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2014年2月 1日 (土)

官製成長戦略でイノベーションは起きるか/アベノミクスの危うさ(26)

小保方晴子さんらによるSTAP細胞の作製は素晴らしい成果だと思う。
素人には、正確な評価はできるはずもないが、生物学のパラダイムシフトである。
⇒2014年1月30日 (木):新しい人工万能細胞/知的生産の方法(79)

報道記事を読んでいて、この人もセレンディピティの贈り物をしっかり手にしたのだなと思った。
阿刀田高『知的創造の作法』新潮新書2013年11月)には、次のような説明がある。

なにかを執拗に探し続けていると、それとは関わりなく、特別にすばらしいものを発見することがある

2000年に、「導電性高分子の発見と発展」により、ノーベル化学賞を受賞した白川英樹さんは、受賞した時「私の研究はセレンディピティなんです」と言ったという。
また2002年に、「生体高分子の同定および構造解析のための手法の開発」によってノーベル賞を受賞した田中耕一さんも、同様のことを言ったらしい

小保方さんの発見も以下のように報道されている。

 今回の研究のアイデアは、大学院博士課程時代に留学した米ハーバード大医学部の教授らとの議論を通して生まれた。体細胞を圧迫したり、穴を開けたり、栄養を与えなくしたり…。考えられる限りの刺激を細胞に与え、「偶然に」(小保方リーダー)酸性の溶液にたどり着いた。
http://www.kobe-np.co.jp/news/iryou/201401/0006671620.shtml

まあ、小保方さんの場合は、「偶然に」と言っても狙っていた的の範囲内なのだろうが、ノーベル賞クラスの大発見が往々にして「偶然に」なされたといえる。
つまり、従来のパラダイムを覆すような画期的な研究は、事前に予測することができないということだ。
イノベーションの本質ともいえよう。

安倍首相は、第186国会冒頭の施政方針演説で、「七 イノベーションによって新たな可能性を創りだす」としている。第百八十六回国会における安倍内閣総理大臣施政方針演説
また、いわゆるアベノミクスの3本の矢の3本目の「成長戦略」がこれに関連していることは当然であろう。

ところで、第185回国会においては、アベノミクスの成長戦略で日本の「新しい成長」が実現するのは、「意志の力」であるとした。
「意志の力」は不可欠だが、「意志の力」だけでは現在の困難は乗り越えられまい。
⇒2013年10月17日 (木):安倍首相は裸の王様か?/アベノミクスの危うさ(16)

「戦略」という言葉は便利ではあるが、往々にして「何を、どうやるか」ということが曖昧になりがちである。
おそらく、有望な分野を絞り込み、集中的に予算を投入する、というようなイメージであろう。
しかし、事前の予測がつかない大発見に関しては、そもそも上記のような絞込みができないだろう。

STAP細胞の可能性は大きいであろう。
小保方さんと同じ理化学研究所のスーパーコンピュータの「京」の予算が、事業仕分けの対象になったことがあった。
ある程度見通しのつけやすい分野ですらそうである。
私は、研究者の知的好奇心のままに研究を進めるのが、もっともイノベーションをもたらす道であると思う。

やはりノーベル賞受賞者の福井謙一さんは、とにかく基礎を重視した。
化学にとって基礎は物理学であり、特に量子力学である。
そしてその基礎は数学である。
しかし、数学は実用を意識しては勧められない。

海のものとか山のものとか見当がつかないような研究から、素晴らしい研究が生まれる。
決して予算獲得のプレゼンテーションの上手い・下手で予算配分を決めるようなことではならない。
戦争とは違って、イノベーションを生む戦略的ターゲットなど、プレゼンなどでは決定できないのではないか。

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