6日 (木):揺れる介護福祉士養成制度/花づな列島復興のためのメモ(304)

「3K」(きつい、危険、きたない)どころか、「給料が安い、休暇が少ない、カッコ悪い」を加えた6Kと言われるのが介護の職場である。
介護の世界では、「寿退社」は男性に使われる。
介護職では家族を扶養できないからである。

地域包括ケアの核は誰が担うのか?
医療費を削減するために地域に出る患者の受け皿をどうするのか?
高齢者の入院患者を減らすというが、難民化する高齢者が増えるだけではないのか?
在宅介護を広げるために、低所得者も利用できる高齢者向け住宅の不足をどうするのか?
課題は多いが、安倍政権は例によって、丁寧な審議をないがしろにしそうである。

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2014年4月13日 (日)

利権としてのSTAP細胞/花づな列島復興のためのメモ(319)

STAP細胞(現象)について、何回か取り上げてきた。
それは、発表された内容の衝撃性と、その発表をめぐる騒動が中心であった。
⇒2014年1月30日 (木):新しい人工万能細胞/知的生産の方法(79)
⇒2014年4月 1日 (火):STAP論文の不正を理研が認定/知的生産の方法(84)
⇒2014年4月10日 (木):小保方氏の研究不正認定は冤罪か?/知的生産の方法(86)

しかし、連日のマスコミ報道によっても、肝心なことは未だ明らかになっていない。
組織としての理研が余りに性急に幕を引こうとしているように感じられること、共同著者らの肉声が聞こえてこないためではないだろうか?
ようやく小保方氏の指導者にあたる笹井芳樹氏が、来週中に会見を開く方針であるという。
笹井氏は、朝日新聞の取材に、「STAPはreal phenomenon(本物の現象)だと考えている」と、STAP現象は事実であると語ったという。

 STAP細胞論文の著者の笹井芳樹氏や小保方晴子氏らは、「STAP細胞はES(胚性幹〈はいせいかん〉)細胞が混入したものではないか」との疑念に強く反論している。
 ES細胞は、1981年に初めてマウスで作製された「万能細胞」の先駆け的存在。STAP細胞との共通点や違いを確かめる比較実験にも使われた。STAP細胞とつくり方が異なるが、見た目は電子顕微鏡で詳しく観察してもそっくりという。こうしたことが「混入説」の背景にある。
 だが、笹井氏らによると、種類の異なる万能細胞を一緒に培養しても、たんぱく質の性質が違うため均質に混ざらないという。小保方氏は9日の会見で、ES細胞は同じ研究室になかったと主張。論文の共著者でES細胞研究の第一人者の丹羽仁史氏は、マウスの実験でES細胞からはできないはずの組織ができたことを顕微鏡で見て確かめたと7日の会見で説明したhttp://www.asahi.com/articles/ASG4B5HCYG4BPLBJ003.html

これについては、理研のサイトでも、STAP細胞は、ES細胞やiPS細胞がなれなかった胎盤細胞にも分化していることが確認された、と説明がある。
⇒2014年4月 3日 (木):STAP細胞論文の検証/知的生産の方法(85)
胎盤細胞発光をどう理解するか?

共著者らの行動が制約されているのは、巨大利権が背後にあるからであろう。
中部大学教授の武田邦彦氏は、自身のブログに、STAP事件簿と題する記事を何回か掲載している。
STAP事件簿02 2013年暮れ』では、以下のような記述がある。

2013年の5月の連休もあけて、理研は第二段階に入った。
・・・・・・
とにかく「お金になる特許」と考えられるので、関係先との調整も含めて慎重に進められてきた。理研としても国庫の研究費を獲得したり、理研100年の計にも影響があるこの特許に強い関心を持っていた。
・・・・・・
現場では、まず小保方さんが毎日のようにネイチャーからくる「査読結果」に追われていた。論文を出すと数か月で最初の審査の結果が来て、普通は2か月以内ぐらいに返事を出す。
査読は、研究の筋から、文章、さらには語句の修正まで多くの指摘があり、写真などの追加、修正、説明などを求められる。
・・・・・・
そこで小保方さんは上司とも相談しながら、査読に対応していた。その間、10名ほどの実験部隊は追加データを取ったり、新しい実験に取り組んだりしていただろう。

どこまで事実を反映しているか疑問であるが、一般論として言えば当たらずとも遠からず、といった様子ではなかったか。
特許は公開するまで内容を秘密にしておかなければならないが、論文は掲載されれば直ちに詳細が分かる。
だから「論文掲載の決定」は、理研の機関決定がなされているはずであり、とすれば疑惑発覚後の理研の対応には疑問がつく。
⇒2014年3月16日 (日):STAP細胞ー成果主義と広報戦略/花づな列島復興のためのメモ(316)

私は、今までSTAPの生み出す金の問題については触れてこなかった。
武田氏のいう「お金になる特許」は、STAP細胞の研究が再生医療に関連することからすれば当然である。
私のような脳血管障害への応用はまだまだ先であろうが、iPS細胞では脳への応用研究が始まっている。
⇒2013年8月31日 (土):iPS細胞から脳を作製/闘病記・中間報告(60)

再生医療への応用は大きな利権と繋がる。
そこで、「金になる特許=利権」という補助線を引いて考えてみよう。
先ず目に入ったのが、植草一秀氏のブログである。
2014年3月16日 (日)掲載に、『STAP細胞論文共著者と株式市場を結ぶ点と線』がある。
以下要約するが、詳しくは原文にあたって欲しい。

安倍政権は、米国は対米追従路線であり、米国は日本の米国化を実現する絶好期であると捉え、安倍政権が掲げる「成長戦略」を何としても実現させようとしている。
安倍政権は6月にも「新・成長戦略」を打ち出すスケジュールを設定しているが、そのなかに、技術立国を打ち出し科学技術振興を提示する予定である。
票とカネに結び付きにくい社会保障支出を切り、票とカネに直結する利権支出に財政資金を集中投下するのだが、そのターゲットが再生医療分野である。
安倍首相は1月11日に理化学研究所・発生・再生科学総合研究センター(CDB)を訪問している。
もうひとつの重大問題は、2011年に小保方氏が執筆した「Nature Protocol 論文」と呼ばれる論文の共著者に、今回のSTAP細胞論文の共著者である大和雅之氏と同じく東京女子医大の岡野光夫教授が名を連ねていることである。
この論文が記述する”cell sheets”は上場企業である株式会社セルシード社の製品であり、著者の岡野光夫氏はこの企業の取締役であり大株主である。
この企業の株価がSTAP細胞作製報道のあった直後の1月30~31日にかけて急騰し、1月31日に第11回新株予約権(行使価額修正条項付)が大量行使・行使完了された。
1月31日に2400円をつけた株価は、3月14日には1183円に下落している。

