ビルマの竪琴の水島上等兵・安井昌二/追悼(48)
俳優の安井昌二(本名・四方正雄)さんが3日午前9時、急性心不全のため千葉県内の自宅で死去した。
最近は見た記憶がないが、子供の時観た映画『ビルマの竪琴』は印象に残っている。
原作は竹山道雄で、彼が唯一執筆した児童向けの作品である。
竹山道雄は、右派としての印象が強いが、『ビルマの竪琴』は旧制一高の教授として多くの教え子を戦場に送り出した体験に基づき発表したものである。
また1940年には、日独伊三国同盟締結に際して、全体主義の台頭に警鐘を鳴らした知識人である。
戦後直後から1950年代にかけては、当時の日本の社会主義賛美の風潮に抗してスターリニズムへの疑念を表明した。
『ビルマの竪琴』は、雑誌「赤とんぼ」に1947年3月から1948年2月まで掲載された。
映画化は市川崑の監督による。
1956年と1985年に2回映画化されているが、私の記憶にあるのは、1956年の方である。
以下のようなあらすじである。
1945年7月、ビルマ(現在のミャンマー)における日本軍の戦況は悪化の一途をたどっていた。
日本軍のある小隊では、音楽学校出身の隊長が隊員に合唱を教え、隊の規律を維持し、慰労し合い、団結力を高めていた。
彼ら隊員の中でも水島上等兵は特に楽才に優れ、ビルマ伝統の竪琴の演奏をよくした。
水島はビルマ人の扮装もうまく、その姿で斥候に出ては、状況を竪琴による音楽暗号で小隊に知らせていた。
やがて日本は無条件降伏し、小隊は捕虜となった。
しかし、降伏を潔しとしない小隊はいまだに戦闘を続けており、そのままでは全滅する。
日本軍を助けたい隊長は、降伏説得の使者として、竪琴を携えた水島が赴くことになる。
しかし、彼はそのまま消息を絶ってしまった。
収容所の鉄条網の中で水島の安否を気遣う隊員たちの前に、水島によく似た僧が現れる。
隊員は思わずその僧を呼び止めたが、僧は一言も返さず、逃げるように歩み去る。
やがて小隊は3日後に日本へ帰国することが決まった。
出発前日、青年僧が皆の前に姿を現した。
収容所の柵ごしに隊員達は『埴生の宿』を合唱する。
ついに青年僧はこらえ切れなくなったように竪琴を合唱に合わせてかき鳴らす。
隊員達は一緒に日本へ帰ろうと必死に呼びかけるが、彼は黙ってうなだれ、『仰げば尊し』を弾く。
「今こそ別れめ!(=今こそ(ここで)別れよう!)いざ、さらば。」と詠う別れのセレモニーのメロディーに心打たれる隊員達を後に、水島は森の中へ去って行った。
水島は、降伏を説得しに出かけた後、道々で無数の日本兵の死体を目にした。
水島は、英霊を葬らずに自分だけ帰国するわけにはいかないと、この地に留まることを決心する。
そして、水島は出家し、本物の僧侶となったのだった。
水島役を安井昌二が演じた。
他に、井上隊長役が三國連太郎、伊東軍曹役が浜村純、小林一等兵役が内藤武敏、馬場一等兵役が西村晃等のキャスティングである。
小学校の5年生の頃だから、反戦的な主張などは理解の外だったと思う。
しかし、『埴生の宿』や『仰げば尊し』のメロディが耳に残った。
水島上等兵のモデルは、ビルマで終戦を迎え、復員後僧侶になった群馬県の雲昌寺の中村一雄氏だという。
安井昌二さんは、劇団新派等で二枚目役として活躍したということだが、私は新派の舞台を見たことがない。
テレビドラマでは「銭形平次捕物控」「チャコちゃん」シリーズなどに出演したとあるが、これらの記憶もない。
水島上等兵だけで十分存在価値のある俳優だった。
合掌。
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