食材偽装問題とブランドの役割/ブランド・企業論(13)
去年もまた企業不祥事が数多くあった。
中でも記憶に残るのが、食材偽装であろう。
名門という評価を得ていたホテルや百貨店も、偽装を行っていたことが判明したのである。
⇒2013年10月25日 (金):阪急阪神ホテルズのメニュー偽装/ブランド・企業論(5)
⇒2013年11月 7日 (木):老舗百貨店よ、お前もか!/ブランド・企業論(8)
「ダイヤモンド・オンライン2013年12月18日」号に、 水村典弘・埼玉大学経済学部准教授の、『食材偽装問題の根っこは「ブランド乱立」にあり!-数百ページの再発防止策より大切な“シンプルルール”』 という記事が載っている。
同記事は、ダイヤモンド・オンライン編集部のインタビューをまとめたものである。
今回の偽装問題の特徴は、件は、過去における賞味期限切れ食材の提供事件や食中毒事件といった、「食の安全」を脅かす事件とは異なっている。
健康被害はほとんど確認されておらず、問われたのは、企業の倫理観であった。
消費者が企業により深い倫理観を求めるようになっている。
特に名の知れたホテルや百貨店のレストランの場合は、当然のことながら期待値も高い。
場合によっては、10~15%前後のサービス料も一律にとられる。
接客サービスの基準が上がり、ホテルや百貨店の側は、利用客の期待以上のものを提供する義務を負う。
ビールを注文しても発泡酒が出てくるような居酒屋で食材偽装が発覚しても、利用客は怒らなかった可能性もある。
何事も織り込み済みだからである。
ブランドを前面に出しているからこそ、問題が大きくなった。
現場の事情はどうか?
今回の場合、メニュー表作成時には、食材の原料原産地・銘柄や調理法をメニューやラベルに書いていたケースが多いようだ。
それが時間の経過とともに事実確認が疎かになり、事実と異なる食材の原料原産地・銘柄や調理法がメニューに記載されても気にならなくなってしまった。
「産地が違っていても、品質が悪くなく、口にして美味しければ、お客様の期待を裏切ることはない」という卸売業者の判断や仕入れ担当者の判断もあるだろう。
人の倫理観は時間の経過とともに薄れてやがて消えていく、といわれる。
「倫理観のフェーディング」と呼ばれる組織人の多くに見られる倫理観の欠如現象である。
メニューやラベルの表示が事実と異なっていた点について、企業の説明は、「行き違い」「誤認」「コミュニケーション不足」「悪意はなく誤表記だった」というものが多かった。
つまり、「偽装」ではなく「誤表記」だという説明である。
ユネスコの無形文化遺産に「和食」が仲間入りすることになったことでも理解できるように、日本人は食に対する意識が非常に高く、産地や銘柄に敏感だ。
それが、ご当地食材としてブランド化することになった。
しかし流通経路が複雑化し、食材の銘柄やブランドが溢れるようになって、責任の所在が曖昧になった。
川上から川下に至るすべての業者が誠実な態度でブランド管理に臨まなければ、ブランド価値は保てない。
どう対応するか?
水村氏は、原料原産地・銘柄や調理法の表示が法令で義務付けられていないものについては、メニューやラベルに「○○産」「○○肉」といった情報を載せなければよいのではないか、という。
「○○産」「○○肉」などを明記すれば、食材の原料原産地から流通・加工の全行程の詳細を調べ上げる必要性が出てくる。
「食品トレーサビリティーシステム」の導入も考えられが、食材のすべてを網羅できていないので、初めから、メニューやラベルに細かな情報を書かなければそれで済む。
基本は企業の倫理観の欠如であるが、それをしている人は、生活者・消費者でもある。
私はどちらかと言えば、「ビールを注文しても発泡酒が出てくるような居酒屋」でも構わないタチであるが、要は自分が旨いと思えれば、あるいはコストパフォーマンスに納得ができればいいのではないかと思う。
ブランド情報に依存し過ぎな生活を顧みることも必要ではないだろうか。
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