何ともきな臭い話であるが、そういうこともあるのかと思う。
また、「ねずさんの ひとりごと」というブログでは、緊急投稿として4月10日に、『国は小保方晴子さんを護れ!』 と書いている。
要旨は以下のようであるが、これについても詳しくは原文にあたって欲しい。

いちばん肝心なことは、STAP細胞についての世界特許を持った人もしくは団体は、将来にいたるまで、数百兆円規模の巨額の利権を手に入れることができることだ。
論文に、小保方さんがSTAP細胞を作るための手段方法の全部を載せれば、あっという間に真似されて、権利も利権も全部盗られてしまうから、記載しないのは当然だ。
理研は、難癖をつけて小保方さんを利権から放逐し、その実験結果と実験ノートを手に入れることができれば、STAP細胞に関する将来の利権をすべててにすることができる。
理研には2冊のノートの提出しかないという報道があったが、逆に小保方さんが全てのノートを提出していたら、小保方さんは身を守る術はまったくなくなる。
STAP細胞利権を横取りしようとするのは理研だけでなく、世界中の人たちが狙っている。
小保方さんを、国家の力によって完全に保護し、実験をささえるべきだ。
たとえ毛筋一本でも、そのSTAP細胞に可能性があるのなら、そのためにどれだけの経費をつぎ込んでも、惜しくはない。
逆にやってはいけないことは、今の段階で、その研究者をつぶしてしまうこと。
そしてもし、日本がこの問題でSTAP細胞の開発研究を滞らせば、日本は巨額の国益を損ねる結果となる。

思考のプロセスは異なるが、「研究の可能性を大事にし、芽を摘んではいけない」という趣旨には賛成である。
また、陰謀論じみた見方もある。
アメリカにSTAP利権をあげた理研』という記事では、以下のように書かれている。

何故ブラックマスコミが小保方潰しに出たのか。
それはブラマスの親玉偽ユダヤの指令が出たからだ。
万能細胞は医・薬産業を根底から変えてしまう可能性があるのだろう。
それは保険金融産業にも壊滅的打撃を与える可能性があるだろう。
既に小保方の上司の研究者がSTAP細胞は本物と言っている。
そもそもSTAPが本物でなければ、あんな成功会見などやる訳が無い。そして、反論会見などやれるものではない。
ブラックな連中は天才一人に追い込まれた。

余りにも荒唐無稽のようだが、魑魅魍魎の活動する世界のことは、素人が詮索しても仕方がない。

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2014年4月12日 (土)

新エネルギー基本計画批判/原発事故の真相(111)

政府が、11日、「エネルギー基本計画」を閣議決定した。
かねてから、安倍政権の経産省シフトがいわれているが、それが色濃く出ている。
Photo
東京新聞4月11日

基本計画は今後20年程度にわたる中長期のエネルギー政策の指針を示すものであるが、原発を、基本的な電力供給源の役割を担う「ベースロード電源」と位置付け、使用済み核燃料を再利用する核燃料サイクルを維持する方針を打ち出している。
原発事故以前の姿勢と基本的には変わらないものであろう。

原子力規制委員会による審査が続いるところであり、どの程度の原発が再稼動するのか現時点では予想が難しいことから、将来の原発依存度や電源構成などの明示がない。
これでは全体像が見えないと言わざるをえないが、茂木敏充経済産業相は、閣議後の記者会見で、原発再稼動について「原子力規制委員会によって安全性が確認された段階で、立地自治体等、関係者の理解を得るため、事業者だけでなく国も説明する」と述べた。
しかし、客観的に見て、「立地自治体等、関係者の理解」がどの程度得られると考えているのだろうか。

計画には核燃料サイクルを従来通り推進する方針も明記されている。
核燃料サイクルは、発電しながら消費した以上の量の燃料を取り出すとされる「高速増殖炉」の実用化が中核だった。
しかし、高速増殖炉の実用化のための原型炉の「もんじゅ」は、1995年に冷却材であるナトリウム漏洩による火災事故を起こし、さらにそれが一時隠ぺいしていたことをはじめとして、2010年8月の炉内中継装置落下事故等により、2013年5月29日、原子力規制委員会は日本原子力研究開発機構に対し、原子炉等規制法に基づき、無期限の運転禁止を命じた。
核燃料サイクルは実質的に破たんしていると見るべきであるが、それは核燃料廃棄物が処理できないことを意味する。
そのことを考えてみても、原発再稼働を前提とすることは、間違いであると言わざるを得ない。

民主党前政権が掲げた、「2030年代に原発稼動ゼロが可能となるよう政策資源を総動員する」との方針は、今回の閣議決定で完全に消滅した。
福島の事故処理にかかる費用は、すでに十四兆円に膨れ上がったという試算もあるが、東電自身が、事故対応コストが私企業には負担しえないことを認めている。
⇒2014年4月 7日 (月):原発は費用莫大、だが再稼働推進?/原発事故の真相(110)
原発は、決して安くない電源なのだ。

省エネと再生可能エネルギーを増やすことにより、原発依存度を可能な限り低減させるという。
しかし、電源の構成比を明記していないので、絵に描いた餅にもなっていない。
2030年に2割という導入目標も、本文ではなく脚注に書かれている。
実行する必要のない、参考数値という位置づけだ。

福島原発事故は、原子力の平和利用という「戦後レジーム」の見直しを迫るものであった。
それは、フェルミのパラドクスをも視野に入れたものとなるであろう。
2014年1月29日 (水):「フェルミのパラドックス」と「成長の限界」/原発事故の真相(103)
持続可能な社会を構築するために、電力需給に関するパラダイム転換の時である。
多様な電力を有機的に連携させることにより、原発に頼らない生活が可能になるのではないか。    

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2014年4月11日 (金)

STAP細胞と旧石器遺跡/「同じ」と「違う」(71)

理研の調査委は、小保方晴子ユニットリーダーの研究を不正と認定した。
つまり、遺伝子の実験データ画像の一部に切り貼りがあることを「改ざん」、細胞の万能性を示す画像が博士論文からの流用であるとして「捏造」と認定した。
⇒2014年4月 1日 (火):STAP論文の不正を理研が認定/知的生産の方法(84)

小保方氏にとっては、「改ざん」や「捏造」という言葉が耐えがたいものだったのだろう。
8日に、理研に「不服申立書」を提出し、9日に弁護士と共に記者会見に応じた。
⇒2014年4月10日 (木):小保方氏の研究不正認定は冤罪か?/知的生産の方法(86)

それにしても、「捏造」という言葉の響きは強い。
研究者としての生命を断つものである。
理研の調査委の調査は、クリティカル思考の三角形からみてどうなのか。
この三角形は、マッキンゼーによって、「空・雨・傘」というフレームワークとして定式化されている。
Photo
http://redwing-don.jugem.jp/?eid=617

この図に即して言えば、調査委は、STAP論文について、「科学的手順を踏んでいない」「データの信頼性を壊した」という事実認識(空模様)から、「改ざん」「捏造」(雨)と解釈・評価し、「 研究不正だ」 (傘)と判断したと言えよう。
この「雨」を予測する判断は万全だったのか?
曇り空にしても、雨が降るのかどうか、降るとしたら小雨か大雨か?
「捏造」と断ずるにはいささか弱いように思うのは素人であるからなのであろうか?

