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2014年3月16日 (日)

STAP細胞ー成果主義と広報戦略/花づな列島復興のためのメモ(316)

STAP細胞の研究疑惑について、理化学研究所(理研)が記者会見を行った。
理研としての、現時点での判断は以下の通りである。

独立行政法人理化学研究所(以下「研究所」)は、発生・再生科学総合研究センター(以下「CDB」)の研究員らがNature誌に発表した2篇の研究論文に関する疑義について、様々な指摘があることを真摯に受け止め、調査委員会を設置して調査を行ってきた。
調査は、現在も継続しており、最終的な報告にはまだしばらく時間を要するが、社会的な関心が高いことを踏まえ、調査委員会が調査を行ってきた6つの項目に対し、これまでの調査で得た結論及び調査継続中の事項について、中間報告を行うものである。
具体的な内容としては、以下の点となる。
  ・2つの調査項目については、調査の結果、データの取扱いに不適切な点はあったが、研究不正には当たらないと判定したこと
  ・継続して調査が必要とした4つの項目があること
なお、現在も継続している調査については、事実関係をしっかりと把握した上で結論を導く必要があり、結論を得た時点で速やかに報告する。
研究論文(STAP細胞)の疑義に関する調査中間報告について

調査結果を図表にしているものを引用する。
Ws000001
http://www.asahi.com/articles/photo/AS20140314005012.html

記者会見には、野依良治・理事長▽川合真紀・研究担当理事▽米倉実・コンプライアンス担当理事▽竹市雅俊・発生・再生科学総合研究センター長▽石井俊輔・研究論文の疑義に関する調査委員長(理研上席研究員)が出席し、質疑応答が行われた。
主な発言を報道から抜粋する。

Q:捏造はあったのか。
石井:画像の取り違えについて虚偽説明があったか否かは、データを集めて客観的にヒアリングをしないと判定できない。既に実験ノート、作成日のデータがある画像が提出されている。これまでで完全に捏造というものはない。
Q:STAP細胞の存在について確信はあるか。
竹市:科学の世界で確信はエビデンス(証拠)に基づく。今回は確信を持つには、第三者の検証を待つしかない。
Q チェック体制の見直しを具体的に。
川合:個々の研究者の倫理観をあげていくことしかない。所属長が確認することはやっていきたいが、科学の自由を考えた場合、10人がおかしいと言っても、そこに一つの真理があるかもしれない。科学に多数決はなじまない。不注意はできる限りなくすべきだ。
Q:博士論文の画像の転用について小保方さんの説明は。
石井:だいぶ昔に、骨髄由来の血液細胞を使い、このような画像を得ていた。それを間違って使ってしまったという説明だ。
Q:中国の論文をコピーしたことについては。
石井:これは実験のメソッド(方法)の文章で一般的なもの。この点については論文の内容を借用したということではないと見ている。
Q:疑義が生じた点はどれくらいあるのか。
石井:現時点で緻密に調査項目として今日発表した六つ。
Q 論文で言及されていない写真があったり、違うメソッドがあったり、共著者が読めばわかることでは。
竹市:本来あるべきことでないことが起こった。私自身が理解しかねている。
野依:伝統的な科学研究の多くは比較的狭い分野別に行われ、単一の研究室で行われていたことが多かった。今はネットワーク型の時代、先端的な研究は分野横断的に行われることになっている。今回は一人の未熟な研究者が膨大なデータをとりまとめた。責任感に乏しく、チーム連携に不備があったと私は思っている。
Q:小保方さんは未熟と言うが、そういう人がなぜユニットリーダーになったのか。
竹市:ヘッドとなる人は公募だ。書類審査と、どんな研究をし、今後何をしようとしているかのプレゼンで決める。
Q:小保方さんは撤回提案にどう回答したのか。
竹市:心身ともにしょうすいした状態で、うなずくという感じだった。それで了承したと判断した。
Q:画像は全て小保方さんが管理し、論文でのレイアウトや採用も、小保方さんがやったと認定されているのか。
石井:小保方さんと笹井さんの共同作業と認識している。小保方さんにはネイチャーの論文を構成するのは一般的に力不足。どういう流れにするかは笹井さんがやったと思う。共同作業で図のアレンジを小保方さん、ロジックを笹井さんがやったと聞いている。
Q:切り張りについて、小保方さんは問題だと思っていなかったのか。
石井:彼女のヒアリングでは「やってはいけないという認識がなかった。申し訳ありません」という認識だった。抵抗がなかったのか、倫理観を学ぶ機会がなかったのか、私がコメントするのは適切でない。
Q:電気泳動と博士論文の画像転用について、改ざんの可能性もあるとして調査を進めるのか。
石井:改ざんに当たるのかどうか、調査の必要がある。学位論文とネイチャーでは、細胞にかけたストレスの条件が違うのに同じ画像を使っているのはおかしい。(流用の疑いとは)断言はできない。
Q:ES細胞を意図的に混入したかどうかの検証は。
石井:データだけでは検証が難しい。

私が、関心のある部分を恣意的に引用したが、全体として、最終結論は出ていないということだ。
理研の現時点での判断は、未熟で不適切ではあったが、不正とは言い切れない、ということのように、私には読める。

しかし、故意にやったのではないとしたら、余りにも大きな過失のようである。
理研もしくはわが国の科学に対する取り組みの姿勢が問われよう。
私は今回の問題の背景には、研究開発の予算獲得の問題があると思う。
⇒2013年8月 1日 (木):研究における成果主義の弊害/知的生産の方法(70)

事業仕分けにおいて、蓮舫氏がスーパーコンピュータの開発に関し、「2番ではだめなのか」と予算削減を正当化するかの如く発言したことに対し、野依理事長らの科学者から猛反発が起きたことは記憶に新しい。
⇒2009年11月30日 (月):投資と費用/「同じ」と「違う」(15)
これは、逆に言えば、仕分けをしたくなるくらい、先端的な科学研究には資金が必要ということである。

研究に必要な資金をどう確保するかは、研究マネジメントにおける大きな課題ともいえる。
資金確保のためには?
第一に、納得させうる研究成果を出し続けることだろう。
第二に、上手なプレゼンテーションを行うことであろう。

第一はともかく、第二は行き過ぎると、佐村河内と同じことになり兼ねない。
⇒2014年2月 7日 (金):佐村河内守代作問題/ブランド・企業論(18)
⇒2014年3月 7日 (金):佐村河内守の罪と罰/人間の理解(2)
割ぽう着姿の小保方さんの姿には、ちょっとそんな感じがした。

理研には広報チームもあるという。
研究室をピンクや黄色にすることや割ぽう着姿が演出だとしたら、未熟以前の問題だろう。
マーケティングにとって科学は本質だろうが、科学にとってマーケティングは本質ではない、と言えるのではないだろうか。

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