「捏造」という言葉で連想するのは、2000年11月に発覚した旧石器遺跡捏造事件であろう。
⇒2011年7月 1日 (金):日本人のルーツと旧石器遺跡捏造事件/やまとの謎(33)
旧石器捏造事件-Wikipediaでは次のように説明している。

旧石器捏造事件(きゅうせっき ねつぞう じけん) は、考古学研究家の藤村新一が次々に発掘していた、日本の前期・中期旧石器時代の遺物や遺跡だとされていたものが、全て捏造だったと発覚した事件である。中学校・高等学校の歴史教科書はもとより大学入試にも影響が及んだ日本考古学界最大のスキャンダルとされ、2000年11月5日の毎日新聞朝刊で報じられたスクープによって発覚した。
火山灰層の年代にのみ頼りがちであったことなど、日本の旧石器研究の未熟さが露呈された事件であった。縄文時代以降では、明確な遺構が地下を掘削して造られており、土の性格から直ちに真偽が判断可能なため、捏造は不可能である。

小保方氏は、藤村新一と同じなのかどうか?
STAP現象の存在は、小保方氏をはじめとする著者らが証明責任を負うが、研究不正の認定は理研側に証明責任がある。

旧石器遺跡捏造の発覚当時、刊行が始まったばかりの講談社版『日本の歴史』の第1巻が、岡村道雄『縄文の生活誌/旧石器時代から縄文時代』(2000年10月24日)であった。
岡村氏は、1976年に、大陸と陸続きだった日本列島に前期旧石器の遺跡が存在するという仮説を発表した日本の旧石器研究の第一人者であった。
だからこそ、
「常識を覆す新しい日本像」の提示を目指すという野心的な全集の第1巻という重要な位置づけを持つ書の執筆者に起用されたのであろう。

しかし、藤村新一の「捏造」が発覚したことにより、刊行したばかりであった『縄文の生活誌/旧石器時代から縄文時代』は、全体にわたって書き直しを余儀なくされた。
藤村新一の動機は「心の闇」であるが、彼の発掘の「成果」が岡村氏の仮説に沿うものであったことは間違いない。
STAP細胞についても、共著者の1人である笹井芳樹副センター長は、京都大学医学部の史上最年少教授を務めた経歴の大物である。
小保方氏が自ら認めているような不適切な論文の記述に、笹井氏らの業績に沿う形にまとめたい、という心のベクトルが働いていたのではないか?

現時点では、不正なのか不適切なのか、不明である。
小保方氏は、不適切ではあっても不正ではないと主張し、調査委は、(科学論文としては)不適切=不正と主張しているようである。
私は、不適切と不正の切り分けをすべし、という福岡伸一氏の意見に同感である。

 STAP細胞の実在性に著者らがなお信念をもっているのであれば、論文を撤回するのではなく、訂正や続報で対応すべきだ。撤回すれば、故意のデータ操作や捏造(ねつぞう)などの不正があったと世界はみなすだろう。
 不適切と不正の切り分け。つまりどこまでが過失で、どこからが作為なのか。こうした点が明確にならないと、科学界に広がった多大な混乱と浪費は回収できない。著者や理研はきちんと説明してほしい。
 さらに言えば、問われるべきは個人の資質や共著者の責任だけではない。多くのメディアは当初、ネイチャー誌やハーバード大といった権威をうのみにし、若き理系女子の偉業を翼賛称揚する一方、疑義が出てくると一転、手のひらを返した。研究内容を冷静に解読する自律性がなかった。
 また、若手を重要な地位に抜擢(ばってき)するのは推進されるべきだが、研究者の基本姿勢や倫理観を育てる科学教育のあり方は十分だったのかなど、論点は限りなくあるように思える。
STAP論文、過失と作為の切り分け明確に 福岡伸一氏

理研は、研究不正の再発を防止するため改革委員会を設置した。
委員長には、岸輝雄・新構造材料技術研究組合理事長が選任された。
岸委員長は次のように語っている。

 会見した岸委員長は「日本の科学技術をどう振興していくかが大きな目的。理研が倫理でも世界を先導してほしい」とした上で、理研の組織構造について「若手研究者が力を発揮するようになっているが、そこに問題がないか検証する必要がある」と述べた。
 必要があれば、不正認定を受けた小保方晴子氏に意見を聞く可能性もあるという。
STAP論文 1、2カ月後に結論 理研改革委が初会合

改革委の結論を待つべきであろうが、岸委員長の言葉の中に気になることがある。
「若手研究者が力を発揮するようになっているが、そこに問題がないか検証する必要がある」ということであるが、若手研究者が力を発揮することを損なうようなことであっては問題であろう。
余り作法のことをうるさく言うと、いわゆるベンチャー精神がいつまで経っても育たないことにならないか。
科学のテーゼは基本的にすべて仮説であり、時間が仮説を絞っていく。
と考えれば、不正は時が淘汰するはずと達観するという立場もあるのではないだろうか?

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2014年4月10日 (木)

小保方氏の研究不正認定は冤罪か?/知的生産の方法(86)

9日午後、STAP論文について、研究不正を認定された小保方晴子氏が記者会見した。
理化学研究所の調査委が、ネイチャー掲載論文に不正があったと、「改ざん」や「捏造」という強い言葉で認定したことに対して、不服申し立てをしたことの説明である。
⇒2014年4月 1日 (火):STAP論文の不正を理研が認定/知的生産の方法(84)
Ws000002
東京新聞4月10日

調査委の結論の要旨は、以下のようであった。
Ws000001
http://mainichi.jp/select/news/20140401k0000e040205000c.html

小保方氏の見解と理研の調査委員会の見解とは両立はしない。
争点は以下のように整理されている。
Ws000003
東京新聞4月10日

私は、「疑惑」と言われているものを、次の2つに分けて考えるべきだろうとした。
 A 研究成果の真実性の問題
 B 論文などにおける表現の問題
⇒2014年3月13日 (木):STAP細胞に関する過熱報道/花づな列島復興のためのメモ(315)

上記のうち、「B」については小保方氏自身も認めており、記者会見でもなんども「自分の未熟性が原因で多くの人に迷惑をかけた」と謝罪している。
一方、「A」については、「STAP細胞は200回以上作製に成功している」と述べ、STAP細胞は存在するとして論文を撤回しない考えを改めて示した。
何やら、異端審問で、「それでも地球は動く」と言ったというガリレオ・ガリレイを連想させるようでもある。

ここで、科学に限らないが、論証の問題について考えてみよう。
一般に、論理的な主張は以下のような構造を持つ。
つまり、クリティカル思考でいわれる三角形の構造である。
Ws000003
http://www.bzcom.jp/category_1/item_93_2.html

製薬会社ノバルティスファーマが販売する降圧剤ディオバン(一般名・バルサルタン)については、臨床研究データに人為的な操作がなされていたということである。
データ「改ざん」の典型例であろう。
⇒2013年7月12日 (金):治験とクリティカル思考/知的生産の方法(69)

この構造でいえば、小保方氏の主張は、「結論」は間違っていないが、「根拠」の部分に不手際・不適切があったことは認める、ということであろう。
理研調査委は、その不手際・不適切を研究不正と認定したのであり、「結論」自体は調査委のミッション外として、触れなかった。
したがって、小保方氏と理研は、「研究不正」の当否を争う構図となっている。

そのポイントは、どうやら「悪意」の有無ということのようである。
理研の規定によると、「悪意のない間違い」は不正に含まないとされており、小保方氏はこれを根拠に、不正ではないとの主張を申立書で展開した。
一方、調査委は、STAP細胞がさまざまな細胞に分化する万能性を持つことを示す重要な画像が、小保方氏の博士論文に関連する別の実験画像から流用された点について「条件が違う画像を使うこと自体、単純な間違いとは理解しがたい」と悪意を認定、捏造(ねつぞう)と断じた。

悪意」について、Wikipediaは以下のように説明している。

法律用語としての悪意は、ある事実について知っていることをいう。これに対して、ある事実について知らないことは善意という。この用法における善意・悪意は道徳的価値判断とは無関係である。例外的に、770条第1項、814条が離婚、離縁の原因として規定する「悪意の遺棄」の「悪意」は、他人を害する意思の意味であるとされる。また、疑っていることを「悪意」とし、信じていることを「善意」とする場合もある。

いささか曖昧な概念であり、個人の認識の問題と考えれば、その立証は一般的に難しいであろう。
という点からすれば、理研調査委は慎重に結論を出すべきだったように思う。
実際に、小保方氏は、錯誤(不手際・不適切)があったとしてもそれは勘違いすなわち過失であって、故意にやったわけではない、と主張している。
一方、調査委は、単純な間違いとは考えられず、悪意を推認したということであるが、悪意の有無であれば水掛け論になる可能性がある。
科学的主張に関しては、小保方氏に挙証責任があるだろうが、研究不正で懲戒を受けるということになると、懲戒する側に挙証責任が生ずるのではないか。

共同研究者と言われる人たちの考えはどうか?
Ws000000
http://mainichi.jp/shimen/news/20140410ddm002040173000c.html

「結論」の検証を除外した理研の立場は、論証の根拠が曖昧なものに科学的な価値はない、ということであろう。
それは尤もだとは思うが、再生医療に期待する立場からすれば、何よりも「結論」ということになる。
世の中には、メカニズムが明らかになっていないが、現象として有効な治療薬(法)があるのは事実である。

現在は、理研が研究不正の認定について再調査するかどうかが問題である。
再調査しないということは、これだけ社会的騒動になっている以上難しいのではないか?
しかし、再調査するとしても、調査委のミッションやメンバーについて、両者がすんなりと納得するであろうか?
いずれにせよ、両者(特に理研)は大きなダメージを受けることが避けられまい。
しかし、そのことによって、科学技術に対する予算を削減するなどがあってはさらにマイナスであろう。

なお、「悪意」の有無について、次のような意見もある。

 愛知淑徳大の山崎茂明教授(研究発表倫理)は「科学の不正を監視する米研究公正局は、誠実な誤りでないものを不正と定義しており、悪意の有無は問題にしていない。悪意がない間違いだから不正ではないという小保方氏の主張は、国際的には全く通用しない」と話している。
http://sankei.jp.msn.com/science/news/140408/scn14040822020001-n1.htm

しかし、誠実であるか否かというのも、悪意の有無と同じくらい立証することが難しいのではないか?
私たちが知りたいのは、STAP現象が再現性があるのかどうかということである。
識者は、税金を使ってその検証をするのはムダともいうが、私はそこに注力していただきたいと考える。
笹井氏、丹羽氏は、STAP現象は存在するという見解は撤回していないように理解できるのではなかろうか。

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2014年4月 9日 (水)

西殿塚古墳の被葬者は誰か?/やまとの謎(93)

天理市南部に広がる大和古墳群の中山支群中でも最大の大きさを誇る西殿塚古墳の墳丘に、巨大な石積み方形壇が築かれていたことが分かった。
Photo
静岡新聞4月9日

西殿塚古墳は、延喜式で山辺郡にあったとされる手白香皇女衾田陵の位置にあたる。
宮内庁により手白香皇女衾田陵に治定されているが、被葬者をめぐって、いくつかの説がある。
衾田陵と捉えずに別の被葬者を推定する試みとしては、崇神陵の陵守が衾田陵を合わせて守っていたという記録から、この西殿塚古墳こそが崇神天皇陵であったという解釈がある。
また、箸墓古墳の被葬者を卑弥呼と考えれば、それに続く大王とみる説もある。
この立場からは、台与(もしくは壱与)が有力視されている。

同古墳は、2012年に盗掘されたという経緯がある。
しかし、盗掘が軽微で実質的な被害は小さいということで、起訴猶予になっている。
そのため、動機等については未詳である。

宮内庁は、陵墓については立ち入りを制限しているが、書陵部が調査していた。
同部によれば、西殿塚古墳前方部の方形壇は一辺22メートル、高さ2.2メートル。中央部が東西2メートル、南北1メートルにわたって盗掘され、墳丘を覆う葺(ふき)石と似たこぶし大から人頭大の石が大量に見つかった。
さらに下にも石が続いており、壇全体が石積みだった可能性が高いという。
方形壇はほかの古墳にもあるが、大半が土壇で、石積みはほとんど例がない。
Ws000000
静岡新聞4月9日

手白香皇女の衾田陵に治定されたのは明治9年のことである。
しかしその根拠は曖昧である。
男大迹王が北陸三国の地から迎えられて継体天皇として即位し、第24代仁賢天皇の娘・手白香皇女を皇后4世紀前半とされるこの古墳の被葬者の可能性はないと見るべきであろう。
ちなみに、古墳の規模と年代は次のように整理されている。
Photo
瀧音能之監修『完全図解 日本の古代史 (別冊宝島2108)』宝島社(2014年1月)

西殿塚古墳が、巨大古墳時代の先駆け的位置にある。
今回の知見が被葬者の特定にどう影響するのであろうか?

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2014年4月 8日 (火)

ロシアのクリミヤ併合と国際社会の枠組み/世界史の動向(11)

ロシアがクリミヤ半島を併合した。
日米欧の先進7カ国はロシアのG8会合へのロシアの参加停止を決めた。
⇒2014年3月18日 (火):クリミヤはどうなるか?/世界史の動向(10)

この動きは、いわゆる「オレンジ革命」に始まる。
「オレンジ革命」とは、2004年ウクライナ大統領選挙の結果に対しての抗議運動と、それに関する政治運動などの一連の事件のことを言い、選挙結果に対して抗議運動を行った野党支持者がオレンジをシンボルカラーとして、リボン、旗、マフラーなどオレンジ色の物を使用したことからオレンジ革命と呼ばれる。
この事件は、ヨーロッパとロシアに挟まれたウクライナが将来的な選択として、ヨーロッパ連合の枠組みの中に加わるのか、それともエネルギーで依存しているロシアとの関係を重要視するのかと言う二者択一を迫られていることを示した事件である。
Photo_4
東京新聞4月7日

ヨーロッパとロシアの狭間にあって、ウクライナの地政学的位置は重要である。
米ソという超大国による東西冷戦時代のヨーロッパの情勢は以下のようであった。
すなわち、西欧諸国はNATOの枠組みによって米国の強い影響下に置かれた。
一方、対抗してソ連を中心としたワルシャワ条約機構が作られた。Photo
北大西洋条約機構-Wikipedia

ソ連崩壊により、ソ連の影響圏に置かれていた東欧諸国が相次いでNATO加盟を申請し、西側の勝利に終わった。
旧東側諸国の多くがソ連に代わる自国の安全保障政策としてNATO加盟を希望する一方、拡大に警戒心を持つロシアはその動きを牽制した。
結果的に、旧ワルシャワ条約機構加盟国としては、バルト三国を除く旧ソ連各国(ロシア・ベラルーシ・ウクライナ・モルドバ)を残し、他はすべて西欧圏に引き込まれた。
Nato001
東京新聞4月7日

このように、東西の要衝がウクライナの宿命である。
しかも、3大原発事故のチェルノブイリは、ウクライナ領である。
Ws000000

私は武力を背景に国境線を変更することに、つまりロシアのやり方に反対である。
しかし、住民の自主性(住民投票の結果)か圧力かの判断は微妙であることも事実である。
各国の反応はどうか?

中国外務省の洪磊報道官は19日の定例会見で、ロシアがクリミア自治共和国の併合を決めたことについて、「中国は一貫して各国の主権と領土保全を尊重する。法律と秩序の枠組みのなかで、政治的に解決すべきだ」と述べた。その上で、「各国は冷静さを保ち、対立を激化させる行動は避けるべきだ」とし、対露制裁を実施した欧米諸国を暗に批判した。
・・・・・・
ロシアのプーチン大統領は18日、インドのシン首相に電話し、クリミア自治共和国の併合決定について説明した。インド外務省によると、シン首相は、ウクライナ情勢の現状を説明したプーチン氏に謝意を伝えるとともに、「すべての当事者の抑制した行動と建設的な協力」を促すことでインドの中立的立場を伝えた。
http://sankei.jp.msn.com/world/news/140319/chn14031922280004-n2.htm

中国とインドは、いわゆるBRICsの仲間である。
現在の発展途上国の中で、21世紀に大きな経済成長が見込まれるブラジル・ロシア・インド・中国の4カ国を指す。
以下のような共通性がある。
・国土が広大で、天然資源が豊富である
・人口が多く、若い労働力が豊富にある
・労働力単価が安く、低コストで製品を生産できる
・人口が多いので、市場としても有望である

ロシアのクリミヤ併合に対する立場は、新たな国際秩序をどう考えるかを映す鏡でもある。
超大国・アメリカの1強時代が終焉したことは間違いないだろうが、世界は無極化時代ということになるのだろうか?

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2014年4月 7日 (月)

原発は費用莫大、だが再稼働推進?/原発事故の真相(110)

自民党と公明党は3日、中長期のエネルギー基本計画で合意した。
その中で、原子力発電が重要電源と位置づけられ、与党が原発維持でまとまったことで、再稼働へ向けた環境が整ったとされる。
Photo
東京新聞4月7日

福島の原発事故はどう位置づけられているか?

3日、自民・公明両党は政府が策定中しているエネルギー政策の指針となる「エネルギー基本計画」案を了承した。しかし、2月に決定された原案では冒頭の部分で示された東京電力福島第1原発事故への「深い反省」や「安全神話」への警鐘などの文言を削除したことが注目を集めている。
・・・・・・
削除される文言は、当初「エネルギー基本計画」の序文に入れられていた「政府および原子力事業者は、いわゆる『安全神話』に陥り」といった指摘や、事故に対する「深い反省を一時たりとも放念してはならない」などといった文言。また、冒頭はエネルギー基本計画の一般的な説明文へと大幅に差し替えられ、一部の議員はこれらの変更に強く反対している。
しかし、政府は来週にも基本計画の閣議決定を進める見通しとなっており、福島第一原発の事故から3年が経過し、日本のエネルギー政策は再び「脱原発」の路線からは遠ざかることとなる。
http://newclassic.jp/archives/11438

福島原発事故絡みの集団訴訟は、17の地裁・地域支部で提訴されており、原告は約6,800人に上るという。
その1つに、「生業(なりわい)を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟がある。
その第5回目の期日が、3月25日に行われた。
双方の主張と今後の裁判の進め方について、書面又は口頭で下記のようなやりとりがあった。

 東京電力は、次の重大な2つの主張を行っています。1つめは、「20msv以下であれば健康影響は問題ない」、2つめは、「仮に裁判で除染の義務が認められたとしても、多額の費用がかかり一企業としては負担が重すぎるので、原告の請求は認められない」というものです。
http://www.nariwaisoshou.jp/progress/2014year/entry-332.html

国は、認否を明らかにしなかったが、原告は、福島第一原発事故が発生した原因や、国がどのような責任を負うかについて詳細に主張しており、原告が求釈明を行った点については明らかにすべきである。
しかし、東電の主張は驚くべきものであり、原発の実態が図らずも浮き彫りになっているように思われる。

第一の健康影響の問題について、20msvの放射線量より、運動不足、肥満や野菜不足の方が健康に悪影響であると述べている。
運動不足や肥満や野菜不足は健康に悪いだろうが、あくまで個人的な問題である。
事故で飛散した放射能と対比させるべきようなことではないことは、論理の初歩であろう。

第二の、費用の問題は、東電自身が事故対応コストが私企業には負担しえないことを認めたものであって、事故対応コストを算入しない原発の発電コストが安い、としてきた政府・与党の立場を崩すものである。
脱原発の方向性を東電自ら示しているものと理解する。

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2014年4月 6日 (日)

平均寿命の延伸と高齢化社会/ケアの諸問題(3)

竹村公太郎『日本史の謎は「地形」で解ける【文明・文化篇】PHP文庫(2014年2月)は、日本史の謎のいくつかに、「地形」と「気象」をキーワードとして解明を図った興味深い書である。
私は、『日本文明の謎を解く―21世紀を考えるヒント』清流出版(2003年12月)以来のファンであるが、国土交通省(旧建設省)のキャリアも、これくらい柔軟な人が揃っていれば、現在のような「公共事業=悪玉論」という図式にはならなかったのではないかと思われる。

日本史の謎は「地形」で解ける【文明・文化篇】』 の中で、大正10(1921)年に日本人の平均寿命が急激に伸びたことがデータと共に書かれている。
それは、竹村氏の推理によれば、東京の水道に塩素殺菌が導入されたからである。
それまで水道水は殺菌されていない水を配水していたから、病原菌の感染ルートにもなり得た。
文明の装置が、場合によっては凶器にもなったのである。
塩素殺菌によって、乳児死亡率が急減した。

大正10年に塩素殺菌が行われるようになったのはシベリア出兵と関係がある。
化学兵器として開発された液体塩素が、シベリア撤兵で用途開発が必要になり、水道の殺菌用に用いられた。
時の東京市長は、後藤新平であるが、じつは後藤は細菌学の草分けでもあった。

平均寿命は、国力なのか幸福度なのかは別として、その国の総合的なバロメーターであろう。
そして、長寿化すれば、必然的に高齢者が増える。
わが国の高齢化が、比類ないような速度で進んでいると言われている。
人口構成の推移は下図のように推測されている。20140331_112718
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/09/dl/s0927-8e.pdf

日本社会の年齢構成において問題となるのが、「団塊の世代」の存在である。
「団塊の世代」とは、堺屋太一氏のネーミングで、第二次世界大戦直後に生まれた人たちである。
前後の世代に比べて人口が突出しているため、学校教育において、あるいは社会に出てから、さまざまな問題を提起してきた。
私は、彼らのすぐ上であるが、彼らの振る舞いには違和感を覚えることが多かった。

2007年から彼らは定年退職期に入ることから、「2007年問題」が話題になったことがある。
2006年4月に「改正高齢者雇用安定法」が成立し、多くの企業が継続雇用制度を導入したことから、団塊の世代の多くは継続雇用されて、「2007年問題」は深刻化しないで過ぎた。

また、2015年には、高齢者(65歳)となり、さらに10年後の2025年には後期高齢者入りすることになる。
高齢者を前期と後期に区分けしているのは、平均的な健康状態にかなりの差があるからである。
要介護認定は、前期高齢者が4%であるのに対し、後期高齢者では29%に上がる。
つまり、2025年になると要介護人口が急激に増えるであろうことが予想される。
⇒2014年2月17日 (月):「徴介護制」はあり得るか?/花づな列島復興のためのメモ(308)

わが国の高齢化率は、1935年にはわずかに4.7%であった。
しかし、出生率の低下と死亡率の改善により、急速に高齢化が進み、世界的にも経験したことのないような速度で、極めて高い高齢化水準に到達した。
2012年における日本人の平均寿命は、女性86.41歳、男性79.94歳で、女性は世界一、男性は世界5位の長寿国である。
平均寿命は、年齢別の推計人口と死亡率のデータを用いて、各年齢ごとの死亡率を算出して、平均して何歳までに寿命を迎えるかを算出する。

日本人の平均寿命の推移は、以下のようなグラフで示される。
20140331_172218
http://www.garbagenews.net/archives/1892906.html

信長は、桶狭間の戦いを前にして、「人生五十年、下天のうちを比べれば、夢幻のごとくなり」と舞ったというが、男性の平均寿命が50歳を超えたのは、第二次世界大戦終了後のことである。
今日、「孫の力」が喧伝されているが、孫の顔を見ることができる現代人は、歴史的に希有の時代を生きていることになる。

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2014年4月 5日 (土)

消費税増税の趣旨と現実/アベノミクスの危うさ(30)

消費税が8%に上がった。
当面欲しいと切望するような高額商品はなかったので、駆け込みで買い物をすることもなかった。
しかし、どうせ使うものだから、と前倒しで購入した人も多いのではないか。
JRのみどりの窓口も、3月末は定期券購入者で、いつにない長蛇の列ができていた(似たような光景を借用します)。
Photo_2
定期券の購入に並ぶ人(四街道駅)

少なくとも、前倒しした分は需要が先取りされているわけだし、年金生活者は需要自体を縮小せざるを得ないので、まあ景気はその分は冷えるだろう。
対策として、税金を投入するというが、本末転倒のような気がする。

「増税分は社会保障に充当する」というのが消費増税の大義であった。
法律の名称は、「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律」である。
同法では、趣旨を次のように規定している。
Ws000002
官報

不鮮明であることを別としても、文章が分かりづらい。
要するに以下のようである。
Ws000001
東京新聞4月1日

消費税増税による2014年度の税収増は約5兆円の見込みと言われている。
社会保障の増分は約5千億円である。
しかし、景気の下支えをするという公共事業費の増分は約6兆円である。
もちろん、公共事業によるインフラ整備は重要であるし、公共事業費も循環して経済を潤すであろう。
しかし、法律の趣旨と違うのは明らかである。
これを欺瞞と言わずして・・・・・・

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2014年4月 4日 (金)

渡辺喜美と猪瀬直樹/「同じ」と「違う」(70)

デジャヴどころか、うんざりするといった方が適切だろう。
みんなの党の渡辺喜美代表が大手化粧品会社の社長から8億円を借りたとされる問題が報道されている。
東京都知事だった猪瀬直樹氏が辞任して都知事選をやったのは、ついこの間の話である。
DHCという会社は、もともと大学翻訳センターという会社だったが、健康食品や化粧品を取り扱って業容を拡大した。
DHC-Wikipediaによれば以下のような会社である。
Ws000001

営業利益144億円という優良会社で、非上場ということだから、代表者の懐はさぞ暖かいことだろう。
渡辺氏は、「あくまで個人として借りた」と釈明しているが、時期的に選挙資金と考えるのが常識というものだろう。
猪瀬氏は、最近になって「政治資金と見られても仕方がない」というような弁明をしているようだが、渡辺氏と猪瀬氏を比較した表があった。
Ws000000
http://digital.asahi.com/articles/photo/AS20140402004753.html

まあ、見方にもよるのであろうが、「授受の方法」と金額が異なる以外は、同じようなものではなかろうか。
渡辺氏も、「私の借り入れは通帳から通帳にきており、ゲンナマ(現金)ではない。通帳をトレース(追跡)すれば、ほとんど明らかになる」とし、「裏金ではない」と強調したが、問題は「趣旨と使途」である。

渡辺氏は使途について聞かれ、「いろいろな会議費、交際費、旅費」などに使ったと釈明した。
「いろいろな」ということでは説明になっていない。
さらに具体的な使途について聞かれ、「酉の市の熊手」を挙げ、「政治資金ってわけにはいきませんからね」と答えていた。
失笑ものであるが、ジョークのつもりだったのだろうか?

ところが、元検事の郷原信郎弁護士は、以下にように言う。

「選挙運動費用収支報告書の記載義務」は、特定の選挙における「公職の候補者」などにつて、一つひとつ別個に発生する。渡辺代表が、2010年の参議院選挙、2012年の衆議院選挙の「選挙資金」という趣旨で、吉田氏から提供を受けたとしても、それが、それぞれの国政選挙での「みんなの党」の選挙資金として、漠然と認識されていただけでは、具体的にどの「公職の候補者」に選挙運動費用収支報告書の記載義務が生じるのかがわからない。
渡辺喜美代表への資金提供問題、誰のどの選挙の資金なのか

上記の結論として、以下のように述べる。

現在、報道されている事実関係を前提にすると、今回の吉田氏から渡辺代表に対する巨額の選挙資金提供の事実については、政治的、道義的責任は別として、違法行為・犯罪として立件するのは相当困難だろうというのが率直な印象である。

かねてから郷原氏の見解を信頼してきたが、これは市民感覚とは乖離しているのではなかろうか。
一方、元大阪高等検察庁公安部長の三井環氏の見解は次のようである。

元検察幹部で、現在は社会の不正を追及する市民団体「市民連帯の会」を主宰する三井氏も「(徳洲会グループから5000万円を受け取り、公選法違反罪で略式起訴となった)猪瀬氏のケースと非常に似ている」といい、こう続けた。
 「猪瀬氏より金額が多い分、悪質ともいえる。借り入れが選挙や政治活動に使われたと証明されれば、公選法違反か政治資金規正法違反に問われる。今回の場合、資金を提供した吉田会長が『選挙資金』と認めているため、証拠固めはしやすい。立件までのハードルはそれほど高くない。逮捕もあり得る」
渡辺喜美氏、逮捕も 元大阪高検公安部長が激白「猪瀬氏より悪質」

さすがにみんなの党の内部から代表辞任要求が出てきたようだ。
こんごどう展開していくかは分からないが、野党がこんなことでは安倍自民党はますます調子にのってしまうだろう。

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2014年4月 3日 (木)

STAP細胞論文の検証/知的生産の方法(85)

理研によって、STAP論文の不正が認定された。
⇒2014年4月 1日 (火):STAP論文の不正を理研が認定/知的生産の方法(84)

何となく、小保方氏の単独責任としているようで、トカゲのしっぽ切りではないかという見方をする人もいる。
理研の幕引きを図るかのような調査委の報告に納得できない思いを抱いている人は多いのではないか?
科学の信頼性に関わる問題であり、しっかりと厳正に決着をつけるべきだと思う。

「週刊文春」4月3日号の福岡伸一博士の『STAP細胞問題、「論文撤回」だけでは済ませていけない理由。』によれば、小保方氏らの実験のポイントは以下のようである。
1.細胞が初期化されると、眠っていた遺伝子のスイッチがONになる
  -iPS細胞の山中伸弥博士の研究との関連
2.遺伝子スイッチのON/OFFうを知らせる緑色の発光
  -2008年ノーベル賞下村脩博士の研究との関連
3.免疫細胞の抗体遺伝子の再編成
  -1987年のノーベル賞受賞者利根川進博士の研究との関連

あたかも日本人ノーベル賞受賞者の成果を総合するかのようである。
小保方氏らは、細胞を弱酸性溶液につけて、緑色に発光することを発見した。
つまり初期化された細胞である。
この細胞の抗体遺伝子には、再編成の痕跡があり、分化した細胞が初期化されたことを示していた。

細胞を増殖して初期胚に移植すると、その中でも増殖していく。
初期胚が分化していく様子も緑色の発光で確認できるので、外来細胞がどの臓器、どの組織になるかを追跡できる。
STAP細胞は、ES細胞やiPS細胞がなれなかった胎盤細胞にも分化していることが確認された。
この最終的な成果は、理研のサイトに次図のように説明されている。

Stap
胚盤胞に注入されたSTAP細胞は、キメラマウスの胎仔部分のみならず、胎盤や卵黄膜などにも分化していることが分かった。
http://www.riken.jp/pr/press/2014/20140130_1/

ところが 「STAP細胞」の論文について、理研は「捏造」「改ざん」という厳しい言葉で、不正があったと認定した。
そして、その不正は、筆頭著者の小保方晴子ユニットリーダーが単独で行ったものとした。
小保方氏は、不服申し立てで、理研に対抗するという。

理研は、研究結果を作り上げることを「捏造」、資料を操作し本物でないものに加工することを「改ざん」と定義し、これらに該当すれば研究不正と判断される。
小保方氏は、「捏造」「改ざん」の認定に対して、異議を唱えているわけである。

調査委は、私たちの知りたい「STAP細胞は存在するのか」という疑問については、ミッション外であるとして触れていない。

実験ではリンパ球などに刺激を与えたら、多能性を示す目印である蛍光が現れたという。この現象が研究の出発点になっている。
 ただしこの蛍光は、死に際の細胞でも出ることがあり、この現象だけで万能細胞ができたとは言えない。だが理研の調査では、この点にまったく触れていない。
Stap_2
http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20140401145737190

また、上掲誌で福岡博士が、「「胎盤が光るデータ」はどのようにして得られたのだろう?」と投げかけている疑問についても触れていない。

 もう一つは「STAP細胞から光るマウスを作った」という、研究の仕上げに当たる実験にトリックがある、という疑惑だ。マウスの実験は若山照彦山梨大教授が行った。小保方晴子氏が若山教授にSTAP細胞を渡したことになっているが、実はそうではなく、マウスの個体を作ることができる何らかの細胞(胚性幹細胞=ES細胞など)だったのでは、という指摘がある。
 理研はこの点について「調査対象ではない」としている。しかし若山教授は、保存してあった細胞を外部で分析中。この細胞の調査でES細胞の混入などの事実を突きつけられる可能性もある。
Photo
http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20140401145737190

しかし、たとえES細胞が混在していたとしても、胎盤を光らせることはできないのではないか?
この写真のデータも「捏造」されたものなのだろうか?
とすれば、どうやったのか?

それにしても、小保方氏の単独の責任ということはないだろう。
小保方氏がユニットリーダーとはいえ、共著者や共同研究者になっている名だたる研究者(もちろん今回初めて知ったのであり、詳しく知っているわけではない)は、名前だけだったのだろうか?

Ws000000
http://mainichi.jp/select/news/20140402k0000m040174000c.html

名前を連ねるのも成果の分有のためだとしたら、成果主義の弊害とも考えられる。
私たちには、若山照彦山梨大学教授以外は、姿が見えない。

Photo_2
http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20140315070914336

なぜ、これらの人たちが一緒に会見しないのだろうか?
実験ノートの開示をすれば、研究者ならずとも当否の判断がつくのではないか?
理研としては実験ノートも含め、一切をオープンにすべきではないか?

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2014年4月 2日 (水)

ニホンザルのボス選出の投票行動/進化・発達の謎(3)

ニホンザルが社会を構成していることは良く知られている。
ボスに選ばれたサルが、群れを統治しており、ボスは何年かで交代する。
私は、学生時代に藤田信勝『学者の森・下』毎日新聞社(1963年10月)に収録されている「社会と文化の起源を探る」によって、この分野の研究のことを知った。

半世紀も前のことであるが、『学者の森』は、大学に入りたての若者にとって、ワクワクするような分野が紹介されており、「社会と文化の起源を探る」はそのようなものの1つであった。
「社会と文化の起源を探る」は、今西錦司氏を始祖とする京都大学霊長類研究グループを対象としていた。
幸島の野生サル、高崎山の大きな群れ等のフィールドに取り組む川村俊蔵氏や伊谷純一郎などの姿勢に驚嘆しつつ、大きなシンパシーを感じた。
特に、サルの個体識別という方法論に、日本人研究者らしさを見たような記憶がある。

好奇心を刺激されたのは、私だけではない。
この書が契機だったかどうかは分からないが、私と教養部時代に同じクラスだった掛谷誠氏は、工学部電気工学科に入学したが、理学部に転部し、生態人類学の研究者になった。
同氏は、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科教授を経て、現名誉教授である。
理工系ブームだったこともあり、一度は工学部に入ったものの、他学部へ移ってその分野の第一人者になった人には、たとえば高校時代の友人でガンダーラ美術の研究者になった宮治昭前龍谷ミュージアム館長もいる。
⇒2011年11月30日 (水):龍谷ミュージアム/京都彼方此方(3)

昔のことを思い出したのは、4月1日の東京新聞「特報部」欄に、ニホンザルの驚嘆するような記事が載っていたからである。
瀬戸内海のある島に約500頭にニホンザルが生息している。
数十頭の複数の群れに分かれている。
それぞれの群れは、「ボス格の数頭のオス-サブ格のオス-メスと子ザル-若いオス」というピラミッド型の秩序がある。
ボス格の順位も決まっている。

ボスはどういう基準で選ばれるか?
直観的には、体が大きく力も強いオスが選ばれるだろう。
事実、ほとんどの群れは、そのようなオスがボスとなっている。

ところが、ある1つの群れが、奇妙な方法でボスを選ぶようになった。
サルたちが小石を1個ずつ手にして、それを複数の山として積み上げるのだ。
石の山は、数年おきに築かれるということが分かった。
Photo
東京新聞4月1日

そして、石の山が築かれると決まってボス格の交代があった。
山の数は、ボス格のオスの数に一致しており、山の高さは序列と一致していた。

この小石を積む行為は、ボスを決める投票行動だったのだ。
石の山ができる前の一定期間は、ボス格のサルは、毛繕いやえさの分与等の行動はしていないことも確認されている。
利益の供与のような行為が禁じられていると見られる。

この群れは、かつては弱小の群れだった。
ところが、この投票による選出方法でボスを決めるようになって、勢力を拡大した。
力よりも賢さが群れの消長を決めていたのだ。
何だか身につまされる話である。

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2014年4月 1日 (火)

STAP論文の不正を理研が認定/知的生産の方法(84)

まさかという思いであるが、理研の調査委がSTAP細胞のネイチャー掲載論文に不正があったと認定した。
果たして、生物学のパラダイムを書き換えるとまで期待された新たな発見は、幻だったのだろうか?Stap
静岡新聞4月1日夕刊

私は、不注意やマナー違反(すなわち過失)はあったかも知れないが、不正(すなわち故意)があったとまでは考えていなかった。
⇒2014年1月30日 (木):新しい人工万能細胞/知的生産の方法(79)
であるから、科学技術立国の好例になると考えた。
⇒2014年2月 1日 (土):官製成長戦略でイノベーションは起きるか/アベノミクスの危うさ(26)

そして、過失があったとすれば、環境にも問題があるのではないかと考えた。
⇒2014年3月16日 (日):STAP細胞ー成果主義と広報戦略/花づな列島復興のためのメモ(316)
そして、加熱する報道には違和感を覚えた。
⇒2014年3月13日 (木):STAP細胞に関する過熱報道/花づな列島復興のためのメモ(315)

さらに、過失は、しばしば技術進歩がもたらす利便性と対になっているのではないかと思った。
⇒2014年3月17日 (月):コピー&ペーストの功罪/知的生産の方法(82)

しかし、もし故意だとすれば話は変わってくる。
理研の調査委の結論の趣旨は以下のようである。
Ws000001
http://mainichi.jp/select/news/20140401k0000e040205000c.html

「改ざん」や「捏造」というのは強い言葉である。
しかし、小保方さんは理研に対して異議を申し立てるようである。

研究不正と認定された2点については、理化学研究所の規程で「研究不正」の対象外となる「悪意のない間違い」であるにもかかわらず、改ざん、ねつ造と決めつけられたことは、とても承服できません。近日中に、理化学研究所に不服申立をします。
 このままでは、あたかもSTAP細胞の発見自体がねつ造であると誤解されかねず、到底容認できません。(1−2) レーン3の挿入について
 Figure1i から得られる結果は、元データをそのまま掲載した場合に得られる結果と何も変わりません。そもそも、改ざんをするメリットは何もなく、改ざんの意図を持って、Figure1i を作成する必要は全くありませんでした。見やすい写真を示したいという考えから Figure1i を掲載したにすぎません。
(1−5) 画像取り違えについて
 私は、論文1に掲載した画像が、酸処理による実験で得られた真正な画像であると認識して掲載したもので,単純なミスであり、不正の目的も悪意もありませんでした。
 真正な画像データが存在していることは中間報告書でも認められています。したがって、画像データをねつ造する必要はありません。
 そもそも、この画像取り違えについては、外部から一切指摘のない時点で、私が自ら点検する中でミスを発見し、ネイチャーと調査委員会に報告したものです。
 なお、上記2点を含め、論文中の不適切な記載と画像については、すでにすべて訂正を行い、平成26年3月9日、執筆者全員から、ネイチャーに対して訂正論文を提出しています。
http://mainichi.jp/feature/news/20140401mog00m040002000c.html

最終的な決着はついていないとみるべきであろうか?
結局は再現性がどうしても得られなかったとしたら、研究成果は非とせざるを得ないであろう。
しかし、誰か1人でも再現性を示せれば、それで「Q.E.D.=証明終わり」ということではなかろうか。

 

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